トウモロコシ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/23 08:54 UTC 版)
用途
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 1,464 kJ (350 kcal) |
70.6 g | |
デンプン 正確性注意 | 71.2 g |
食物繊維 | 9.0 g |
5.0 g | |
飽和脂肪酸 | (1.01) g |
一価不飽和 | (1.07) g |
多価不飽和 | (2.24) g |
8.6 g | |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(2%) 13 µg(1%) 99 µg |
チアミン (B1) |
(26%) 0.30 mg |
リボフラビン (B2) |
(8%) 0.10 mg |
ナイアシン (B3) |
(13%) 2.0 mg |
パントテン酸 (B5) |
(11%) 0.57 mg |
ビタミンB6 |
(30%) 0.39 mg |
葉酸 (B9) |
(7%) 28 µg |
ビタミンE |
(7%) 1.0 mg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 3 mg |
カリウム |
(6%) 290 mg |
カルシウム |
(1%) 5 mg |
マグネシウム |
(21%) 75 mg |
リン |
(39%) 270 mg |
鉄分 |
(15%) 1.9 mg |
亜鉛 |
(18%) 1.7 mg |
銅 |
(9%) 0.18 mg |
セレン |
(9%) 6 µg |
他の成分 | |
水分 | 14.5 g |
水溶性食物繊維 | 0.6 g |
不溶性食物繊維 | 8.4 g |
ビオチン(B7) | 8.3 µg |
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[73]。実際の栄養価は、栽培条件、生育環境、収穫時期、品種などで異なるため記載されている値は代表値である。別名: とうきび | |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
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トウモロコシの果実は食用され、栄養成分はでんぷん質が多く、ビタミンB1・B2、カリウム、たんぱく質、食物繊維などが含まれ、その他の有効成分としてキサントフィル、メラトニンなどが含まれる[38]。トウモロコシの外皮には食物繊維が多く、腸内コレステロールと結びつき体外へ排出する働きをするため、血管を若く保ち、動脈硬化の予防に役立つ[38]。また、トウモロコシの黄色い色素はキサントフィルに由来し、血管を軟らかく保つ効用がある。トウモロコシのひげは、南蛮毛といわれ、昔から急性腎炎のむくみをとるのに利用されている[76]。ひげの数がそのまま実の数になるため、ひげが多いものほど実がぎっしり詰まっており、茶色が濃いほど良く熟している[51][2]。
食用
果実は、主食食料、菓子、酒の原料として重要である[11]。乾燥したトウモロコシは穀類に分類される[77]。野菜として利用するのは甘味種(スイートコーン)の未熟果で[78]、主な旬は6 - 9月であるが[注釈 4]、鮮度落ちが早く、収穫後1日おくだけでも味、栄養素とも半減して風味が損なわれていく[17]。そのため、収穫した日のうちに茹でて、すぐに食べるか、3 - 4日程度ならば冷蔵保存できる[17]。生の果実の食べ方は、焼く、茹でる、蒸すなどして食べるほか、スープや和え物、炒め物、かき揚げにするなど利用法は多岐にわたる[27][13]。加工品としては、粉食用のコーンミール、コーングリッツ、コーンフラワー、コーンスターチなどがあり、いずれも菓子パンや料理に幅広く使われる[3]。
トウモロコシの栽培化が行われたメソアメリカでは、トウモロコシは古来重要な主食作物であった。乾燥した種子は石灰を加えた水で煮てアルカリ処理してからすり潰し、マサという一種のパン生地に加工して、各種の調理に用いられた。代表的なものが、メキシコで食される、薄く延ばして焼いた無発酵パンの一種であるトルティーヤ[3]、あるいはマサを他の具材と主に植物の葉で包んで蒸したタマルである。このアルカリ処理は、現在ではニシュタマリゼーションと呼ばれている。南米のアンデス地域では、アルカリ処理せずに粒のまま煮て食べることが多い。この地域での主食作物はジャガイモなどの各種芋類がより重要で、トウモロコシは先述のような煮て食べる以外に、発芽させたものを煮て糖化させ、さらに発酵させてチチャという酒にすることが多い[79]。
