ゼアーズ・プレンティ・オブ・ルーム・アット・ザ・ボトム ゼアーズ・プレンティ・オブ・ルーム・アット・ザ・ボトムの概要

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ゼアーズ・プレンティ・オブ・ルーム・アット・ザ・ボトム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/20 02:16 UTC 版)

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この講演において、個々の原子を直接操作して化学合成を行うという画期的なアイディアが初めて提示された。当初この講演は注目を得られず、ナノテクノロジーという概念の形成に直接寄与することはなかった。しかし1990年代に再発見されてからは、ファインマンの威光もあってか、ナノテクノロジー研究の嚆矢として位置づけられるようになった。

ファインマンの創案

本講演では原子スケールの物質操作が可能にするはずの斬新な発明がいくつも提示された。演算回路を極度に高密度化したコンピュータや、走査型電子顕微鏡の限界を超えるほど微小な物体を観察できる顕微鏡などである。これらの二つのアイディアは、走査型トンネル顕微鏡をはじめとする走査型プローブ顕微鏡や、IBMが開発したミリピード英語版のような記憶システムによって後に実現した。

ファインマンはまた、「望みのままに原子を配列」できるようなナノスケールの機械により、機械的な操作を通じて化学結合をコントロールすることが原理的に可能だと指摘した。

彼はまた、彼が指導する大学院生で友人でもあったアルバート・ヒッブスが発案したという服用医師のアイディアを紹介した。微小なロボットを飲み込み、体内で外科手術を行わせるというものである。

ファインマンは一つの思考実験として、人間の両手と同じ働きをする1/4スケールのロボットアームを製造するよう提案した。ロボットアームを操り、その製造に必要だった加工ツールと同じものを1/4スケールで組み立てたとする。1/4スケールのアームと加工ツールを用いて新たなロボットアームを製造すれば、そのスケールはさらに1/4倍となる。このようにして、同期して動く10セットのロボットアームを1/16スケールで製造したとしよう。この過程を繰り返していけば、数えきれない微小な超並列ロボットアームからなる原子サイズの工場ができあがる。このような縮小過程をファインマンはパンタグラフに例えた。サイズが小さくなるにつれてツールは設計しなおす必要がある。その理由は各種の力の相対的な強さが変わってくるためである。重力は重要ではなくなり、表面張力の効果は強くなり、ファンデルワールス引力を考慮しなければならなくなる。この種のスケール効果についてもファインマンは言及している。この思考実験を現実化しようとする試みはまだないが、生物学の分野では酵素と酵素複合体(特にリボソーム)がファインマンの想像に近いやり方で化学合成を行っている[要出典]。なおこの講演に先立って、SF作家ロバート・A・ハインラインが1942年の中編小説『ウォルドウ』[3]: Waldo)で同様のアイディアを発表していたが、せいぜいμmスケールまでであった[4][5]

懸賞金問題

講演を締めくくるにあたって、ファインマンは二つの懸賞金問題を出し、それぞれに1000ドルの懸賞金をかけた。第一の問題は微小なモーターを作製するというものだったが、翌年11月、工作に長けた技師ウィリアム・マクレランが普通の工具を用いてあっけなく実現してしまった。マクレランのモーターは基準をクリアしていたものの、特に革新的な技術は使われていなかった。第二の問題は本の1ページを一辺1/25000に縮小して記録するというもので、これが可能ならブリタニカ百科事典全巻をピンの頭に印刷できることになる。1985年、スタンフォード大学の大学院生トム・ニューマンが『二都物語』冒頭の段落を1/25000に縮小して懸賞金を獲得した[6][7]


  1. ^ Drexler, Eric (2009年12月29日). “"There's Plenty of Room at the Bottom”(Richard Feynman, Pasadena, 29 December 1959)”. 2016年4月22日閲覧。
  2. ^ ナノテクノロジーの歴史”. ナノテクジャパン (2013/7/2(更新)). 2016年4月23日閲覧。
  3. ^ ハインライン, ロバート A.『魔法株式会社 ハインライン傑作集 3』498、冬川 亘訳、早川書房〈ハヤカワ文庫 SF〉、1982年。ISBN 978-4150104986
  4. ^ a b Milburn, Colin (2008). Nanovision: Engineering the Future. Duke University Press. ISBN 0-8223-4265-0 
  5. ^ Regis, Ed (1997). Nano. Bantam. ISBN 0-553-50476-2 
  6. ^ Feynman, Richard Phillips; Sykes, Christopher (1995). No Ordinary Genius: The Illustrated Richard Feynman]. W. W. Norton & Company. p. 175. ISBN 9780393313932. https://books.google.com/books?id=1HxzLaPYo2IC&pg=PA175&lpg=PA175 
  7. ^ Gribbin, John (1997). Richard Feynman: A Life in Science. Dutton. p. 170 
  8. ^ Toumey, Chris (2005). “Apostolic Succession”. Engineering & Science 68 (1): 16-23. http://calteches.library.caltech.edu/4129/ 2016年4月23日閲覧。. 
  9. ^ Toumey, Chris (2008). “Reading Feynman into Nanotechnology: A Text for a New Science”. Techné 12 (3): 133-168. http://scholar.lib.vt.edu/ejournals/SPT/v12n3/toumey.pdf 2016年4月23日閲覧。. 
  10. ^ Hapgood, Fred (November 1986). “"Nanotechnology" / "Tinytech"”. Omni: 56. 
  11. ^ Drexler, Eric (2009年12月15日). “The promise that launched the field of nanotechnology”. Metamodern: The Trajectory of Technology, Eric Drexler's blog. 2016年4月26日閲覧。
  12. ^ “Remarks at the California Institute of Technology, January 21, 2000”. Public Papers of the Presidents of the United States, William J. Clinton, 2000-2001, Book 1, January 1 to June 26, 2000. National Archives and Records Administration. (2001). p. 96. ISBN 0-16-050845-2 
  13. ^ a b 【ニュース・アメリカ】米国ナノテク・イニシアティブ、2016年度予算額は約15億ドル”. 日本学術振興会 (2015年4月23日). 2016年4月26日閲覧。
  14. ^ Regis, Ed (2004/10). “The Incredible Shrinking Man”. Wired. http://archive.wired.com/wired/archive/12.10/drexler.html?pg=3 2016年4月23日閲覧。. 


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