スペインの言語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/04 14:30 UTC 版)
自治州[注釈 2] | 州公用語[注釈 2] | カスティ ーリャ語 |
州公 用語 |
両方 | 他 |
---|---|---|---|---|---|
カタルーニャ | カタルーニャ語、アラン語 | 55.0% | 31.7% | 3.8% | 9.6% |
ヴァレンシア | バレンシア語 | 60.8% | 28.8% | 9.5% | 0.8% |
ガリシア | ガリシア語 | 30.1% | 52.0% | 16.3% | 1.6% |
バスク | バスク語 | 76.1% | 18.8% | 5.1% | n/d |
バレアレス諸島 | カタルーニャ語 | 47.7% | 42.6% | 1.8% | 7.9% |
ナバーラ | バスク語 | 89.0% | 7.0% | 2.0% | 2.0% |
2005年に実施された言語調査によると、スペインの人口の89%がカスティーリャ語を母語としており、9%がカタルーニャ語あるいはバレンシア語[注釈 2]を、5%がガリシア語を、1%がバスク語を母語とし、3%のものがそれら以外の外国語を母語としている(スペインへの移民の結果)[2]。
スペインで話されている土着語のうち、孤立言語であるバスク語を除くすべてはインド=ヨーロッパ語族に属するロマンス語の下位グループのイベロ・ロマンス語に属する言語である[注釈 3]。
カスティーリャ語
カスティーリャ語(castellano)またはスペイン語(español)は全スペインにおける唯一の言語であり、スペインの住民の大多数の日常語であり、母語である。また、スペインはコロンビアと並んで、メキシコ、アメリカ合衆国に次いで世界第3位のスペイン語(カスティーリャ語)人口を持つ[3]。
カスティーリャ語はアストゥリアス州、カンタブリア州、ラ・リオハ州、アラゴン州、カスティーリャ・イ・レオン州、マドリード州、カスティーリャ=ラ・マンチャ州、エストレマドゥーラ州、アンダルシーア州、カナリア諸島州、ムルシア州、そしてセウタとメリージャ、その上ナバーラ州の大部分とヴァレンシア州[注釈 2]の内陸部のいくつかのコマルカにおいて唯一の公用語の地位にある。
また、カタルーニャ州、バラアース諸島州[注釈 2]、ヴァレンシア州の沿岸部、ガリシア州、バスク州、ナバーラ州のバスク語地域など州公用語としてカスティーリャ語以外の言語が使われる地域においても、州公用語とともに公用語の地位にある。カスティーリャ語はガリシア州を除くすべての二言語併用州においてそこの住民の過半数以上の母語であり、家庭での日常使用言語となっている。
このカスティーリャ語の優位性は中世にすでに始まっていた。レコンキスタの過程で、カスティーリャ王国(Reino de Castilla)が誕生し、やがてレオン王国やガリシア王国の版図をもその勢力下に統合(Corona de Castilla)し、イベリア半島において政治的、文化的、経済的に他を圧倒し始めた。その結果、カステーリャの文化的威信が高まり、もともとはカスティーリャのブルゴス周辺の言語に過ぎなかったカスティーリャ語が、当時ナバーラ・アラゴン語(Navarro-aragonés)と呼ばれた言語の話されていたアラゴン連合王国(Corona de Aragón)やナバーラ王国の版図においてさえも、16世紀から17世紀にかけて補助的な言語(行政、商業・貿易、情報伝達・通信、外交のための)として使用されるようになった。また20世紀後半には国内の人口移動がかつてなく激しくなり、そうすると、カスティーリャ語の共通語的性格もあったことにより、この優位性は国内の隅々にまで広がっていった。
州公用語
カタルーニャ語、バレンシア語
カタルーニャ語(català)はカスティーリャ語とともに、カタルーニャ州、バラアース諸島州の州公用語であり、同様にバレンシア語(valencià、言語学的にはカタルーニャ語の西部地域変種(方言)である)もカスティーリャ語とともにヴァレンシア州の州公用語とされる。
- カタルーニャ州においては主要な2地域変種(方言)が存在する。中部方言はバルセロナ県、ジローナ県、そしてタラゴナ県の東半分で見られる。レリダ県とタラゴナ県の西半分で話される地域変種は北西方言と呼ばれる。2008年にカタルーニャ自治州政府が実施した調査によると、カタルーニャ州ではカスティーリャ語を母語とするものが人口の過半数(およそ55.0%)で、カタルーニャ語を母語とする割合は31.6%で、約3.8%のものが両言語を母語としている[4]。また州人口の76%が居住するバルセロナ都市圏(アンビト・マトルプリター・ダ・バルサローナ)地域とカム・ダ・タラゴーナ地域ではカスティーリャ語が優勢で、自治州の残りの地域がカタルーニャ語優勢地域となっている。