古くから小麦、雑穀などを製粉して利用してきたヨーロッパやアジア、アフリカなどにトウモロコシが導入されると、やはり製粉して調理されるようになった。米国のコーンブレッドのように水でこねて焼くもの、イタリアのポレンタや東欧のママリガ、東アフリカのウガリやンシマなどのように煮立った湯の中に入れて煮ながらこねあげ、粥や固形状にするもの、中国のウォートウ(窩頭)のように蒸しパン状にするものなどがある。
現代の日本ではこうした主食としての利用はあまりなじみがない。高度経済成長以前には、山梨県の富士北麓地方など[80]米の収穫量の少ない寒冷地や山間地では、硬粒種のトウモロコシの完熟粒を粒のまま、あるいは粗挽きにしたものを煮て粥にしたり、石臼で製粉しておやきを作るなどして利用していた地域も少なくなかった。
未熟な穂は、焼いたり茹でたりすることで野菜として利用される。こうした用途には甘味種が供されることが多い。野菜として少々特殊なものにベビーコーン(ヤングコーン)がある。これは生食用甘味種の2番目雌穂を若どりして茹でたもので、サラダや煮込み料理などに用いられる。さらに特殊なものとして、メキシコではクロボキン類の一種であるトウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)に感染した穂(菌えい)を「ウイトラコチェ(Huitlacoche)」と呼んで食用とした[81][82]。
そのほか、食材としての利用は多岐にわたり、コーンスープ(西洋料理のコーンポタージュ、中華料理の玉米羹・粟米羹)、バターコーン、ポップコーン、コーンフレークなどにする。またコーンパフとしてスナック菓子の原料としても多く用いられている。南アフリカを中心とした南部アフリカではトウモロコシの粉を乾燥させたミリミルを、水や湯で溶かしてから、煮たパップ(pap)という白いマッシュポテトのような、餅と粥の間の食感のものが主として黒人層での主食である。パップはトウモロコシの成分が濃縮しており、7割以上が糖質のため、これらの地域の肥満の原因の一つでもある。若干発酵させたものはサワーパップと呼ばれる。
飲用としては、ビールやウイスキー(主にグレーン・ウイスキーやバーボン、アメリカン・ウイスキー、テネシー・ウイスキー)など、アルコール飲料の原料となる他、焙煎したトウモロコシを煮だしたコーン茶もある。紫トウモロコシで作られたチチャモラーダ(スペイン語: chicha morada)というアルコール分のないジュースもある。
-
茹でたトウモロコシと茹でる前のトウモロコシ
栄養価
主食として食べられるほど炭水化物(デンプン)が多く、野菜としては高カロリーで、食物繊維が多く、ビタミンB1・B2・E、カリウムなどの各種栄養素がバランス良く含まれている[51][2]。トウモロコシの一粒一粒を包んでいる皮はセルロースという不溶性の食物繊維で、その含有量はサツマイモの4倍に相当し[51]、便秘や大腸がんの予防に役立つ[2][77]。胚芽部分に含まれるリノール酸は、悪玉コレステロール値を下げて動脈硬化予防に役立つといわれている[51][2]。ただし、表皮は消化が悪いため、胃腸の弱い人は食べ過ぎると下痢を起こすこともある[77]。ビタミン類ではビタミンB1が豊富で、糖質をエネルギーに変えるときに働くビタミンとしても知られる[77]。ビタミンEが豊富と書かれている文献もあるが、特筆するほどビタミンEが多いわけではない[77]。野菜の中ではリンを多く含んでいる[77]。
トウモロコシの種実には、体内で合成できない必須アミノ酸の一つトリプトファンが少ない。そのため、古来よりトウモロコシを主食とする地域の南アメリカ、米国南部、ヨーロッパの山間地、アフリカの一部などでは、トリプトファンから体内で合成されるビタミンB群の一つナイアシンの欠乏症であるペラグラ(pellagra、俗にイタリア癩病)にかかりやすく、現在でもこれが続いている地域がある。なお原産地であるメソアメリカでは、古来より前述のアルカリ処理を行うことで欠乏症を防いでおり、ペラグラとは無縁である[83]。
食用外
果実(種子・胚芽)
