ダカール・ラリー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/09 14:00 UTC 版)
参加車両
2023年現在、以下の7つの部門に分かれている。それぞれの部門に最大速度が設定されている。
AUTO/CAR
3,500kg未満の四輪車のための部門。グループT1〜T4までが存在する。このうちグループT3・T4は別部門としても争う(後述)。
グループT1
改造範囲が極めて広い、事実上のプロトタイプカー。俗称として「アンリミテッドクラス」と呼ばれることもある。FIAグループⅡ「競技車」に属し、「改造クロスカントリー車」と定義される。最大時速制限は170km/h。
シャシーは年間1,000台以上生産される車両、または単一製造の鋼鉄製パイプフレームを使用する。エンジンはグループA、GT(2012年GT公認規定)、T2のいずれかの規定で公認のある量産車用エンジンが使用可能できるが、吸気リストリクターにより最大出力は400馬力程度に制限される。南米開催時代に北米オフロードレースの車両を呼び込むため、二輪駆動車は規則が非常に緩く設定されていた(排気量次第で重量を数百kg軽くできる、タイヤを130 mm太くできる、コックピットからタイヤの内圧調整ができるなど)。これに目をつけたプジョー、ついでMiniが二輪駆動のバギーで幾度も優勝を収めている。しかしメーカーたちの協議の末、2022年から四輪駆動の規制を緩和したグループT1+が発足し、以降は四輪駆動がメインになる方針に変わっている。
2022年に電動車両などのためのT1.U(T1.アルティメット)が発足。2023年からT1+のディーゼル車両には、水素化植物油(HVO、バイオディーゼル燃料の一種)の使用が義務付けられる。T1.UとT1+の間には各チームの合意のもとにEOT(Equivalence Of Tecnology、技術同等性。性能調整とは異なる)が形成されており、FIAが収集したデータを元に、開催日程の途中でも最大出力の調整が入る場合がある[22]。
- T1.U - 「グループT1アルティメット」。ハイブリッド、EV、水素などのカーボンニュートラルに向けた動力を用いる車両。最低重量はT1+よりも重く設定されている。
- T1+ - 4×4(四輪装着・四輪駆動)のガソリン・ディーゼル車。T1.1よりスペック的な強化が可能となっている。
- T1.1 - 4×4(四輪装着・四輪駆動)のガソリン・ディーゼル車。
- T1.2 - 4×2(四輪装着・後輪駆動)のガソリン・ディーゼル車。
- T1.3 - バハ1000など北米オフロードレースを主催するSCOREインターナショナルの規則に合致した車両。旧称は「グループOP」「グループT1.5」など。
- T1.4 - ホモロゲーション期限の切れたグループT2車両。
グループT2
四輪駆動、あるいはそれ以上の駆動輪を持つ量産車のためのクラス。FIAグループⅠ「量産車」に属し、「量産クロスカントリー車」と定義される。最大制限時速は170km/h。
年間1,000台生産されている車両がホモロゲーション対象。T1とは逆に改造範囲が極めて狭く、安全装備や粉塵対策、アンダーガードなど最低限のボディ補強しか認められない。エンジン出力は300馬力程度に制限される。日本では以前「市販車無改造部門」と紹介されていたが、現在はグループT1が市販車改造部門からプロトタイプへと発展したため、「市販車部門」と紹介されることが多い。ガソリンエンジン車について過給器は禁止されている。長きに渡りトヨタ・ランドクルーザーが支配している。
このほか、女性や初参加者 (Trophée 1ère Participation) にも別に競技クラスが用意されている。
Camion/Truck
1980年に創設された、3,500 kg以上の車両(=トラック)のための部門。グループT5と呼ばれる規定で、量産車のT5.1、改造車のT5.2、競技中に後方から支援を行うサポートトラックのためのT5.3[注釈 2]の3つに分けられている。なお2020年まではそれぞれ"グループT4(T4.1、T4.2、T4.3)"と呼ばれていたが、後述のSSVがその名を譲り受けたため、T5を名乗るようになっている。FIAグループⅢ「トラック」に属し、「クロスカントリートラック」と定義される。最大時速制限は140km/h。