- バラアース諸島州で話されるカタルーニャ語(バラアース方言[注釈 2])はカタルーニャ語東部方言の下位変種で、いくつか本土の言葉とかなり異なる特徴(定冠詞el/laがes/saとなることなど)があり、balear(発音: [bəɫəˈa] バラアー、バラアース方言、バラアース語)と呼ばれる。バラアース諸島自治州政府(Govern de les Illes Balears)が2003年に実施した調査によると、バラアース諸島ではカスティーリャ語は人口の47.7%の母語となっており、42.6%が、カタルーニャ語、そして1.8%が両言語を母語としている。パルマ・デ・マリョルカ都市圏とアイヴィーサ島(イビサ島)ではカスティーリャ語が優勢で、一方マノルカ島(メノルカ島)とマリョルカ島の農村部ではカタルーニャ語が支配的である。
- ヴァレンシア州では、伝統的にバレンシア語と呼ばれる、言語学的にはカタルーニャ西部の変種が話されている。19世紀から20世紀の間バレンシア語はカタルーニャ語とは別の言語か、カタルーニャ語の地域変種であるかというヴァレンシア言語対立が繰り広げられた。ヴァレンシア州は言語的には2つの地域に分けられる。カスティーリャ語単一言語地域(州の面積の25%の地域で、人口の13%が居住する)とバレンシア語/カスティーリャ語二言語地域(州の面積の75%の地域で、人口の87%が居住する)である。2003年のヴァレンシア自治州政府の調査によれば、二言語地域においては、人口の54.5%の人は主にカスティーリャ語を話し、36.4%の人は主にバレンシア語を話し、6.2%の人は両言語を同じように使う。[5]ヴァレンシア都市圏、アラカント=エルチェ都市圏、カステリョー・デ・ラ・プラーナ都市圏ではカスティーリャ語が優勢で、一方アラカント県北部、ヴァレンシア県南部、そしてカステリョー県の大部分ではバレンシア語が支配的である。
ガリシア語
ガリシア語(galego)はガリシア自治州においてカスティーリャ語とともに公用語となっている(スペイン1978年憲法第3条2項とガリシア自治憲章第5条)。ガリシア語は、中世において同一の言語共同体を形成していたポルトガル語とともに、カスティーリャ語と同様にイベロ・ロマンス語を構成する。事実、一部の少数派はポルトガル語との間に差異があるにもかかわらず、今日においてもポルトガル語との一体性を保持しようとしている(再統合主義Reintegracionismoと呼ばれる)。ガリシア語は南北の帯状の3つの主要な地域変種(西部、中部、東部)ブロックに分けられ、また各ブロックはその内部に下位変種地域を持つ。
ガリシア州では、ガリシア語が人口の52.0%の人々の母語となっており、カスティーリャ語は30.1%の人の、そして16.3%の人は両言語を母語とする。また、61.2%の住民は日常的にカスティーリャ語よりもガリシア語を使用し、一方38.3%の人はカスティーリャ語を日常的に使用する[6]。
また、都市部ではカスティーリャ語が多く話され、ガリシア語は農村・漁村・山間部などで多く話される。
バスク語
バスク語[注釈 4](euskara)はバスク州と、ナバーラ州の北部の州のおよそ3分の1の広さの地域で、カスティーリャ語とともに公用語の地位にある。また、バスク語自体は6地域変種(方言)euskalkiakに分けられ、中央部に位置する地域変種群をもとに共通バスク語(euskera batúa)が制定された。
- バスク州では、アラバ県のほぼ全域とビスカヤ県の西部地域ではバスク語が使われなくなって何世紀もたつのにもかかわらず、州全域でバスク語が公用語となっている。現在これらの非バスク語地域においても、州政府によって公立学校でのバスク語教育が推進されている。地域変種としては次のようなものがある:ビスカヤ県とアラバ県北部とギプスコア県西部で話されるビスカヤ方言(vizcaíno、bizkaiera);ギプスコア県の大部分の地域で話されるギプスコア方言(guipuzcoano、gipuzkera);ギプスコア県最東部で話されている高ナバーラ方言(alto-navarro、goi-nafarrera)。バスク自治州政府(Gobierno Vasco、Eusko Jaurlaritza)の2001年のデータによれば、バスク語は16歳以上人口の11.8%のものが家庭内での主要な言語として用い、5.2%のものが両言語を同じように家庭内で用いている。残りのおよそ83.0%のものは、家庭内でカスティーリャ語のみをもっぱら用いる。[7]