トウモロコシの実は、人間の食用としての他、畜産業での飼料として大量に消費されている。そのほか、デンプン(コーンスターチ)や、サラダオイルなどに用いられるコーン油の供給源としても利用されている。2007年度には、家畜の飼料用が世界総消費の64%、コーンスターチ製造やコーン油などに用いられる工業用が32%を占めた。また、鯉や黒鯛等を釣る釣り餌としての需要もある。
トウモロコシからは効率よく純度の高いデンプンが得られるため、工業作物としても重要な位置を占める。胚乳から得られるデンプンは製紙や糊などに使用される他、発酵によって糖やエタノールなど、様々な化学物質へ転化されている。こうして作られるコーンシロップは甘味料として重要である。近年では環境問題や持続的社会への関心から、生分解性プラスチックであるポリ乳酸や、バイオマスエタノールとしてブラジルでは自動車燃料などへの用途も広がりつつある。
また、アメリカ合衆国では、飼料用のトウモロコシの実を燃料にする暖房用ペレットストーブが、コーンストーブと呼ばれて製造販売されている。
特にアメリカでは、バイオマスエタノールの原料として注目されて価格が急騰し、2008年にはアメリカ国内需要の3割を占めるようになり、大豆からの転作も進んでいるが、大豆や小麦に比べて成長に水を消費するため、一部の地域で水資源の不足が問題になりつつある[84]。また、エタノール相場とトウモロコシ相場のミスマッチや輸送供給のためのインフラの不整備によって起こる採算の悪化や[84]、エタノールに対応する機種が少ないことなどからバイオマスエタノール用の需要が伸び悩み、供給過剰によって生産されたエタノールの価格がガソリン価格の暴騰にもかかわらず横ばいを続けているなどの問題もある[85]。
果実は、胃腸の調子を整える薬効がある玉蜀黍(ぎょくしょくしょ)と称される生薬にもなり、茹でて食される[5]。胚芽から搾った脂肪油は、薬の溶剤や軟膏の基剤としての利用もある[11]。
そのほか、文化的な用途としては、「インディアンコーン」とも呼ばれるフリントコーン種が北米の感謝祭の間(または収穫期の間)、ドアやテーブルに飾るなどする習慣がある[86][87][88]。
軸
実を取ったあとの軸(コブ)は、合成樹脂材料のフルフラールやフルフリルアルコール、甘味料のキシリトールなどの製造原料となる。粉砕した粉はコブミールと呼び、キノコの培地[89]、建材原料、研磨材などにも利用されている。
芯が柔らかく円筒形に加工しやすいことから、喫煙具(コーンパイプ)として用いられる[90]。第二次世界大戦戦後処理で連合国軍最高司令官総司令部総司令官の任についたダグラス・マッカーサーの写真でしばしばコーンパイプを手にした姿を見ることができる。現在のコーンパイプは、1946年に芯を使うことを目的として開発されたコーンパイプ用の品種を材料にして作られている[90]。
茎・葉
茎や葉は家畜飼料やすき込みの肥料(堆肥)の材料に役立てられ、そのために栽培される青刈りのトウモロコシもある[3]。抜いた後放置し、枯れたものを裁断して土にすき込み、肥料として利用することもできる。
種子が硬く色彩の美しいものは包葉を取り除くかバナナ皮のように剥いて乾燥し、観賞用とする。取り除いた包葉も繊維、あるいは布の代用とされることがある(包葉を使ったバスケットなど)。
青森県十和田市では、トウモロコシの皮(きみがら)で「きみがらスリッパ」が編まれている[91]。
花柱
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めしべの花柱(ひげ)が褐色になって乾燥したときに採取して天日乾燥したものは、玉蜀黍蕊(とうもろこしずい)、玉米鬚(ぎょくべいしゅ)といい、日本では南蛮毛(なんばんもく/なんばんもう)として流通する生薬で、利尿作用がある[5][11]。この利尿作用は、南蛮毛に多く含まれるカリウムによるもので[76]、塩分と結びつき体外に排出されることから、むくみとり、血糖値の安定に役立ち、カロリーがなくダイエット茶(トウモロコシのひげ茶)としても飲まれる[13]。南蛮毛は、初版の『日本薬局方』に収載されていた利尿薬「酢酸カリウム」の代用として考え出された[92]。民間療法では、利尿、急性腎炎、妊娠浮腫、膀胱炎に、蕊(ずい:ひげ状の部分)5 - 10グラムを水300 - 600㏄で煎じて、1日3回に分けて服用する用法が知られている[11]。
現代中国の研究では、降血糖作用、胆汁分泌作用、止血作用などが確認され、これら効用のため、糖尿病や肝炎、尿道結石、鼻血の薬として利用されている[76]。
注釈
出典
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