駆動形式が6×6、天然ガスやハイブリッド車などの特殊動力源車両、初参加者はそれぞれ別に競技クラスが用意される。排気量10 L未満の車両用のクラスもあったが、エントリーが日野自動車と2~3台のプライベーターしかおらず、2021年を最後に消滅した。代わりに2023年からは電動車両のためのT5.Uクラスが発足した。
Moto/Bike
自動二輪車両の部門。全車両最大排気量450cc、気筒数は1~2に制限されている。ライダースーツにはエアバッグの装着が義務付けられる。。ライダーはグループ1(エリートクラス)とグループ2(ノンエリートクラス)に分かれ、総合トップ10フィニッシュまたはステージウィン経験者は黄色いゼッケンのエリートクラスに強制的にカテゴライズされる。
車両は以前はプロトタイプまたは大規模に改造された市販車を用いるクラス1(スーパープロダクション)と、小規模改造の市販車であるクラス2(マラソン)に分けられており、エリートクラスはクラス1車両のみが使用可能だった。2022年から世界ラリーレイド選手権発足に伴い、同選手権の規定であるRally GPが導入され、旧クラス1はRally 2、旧クラス2はRally 3へと改称されている。最大時速制限は160km/h、Rally 3のみ130km/h。
この他女性ライダー、初参加者のための賞典も用意されている。
Quad
2009年にMOTO/BIKE部門から独立した全地形対応車(四輪バイク、ATV)のための部門。FIMのグループ3と呼ばれる規定で、二輪駆動・単気筒・最大750 ccのグループ3.1と、四輪駆動・2気筒・最大900 ccのグループ3.2に分けられている。最大時速制限は130km/h。
部門創設から2021年現在までの全ての開催でヤマハ発動機の二輪駆動車が部門制覇を収めている。初参加者、女性にも賞典が用意される。
ORIGINAL by MOTUL
通称「Malle Moto(マルモト)」。バイク・クアッド部門のうちサポートスタッフを一切雇わず、運営からの一定のサポート以外は全て自分一人で行うアマチュア競技者のための賞典。イベント中、エンジンオイルの解析サービスを行っているモチュールが協賛している。
Light Weight Prototype
「Light Weight Vehicle」とも呼ばれる。公式の略称は「LW Proto」。従来は後述のS×Sクラスに含まれていたが、2021年に市販SSVをベースとしない、競技専用設計の軽量プロトタイプバギーのグループT3が一部門として独立した。AUTO部門より安価に参戦できるため、プライベーターからの人気が高い。またAUTO部門へステップアップしたい若手の修行の場でもある。
グループT3
ベースのシャーシ・モノコックについて最低生産台数を必要としない、軽量なプロトタイプバギーの規定。FIAグループⅡ「競技車」に属し、「改良された軽量プロトタイプクロスカントリー車」と定義される。最大制限時速は135km/h。
4×4または4×2の鋼鉄製パイプフレームシャーシで、紫背景のゼッケンを用いる。最低重量は900 kg。最大気筒容積は過給器の有無に関わらず1,050 cc以下。エンジンは搭載位置は自由だが、250台以上が製造された、一般向けに市販されているものを無改造で用いなければならない。また過給器付きの場合は27mm径吸気リストリクターの装着が義務付けられる[23]。
従来はグループT3.1~T3.3オープンの4クラスに細かく規定されていたが、新生グループT4の発足に伴い2021年から"グループT3"のみとなっている。2023年からは電動車両のためのT3.Uクラスが発足した。
SSV
2017年にAUTO/CAR部門から独立した、SSV(サイド・バイ・サイド・ビークル)を主とする軽車両のための部門。従来は「芝刈り機」などと揶揄されて軽視され[24]、軽量プロトタイプバギーと市販SSVが混走していたが、2010年代後半の人気の高まりとともに2021年から市販SSVを改造するグループT4のクラスが独立した。かつての部門名は「UTV」や「S×S」であったが、2021年以降は「SSV」で統一されている。市販車と市販部品で参戦できるためLight Weight Prototypeよりも更に低コストで、アマチュアドライバーからの人気が高い。
グループT4
連続する12ヶ月の間に250台[注釈 3]が生産された、SSVを用いる規定。FIAグループⅡ「競技車」に属し、「改良された軽量なシリーズクロスカントリーSSV」と定義される。最大制限時速は125km/h。