- ナバーラ州においては、バスク語は州北西地域にある自治体によって構成されている通称バスク語地域(zona vascófona、正式にはpredominio lingüístico oficial)と呼ばれるエリアにおいて、カスティーリャ語とともに公用語の地位にある。そこで話される言語は高ナバーラ方言(ナバーラ方言)に分類される。このバスク語地域の南部から東部に隣接して広がる地域は、そこの自治体によって混合地域(zona mixta)が形成され、それらの自治体ではバスク語の使用について便宜が図られている。そして残りの州の南半分の地域は非バスク語(no vascófona)地域で、そこは歴史的には、中世にロマンス語の一つであるナバーラ・アラゴン語が話され、後にはカスティーリャ語が話されるようになった地域である。2001年のナバーラ統計局のデータによると、ナバーラ州全体では、住民の7.0%がバスク語を、88.9%がカスティーリャ語を、そして2.1%が両言語を母語としている[8]。バスク州政府の家庭内でのバスク語の使用状況についてのデータによると、ナバーラ州の住民の4.8%が家庭内でバスク語を使用し、1.5%がバスク語とカスティーリャ語を同じように使用し、93.7%がもっぱらカスティーリャ語のみを使用している。
まとめると、バスク語はおよそ270,000人(0.67%)のスペイン国民によって、家庭内での主要言語となっており、120,000人(0.28%)のスペイン国民がバスク語とカスティーリャ語を家庭内で同じように使用している。
アラン語
アラン語(aranés、レリダ県の北西部に位置するバル・ダランで使用されるオクシタン語の一つガスコーニュ語の地域変種)はその地域の公用語で、2006年の新カタルーニャ自治憲章(Estatuto de autonomía de Cataluña de 2006)によって全カタルーニャにおける公用語となった。2001年の言語調査によれば、バル・ダランでは人口の38.78%がカスティーリャ語を母語とし、34.19%がアラン語を、19.45%がカタルーニャ語を母語とする[9]。アラン語を母語とするものはおよそ2,800人で、これはスペインの総人口の0.007%に当たる。
注釈
- ^ a b スペインでは母語(lengua materna)の定義が、日本でのものと若干異なる。スペインでは最初に自然に獲得した言語を言い、その後の環境等により必ずしも日常使用言語とならない場合もあり、第一言語でない場合も少なくない。日本での母語とは同じではないので注意が必要。ここでは最初に獲得した言語を意味している。
- ^ a b c d e f 州公用語を持つ自治州名と公用語名については、該当語に即した表記でも語形の差異があまりなく理解が容易であると思われるものは該当語に即したカナ表記を採用する。バレンシア(語)は該当語に即した表記(vとbを区別するため)のヴァレンシア(語)の表記を採用する。バレアレス諸島に関してもカタルーニャ語に即したカナ表記バラアース諸島を採用する。バスク(語)に関しては、該当語の現地語地名表記はEuskadi(エウスカディ)となり、日本語の言語名表記は地名+語とする慣習があるためエウスカディ(語)となると思われ、スペインでもこの語はスペイン語話者においても普通に使われるが、日本ではなじみがないため、従来通り、英語もしくはフランス語から入ったバスク(語)の表記を使う。ちなみにスペイン語に即した表記はバスコ(語)になる。ナバーラについてもNafarroa(ナファロア)という語はなじみがないため、スペイン語起源のナバーラを採用する。その他は該当語に即した表記も従来表記と変わらないのでそのままである。
- ^ カタルーニャ語に関してはガロ・ロマンス語に見られる特徴もあるため、ガロ・ロマンス語に分類する研究者も存在する。また、近縁の言語であるオクシタン語とともに、新たなグループを提唱する機関もある。
- ^ カスティーリャ語で使われる形:euskera、vasco、vascuenceなど様々な形式がある。
- ^ 4方言に分ける場合もある。アラゴン語の方言参照。
出典
- ^ Datos de lengua materna: Cataluña (2008), Baleares (2003), Galicia (2003), País Vasco (2001), Navarra (2001) y Comunidad Valenciana (2007).
