スペインの言語 地域変種(バリエーション)、孤立的言語

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スペインの言語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/04 14:30 UTC 版)

地域変種(バリエーション)、孤立的言語

ここでは言語変種、隣接言語との過渡的連続的地域変種、および支配的言語地域の中に(飛び地のように孤立的に)存在する言語について述べる。

カスティーリャ語の地域変種

スペイン国家内の主要な地域的変種(地域方言):

  • カスティーリャ語北部方言スペイン語版-北はカンタブリア州から南はアビラ県クエンカ県、東はアラゴン語やカタルーニャ語、西はアストゥリアス・レオン語地域にいたるエリアで話される。
  • アンダルシーア方言アンダルシーア州の大部分と、セウタメリージャなどでみられる多くの共通する特徴をもつスペイン語の地域変種の総称である。多くのアメリカ・スペイン語の特徴のかなりの部分が、アンダルシアの地域変種の中でも最も優勢である西アンダルシアでの地域変種(現在のウエルバ県セビリア県カディス県地域のもの)に由来すると考えられている。たとえばC音化(ceceo)/S音化(seseo)、音節末の/s/の気音化(aspiración)、<ch>(/ʧ/)の摩擦音化(fricativización)、内破的位置にある/l/と/ɾ/の同音化(r音化とl音化)などの特徴は、まずアンダルシーアにおいて記録に残され、これらはアメリカスペイン語の多くにおいても優勢なものとなっている。アンダルシーア方言はまず2つの下位方言:西部方言と東部方言にわけることができる。西部方言地域はウエルバ県、セビリア県、カディス県、コルドバ県の西部地域(グアダルキビール川流域の渓谷部)、マラガ県の西部地域とセウタに及んでいる。東部方言地域はハエン県、グラナダ県、アルメリーア県、コルドバ県の東部地域とマラガ県の東部地域、そしてムルシア州とメリージャにもおよんでいる。アンダルシーアの外、あるいは隣接地域へのアンダルシーア方言の広がり(バダホス県での西部方言、ムルシア州での東部方言)に関してはアンダルシーア方言の定義付けの基準によって様々な解釈がある。
  • カナリアス諸島方言スペイン語版は初期のコンキスタドールや植民者の間でみられた、アンダルシーア方言のうちのセビリア方言に見られる特徴の大部分(s音化(seseo)、音節末の/s/の気音化、2人称複数敬称形ustedesの広範囲に及ぶ使用など)をもつカナリア諸島でのカスティーリャ語の地域変種。このカナリア諸島で話される言語には、ベルベル語と同系統であるとされるこの地の先住民の言語で、現在では死語となっているグアンチェ語から大きな影響も見られる。またカスティーリャ人以前にこの地へやってきていたポルトガル語の影響やアメリカ語法(アメリカスペイン語)も見られる。
  • ムルシア方言スペイン語版は、ムルシア州アリカンテ県アルバセーテ県の南部で話されるカスティーリャ語の歴史的方言である。その特徴は雑多な、様々な特徴がみられることであり、ラテン語法アラビア語法モサラベ語法アラゴン語法オクシタン語法カタルーニャ語法バレンシア語法ロマンス語時代の古語(すでにラテン語とは言えないほど変化してしまっている現代のロマンス語以前の段階の語法)などがみられる。カルタヘーナ地域やベガ・バッハ・デル・セグーラ地域ではS音法(seseo)がみられ、またウエルタ・デ・ムルシア地域では、現地ではパノーチョと呼ばれているが、C音法(ceceo)がみられる。過渡的な言語様相は南部と西部でアンダルシーア方言(グラナダ県とアルメリーア県)と、北部はラ・マンチャ方言(アルバセーテ県)との間で見られる。ムルシア方言で書かれたものは多くはないが、20世紀になってからはそれさえもほぼなくなり、現在では話し言葉としても消滅の危機にあり、疎外された状況にある。現在の住民の話し言葉は上記の歴史的方言と、カスティーリャ語の間の過渡的様相(つまり歴史的なムルシア方言とカスティーリャ語のどちらの特徴がより多いかということ)がみられるという状況にあり、より優勢であるのはカスティーリャ語的なものである(カスティーリャ語化)。
イベリア半島のイベロ・ロマンス語の言語地図
  • エストレマドゥーラ方言(castúo、あるいは中部エストレマドゥーラ方言(medioextremeño)、低エストレマドゥーラ方言(bajoextremeño))はエストレマドゥーラ州で話される、カスティーリャ語の南部方言に見られる特徴にレオン語(あるいはエストレマドゥーラ語)の特徴も併せ持つカスティーリャ語の地域変種である。
  • リオハ方言(dialecto riojano)は、ラ・リオハ地方で話される方言で、東部はアラゴン語の、北部はバスク語の、西部はアストゥリアス・レオン語の影響がみられる。

また、以上の地域変種間の隣接地帯では双方の特徴がみられる過渡的変種がみられる。

周縁地域における言語的様相

周縁地域で話される言語は、隣接する2つの言語の特徴を併せ持っていることが知られ、語彙、文法、音韻・音声など言語として自立するほどのそれ自身の言語的特徴は持っていない:

  • カンタブリア語スペイン語版(cántabro、montañésとも呼ばれる)-アストゥリアス・レオン語にカスティーリャ語的要素が加わっている。アストゥリアス州の最東部からビスカヤ県の西部にまたがるいくつかの地域で話される。
  • エストレマドゥーラ語(extremeño)または高エストレマドゥーラ語-アストゥリアス・レオン語にカスティーリャ語の南部の特徴が混じっている。カセレス県の北西部、北中部地域やサラマンカ県南部のいくつかの自治体において話される。
  • アストゥリアス・ガリシア語(galego de Asturias)またはエオ=ナビア語(eonaviego)-ガリシア語にアストゥリアス語の要素が混在。アストゥリアス州西部コマルカ・デ・エオ=ナビアスペイン語版地域で話される。
  • エレーラ・デ・アルカンタラスペイン語版(またはフィレーラ)で話されるポルトガル語(portugués de Firrera)-深いレベルでカスティーリャ語化された、古ポルトガル語の変種。
  • ファラ語(fala de Jálama、シャリマ語xalimeguあるいはエストレマドゥーラ・ガリシア語、ガリシア・エストレマドゥーラ語galaico-extremeñoなどとも呼ばれる)-カセレス県の北西部に位置するバル・デ・ハラマ(バリ・デ・シャリマ)地域のエルハ(エジャ)、バルベルデ・デル・フレスノ(バルベルディ・ドゥ・フレスヌ)、サン・マルティン・デ・トレベッホ(サ・マルティン・デ・トレベージュ)の3自治体で話される言語。この3自治体で話される言語にはそれぞれガリシア語、あるいはポルトガル語が持つのと同様な共通な特徴を持つガリシア・ポルトガル語(中世ガリシア語)を基礎として、カスティーリャ語とエストレマドゥーラ語の影響を受けた言語様相が見られる。

他言語地域の中の言語

  • アラゴン州の最東部カタルーニャ州と境界を接する帯状の地域(franja de Aragón)ではカタルーニャ語北西部方言の変種が話されており、話者数はおよそ30,000人を数える[16][17]es:Lengua catalana en la Franja de Aragón参照)。この地域で話されるカタルーニャ語と一口に言うが、実際にはそれぞれの地域ごとの違いは小さくない。
  • ムルシア州の北東部、ヴァレンシア州との境界地域にある山地シエラ・デル・カルチェ(sierra del Carche)地域にあるいくつかの地区ではバレンシア語が話されている。この地域のバレンシア語は19世紀末から20世紀初頭に隣接するアラカント県の農民たちによって持ち込まれたものである。1950年から1960年にかけてこの地域からの人口流失が顕著になった。2006年のデータではこの地域では697人の住民によってバレンシア語が話されていることが確認され[18]、また1990年から2000年にかけてのイギリス国籍を持つ者のこの地域への移住によって、英語も話されている。
  • ガリシア州に隣接するカスティーリャ・イ・レオン州レオン県サモーラ県のガリシア隣接地域のいくつかの自治体ではガリシア語が話されている。また、アストゥリアス州の西部ガリシア隣接地域においても、ガリシア語の地域変種が話されており、この言語はアストゥリアス・ガリシア語(galego de Asturias)、あるいはエオ=ナビア語(eonaviego)とも呼ばれる。この言語については、ガリシア語の変種であるか、ガリシア語とアストゥリアス語の過渡地域の言語であるかの論争があるが(主に政治絡みで)、言語学的にはガリシア語の変種であるとされる。
  • エストレマドゥーラ州カセレス県の自治体セディージョスペイン語版の中のポルトガルと接する1地区ではポルトガル語が話されている。また、同州のバダホス県オリベンサを中心とした地域でも、ポルトガル語の変種(portugués oliventino)が話されているが、1940年代までは日常的に話されていたこの言語は現在では衰退が著しく(とくに市街地から離れた集落など)、また、オリベンサの市街地などでは高齢者間にかぎって話されるという状況である[19]。また、カスティーリャ・イ・レオン州サラマンカ県のポルトガルと隣接する自治体ラ・アラメディージャスペイン語版の中の狭い1地区においてもポルトガル語が話されている。