エンジンは仕様・搭載位置ともに市販状態から改造できない。最大排気量は過給器付きの場合は1,050cc、過給器無しの場合は2,000cc。最低重量は過給器付きエンジンの場合は900 kg、過給器無しの場合は800kg。ただし過給器無しでも1,050 ccを超える排気量の場合は1,050kgとなる。過給器無しで1,050cc超または過給器付きの場合は25mm径、過給器無しで1,050cc以下の場合は26mm径のエアリストリクターの装着がそれぞれ義務付けられる[25]。白背景のゼッケンを用いる。
Dakar Classic
2021年に創設された部門で、2000年までにパリ-ダカールラリーに参戦した旧車の四輪・トラックが対象。勝敗は他の部門と異なり、各ステージに設定された平均速度をどれだけ維持できるかで争われる。またステージも、他部門とは違う専用のルートが設定される。
グループT1のプジョー・2008 DKR
グループT2のトヨタ・ランドクルーザープラド
過去の規定
開催初年度は部門分けがなく、総合順位に二輪も四輪もトラックも混ざり合っているような状態であった。
2年目以降もしばらくは二輪車と四輪車にカテゴリー分けされている程度であり、ナンバープレートが取得可能な車両であればどのような車両であっても大抵の場合は参加することが可能であった。そのため参加車両には、街中を走るごく普通の市販車を改造したものもあり、たとえば二輪部門ではスーパーカブやベスパ、四輪部門ではトヨタ・カリーナやカローラレビンも参加したことがある。逆に自動車メーカーのグループBを筆頭とする先鋭化したラリーカーや完全なプロトタイプカー、軍用車両の流用などもあった。
二輪は2000年代の半ばまで1リッターに近い大排気量が多数投入されたが、危険であるとして2005年に最大時速は150km/h、2気筒エンジンの排気量は450ccに制限され、2009年の南米開催以降では単気筒も450ccまでとなった。後者の変更はKTMが反発し、一時期ワークス参戦から撤退していた[26]。
グループTは最初は、グループT1が市販車無改造、グループT2が市販車改造、グループT3がプロトタイプという区分けであった。1997年にメーカー系のワークスチームはグループT3で参戦することを禁じられ、同時に過給器付きガソリンエンジンも禁止となった[27]。これによりガソリンNAエンジンの市販改造車のほか、ディーゼルターボエンジンを採用するチームが多く登場した。なお三菱は1999年から、メーカー直系ではなく販社系チームからの参戦ということでプロトタイプでの参戦を認められており、規則は半ば形骸化していた[28]。
2002年から市販車無改造は名称のみの変更で「プロダクション」、グループT2とグループT3は統合される形で「スーパープロダクション」となり、メーカーによるプロトタイプカーが解禁となった[29]。これにより当時三菱のみだったワークス勢にBMW、日産、フォルクスワーゲンが加入することになった。
2008年時点の大まかなクラス分けは下記のとおりで、更に燃料の種類や排気量で細分化されていた。
- プロダクション(無改造の市販車:二輪・四輪共通)
- スーパープロダクション(市販車ベースの改造車および競技専用車。バギーを含む:二輪・四輪共通)
- カミオン(トラックベース)
- エクスペリメンタル(サイドカーや三輪・四輪のATVなど)
注釈
出典
- ^ a b 菅原 2009, p. 38.
- ^ a b c 菅原 2009, p. 39.
- ^ a b Carles 2007, p. 3.
- ^ “ダカール・ラリー | モータースポーツ | 三菱自動車のクルマづくり | MITSUBISHI MOTORS”. 三菱自動車工業株式会社. 2021年8月14日閲覧。
- ^ a b Carles 2007, 1986.
- ^ a b Carles 2007, 1982.
- ^ Racing on 418, p. 14, 三菱自動車にとってのパリダカ.
- ^ Carles 2007, 1985.
- ^ Racing on 418, p. 23, インタビュー 夏木陽介.
- ^ Racing on 418, p. 44, 三菱パリダカマイスター Part 1 篠塚建次郎.
- ^ a b Carles 2007, 1987.
- ^ Racing on 418, p. 58, 対峙したライバルたち.
- ^ Racing on 418, p. 59, 対峙したライバルたち.
- ^ Carles 2007, 1988.
- ^ Carles 2007, 1992.