- ^ a b Europeans and their Languages - Special Eurobarometer; resumen en castellano: [1] 調査は欧州委員会によって2005年11月、12月に実施された。スペインでは1,025名のものが面接調査に臨んだ。面接者は同時に様々な選択肢を選んだため、合計の数字は必ずしも100%にならない。
- ^ “Más 'speak spanish' que en España” (スペイン語). El País (2008年10月6日). 2012年5月17日閲覧。
- ^ “L'Enquesta d'usos lingüístics de la població 2008” (カタルーニャ語). Generalitat de Catalunya, Institut d’Estadística de Catalunya. 2012年5月18日閲覧。
- ^ 出典: [2], [3], de la Consellería de Cultura, es:Generalidad Valenciana. Encuesta de junio del 2005 donde se pregunta a 6.666 personas "¿Qué lengua es la que utiliza en casa?".
- ^ Instituto Gallego de Estadística. Personas según la lengua en la que hablan habitualmente. Año 2003
- ^ Uso del euskera entre los mayores de 16 años por ámbito. Encuesta lingüística 2001 - Departamento de cultura del gobierno vasco
- ^ Instituto de Estadística de Navarra. Censo de población 2001
- ^ “Cens lingüístic de l'aranès de 2001” (カタルーニャ語). Generalitat de Catalunya. 2012年5月17日閲覧。
- ^ Anteproyecto de la Ley de Lenguas de Aragón de 2001 Artículo 5.- Zonas de cooficialidad. a) Una zona de cooficialidad del aragonés, que incluye los municipios relacionados en el anexo I de la Ley, municipios que pueden ser declarados zonas de utilización predominante de su respectiva lengua o modalidad lingüística propia o zonas de utilización predominante del aragonés normalizado.
- ^ “La Academia de la Lengua Aragonesa empieza a tomar cuerpo con la elección de sus miembros” (スペイン語). Heraldo de Aragón (2011年5月8日). 2012年5月25日閲覧。
- ^ “LEY 10/2009, de 22 de diciembre, de uso, protección y promoción de las lenguas propias de Aragón, Boletín Oficial de Aragón núm. 252” (スペイン語). Gobierno de Aragónde (2009年12月30日). 2012年5月25日閲覧。
- ^ “LEY 3/1999, de 10 de marzo, del Patrimonio Cultural Aragonés, Boletín Oficial de Aragón núm. 36” (スペイン語). Gobierno de Aragónde (1999年3月29日). 2012年5月25日閲覧。
- ^ “Lei n.º 7/99 de 29 de Enero de 1999、Diário da República” (ポルトガル語). Governo da República Portuguesa (1999年1月29日). 2012年5月26日閲覧。
- ^ Llera Ramo, Francisco José (2003). II Estudio sociolingüístico de Asturias, 2002. Oviedo: Academia de la Llingua Asturiana. ISBN 84-8168-360-4
- ^ Encuesta de usos lingüísticos en las comarcas orientales de Aragón. Año 2003. Gobierno de Aragón - Instituto Aragonés de Estadística
- ^ Estadística de usos lingüísticos en la Franja de Aragón. Año 2004. Archived 2009年9月20日, at the Wayback Machine. Generalidad de Cataluña
- ^ Instituto Nacional de Estadística de España - Relación de unidades poblacionales
- ^ Manuel J. Sánchez Fernández: Apuntes para la descripción del español hablado en Olivenza, Revista de Extremadura, 23, 1997, pág. 110
- ^ 出典: Instituto Nacional de Estadística. Revisión del Padrón municipal 2006. Revisión del Padrón municipal 2006. Datos a nivel nacional, comunidad autónoma y provincia, Nacional Población extranjera por sexo, país de nacionalidad y edad (hasta 85 y más).
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