注釈

  1. ^ a b スペインでは母語(lengua materna)の定義が、日本でのものと若干異なる。スペインでは最初に自然に獲得した言語を言い、その後の環境等により必ずしも日常使用言語とならない場合もあり、第一言語でない場合も少なくない。日本での母語とは同じではないので注意が必要。ここでは最初に獲得した言語を意味している。
  2. ^ a b c d e f 州公用語を持つ自治州名と公用語名については、該当語に即した表記でも語形の差異があまりなく理解が容易であると思われるものは該当語に即したカナ表記を採用する。バレンシア(語)は該当語に即した表記(vとbを区別するため)のヴァレンシア(語)の表記を採用する。バレアレス諸島に関してもカタルーニャ語に即したカナ表記バラアース諸島を採用する。バスク(語)に関しては、該当語の現地語地名表記はEuskadi(エウスカディ)となり、日本語の言語名表記は地名+語とする慣習があるためエウスカディ(語)となると思われ、スペインでもこの語はスペイン語話者においても普通に使われるが、日本ではなじみがないため、従来通り、英語もしくはフランス語から入ったバスク(語)の表記を使う。ちなみにスペイン語に即した表記はバスコ(語)になる。ナバーラについてもNafarroa(ナファロア)という語はなじみがないため、スペイン語起源のナバーラを採用する。その他は該当語に即した表記も従来表記と変わらないのでそのままである。
  3. ^ カタルーニャ語に関してはガロ・ロマンス語に見られる特徴もあるため、ガロ・ロマンス語に分類する研究者も存在する。また、近縁の言語であるオクシタン語とともに、新たなグループを提唱する機関もある。
  4. ^ カスティーリャ語で使われる形:euskera、vasco、vascuenceなど様々な形式がある。
  5. ^ 4方言に分ける場合もある。アラゴン語の方言アラゴン語版参照。

出典

  1. ^ Datos de lengua materna: Cataluña (2008), Baleares (2003), Galicia (2003), País Vasco (2001), Navarra (2001) y Comunidad Valenciana (2007).
  2. ^ a b Europeans and their Languages - Special Eurobarometer; resumen en castellano: [1] 調査は欧州委員会によって2005年11月、12月に実施された。スペインでは1,025名のものが面接調査に臨んだ。面接者は同時に様々な選択肢を選んだため、合計の数字は必ずしも100%にならない。
  3. ^ Más 'speak spanish' que en España” (スペイン語). El País (2008年10月6日). 2012年5月17日閲覧。
  4. ^ L'Enquesta d'usos lingüístics de la població 2008” (カタルーニャ語). Generalitat de Catalunya, Institut d’Estadística de Catalunya. 2012年5月18日閲覧。
  5. ^ 出典: [2], [3], de la Consellería de Cultura, es:Generalidad Valenciana. Encuesta de junio del 2005 donde se pregunta a 6.666 personas "¿Qué lengua es la que utiliza en casa?".
  6. ^ Instituto Gallego de Estadística. Personas según la lengua en la que hablan habitualmente. Año 2003
  7. ^ Uso del euskera entre los mayores de 16 años por ámbito. Encuesta lingüística 2001 - Departamento de cultura del gobierno vasco
  8. ^ Instituto de Estadística de Navarra. Censo de población 2001
  9. ^ Cens lingüístic de l'aranès de 2001” (カタルーニャ語). Generalitat de Catalunya. 2012年5月17日閲覧。
  10. ^ Anteproyecto de la Ley de Lenguas de Aragón de 2001 Artículo 5.- Zonas de cooficialidad. a) Una zona de cooficialidad del aragonés, que incluye los municipios relacionados en el anexo I de la Ley, municipios que pueden ser declarados zonas de utilización predominante de su respectiva lengua o modalidad lingüística propia o zonas de utilización predominante del aragonés normalizado.
  11. ^ La Academia de la Lengua Aragonesa empieza a tomar cuerpo con la elección de sus miembros” (スペイン語). Heraldo de Aragón (2011年5月8日). 2012年5月25日閲覧。
  12. ^ LEY 10/2009, de 22 de diciembre, de uso, protección y promoción de las lenguas propias de Aragón, Boletín Oficial de Aragón núm. 252” (スペイン語). Gobierno de Aragónde (2009年12月30日). 2012年5月25日閲覧。
  13. ^ LEY 3/1999, de 10 de marzo, del Patrimonio Cultural Aragonés, Boletín Oficial de Aragón núm. 36” (スペイン語). Gobierno de Aragónde (1999年3月29日). 2012年5月25日閲覧。
  14. ^ Lei n.º 7/99 de 29 de Enero de 1999、Diário da República” (ポルトガル語). Governo da República Portuguesa (1999年1月29日). 2012年5月26日閲覧。
  15. ^ Llera Ramo, Francisco José (2003). II Estudio sociolingüístico de Asturias, 2002. Oviedo: Academia de la Llingua Asturiana. ISBN 84-8168-360-4 
  16. ^ Encuesta de usos lingüísticos en las comarcas orientales de Aragón. Año 2003. Gobierno de Aragón - Instituto Aragonés de Estadística
  17. ^ Estadística de usos lingüísticos en la Franja de Aragón. Año 2004. Archived 2009年9月20日, at the Wayback Machine. Generalidad de Cataluña
  18. ^ Instituto Nacional de Estadística de España - Relación de unidades poblacionales
  19. ^ Manuel J. Sánchez Fernández: Apuntes para la descripción del español hablado en Olivenza, Revista de Extremadura, 23, 1997, pág. 110
  20. ^ 出典: Instituto Nacional de Estadística. Revisión del Padrón municipal 2006. Revisión del Padrón municipal 2006. Datos a nivel nacional, comunidad autónoma y provincia, Nacional Población extranjera por sexo, país de nacionalidad y edad (hasta 85 y más).





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