- ^ 「ダカール・ラリー2008、全面中止」。2008年1月5日、スラッシュドット ジャパン。2008年1月5日閲覧。
- ^ “パリ・ダカ、サハラ砂漠を走らない? 主催者幹部が発言”. 朝日新聞. (2008年1月5日). オリジナルの2008年1月8日時点におけるアーカイブ。 2008年1月6日閲覧。
- ^ “パリダカの代わりに、中欧舞台の新ラリー4月開催”. 産経新聞. (2008年2月4日)[リンク切れ]
- ^ “パリ・ダカ、来年は南米での開催が決定”. 日刊スポーツ. (2008年2月12日) 2011年2月16日閲覧。
- ^ “三菱自動車、ダカールラリーのワークス活動終了について” (プレスリリース), 三菱自動車工業株式会社, (2009年2月4日) 2020年2月2日閲覧。
- ^ “大会前に爆発事故発生のダカール・ラリー、仏外務大臣は中止の可能性を示唆。主催者側は「安全第一で競技を優先」と否定”. jp.motorsport.com (2022年1月8日). 2023年1月17日閲覧。
- ^ WHY AUDI’S DAKAR POWER INCREASE ISN’T CONTROVERSIAL
- ^ / APPENDIX J – ARTICLE 286
- ^ SSV: CAN-AM AT THE HELM
- ^ 2023 ANNEXE J / APPENDIX J – ARTICLE 286A
- ^ KTM PULLS OUT OF PARIS-DAKAR: The New 450cc Rules Makes All Of KTM’s Exotic Rally Bikes Illegal; KTM Will Race Other Rally’s, Just Not Dakar
- ^ 三菱、史上初のトップ4独占 篠塚建次郎、日本人初のパリダカ総合優勝
- ^ 変化の見えはじめたパリダカ ニューヒロインの誕生をもたらした三菱
- ^ 前回大会の雪辱を遂げ、増岡 浩が完全優勝
- ^ 菅原 2009, p. 40.
- ^ 斬新なデザインと数々の装備を備えたランドスポーツ車「ホンダ XL250Rパリ・ダカール」を発売 - 本田技研工業。
- ^ 1981-1989 Honda パリ・ダカールラリー参戦記 - 本田技研工業。
- ^ オフロードマニア 第4節 もうひとつの記号“テネレ” - ヤマハ発動機。
- ^ “ラリー界に激震!三菱がパリダカから撤退”. 日刊スポーツ. (2009年2月5日) 2017年12月21日閲覧。
- ^ “日産自動車 ワークス体制で2003年ダカールラリーに参戦”. NISMO (2002年10月4日). 2017年12月21日閲覧。
- ^ “日産、ダカール・ラリーのワークス活動を1年前倒しで休止”. webCG (二玄社). (2005年3月4日) 2017年12月21日閲覧。
- ^ “ダカールラリー:2019年大会でトヨタが初の総合優勝。ハイラックス駆るアル-アティヤが通算3勝目”. オートスポーツWeb. (2019年1月18日) 2019年1月18日閲覧。
- ^ “ラリーレポート”. 2019年8月21日閲覧。
- ^ “REPORT-STAGE14”. 2019年1月19日閲覧。
- ^ “ラリーレポート”. 2019年1月19日閲覧。
- ^ Honda Buggy neemt opnieuw deel aan Parijs – Dakar
- ^ “日本人の歴代出場者”. パリダカ日本事務局. 2020年7月22日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2012年3月10日閲覧。
- ^ “二十一世紀に夢を:::冒険的趣向集団 Team ACP:::”. 2017年12月19日閲覧。
- ^ “ダカールラリー 取材同行の旅No.3”. GAZOO.com (2016年). 2017年12月19日閲覧。
- ^ a b c d ASO 2019, 1997.
- ^ a b ASO 2019, 2002.
- ^ a b ASO 2019, 2003.
- ^ “プロフィール”. 2021年10月11日閲覧。
- ^ “これぞ男の夢! 著名なジムニーフリークが建てた「尾上茂のジムニー歴史館・JIMNY MUSEUM ONOUE SHIGERU」 | トヨタ自動車のクルマ情報サイト‐GAZOO”. 2021年10月11日閲覧。
- ^ ASO 2019, 2000.
- ^ a b ASO 2019, 2004.
- ^ “jun38c.com”. 2012年3月10日閲覧。
- ^ “"日野チームスガワラ"、さらなる高みを目指した新チーム体制を発表” (プレスリリース), 日野自動車, (2019年6月3日) 2020年1月7日閲覧。
- ^ ASO 2019, 1982.
- ^ ASO 2019, 1998.
- ^ ASO 2019, 1999.
- ^ a b ASO 2019, 2006.
- ^ ASO 2019, 2001.
- ^ “木下博信 プロフィール”. 2021年10月11日閲覧。
- ^ ASO 2019, 2007.
- ^ 原田真人 『砂漠のレーサーたち パリ・ダカール最前線』早川書房、1986年、75頁。ISBN 4152033215。
- ^ “PARIS-DAKAR 15,000 栄光への挑戦”. Movie Walker. 2017年12月19日閲覧。。
固有名詞の分類
- ダカール・ラリーのページへのリンク