キーボード (コンピュータ)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/17 05:46 UTC 版)
キーボードの機構
キースイッチユニット
様々なものがあるが、メカニカル・メンブレン・静電容量無接点が使用される事が多い。新しいものでは光学式がある。
メカニカルスイッチ
- キーの数だけ独立したキースイッチユニットを内蔵する。メカニカルのキーボードはキー押下時に音がするとの誤解もあるが、カチカチという音自体はスイッチに内蔵された音を出す為の機構によるものであり、キースイッチ自体からは音はせず[注釈 6]、またそれらの部品が内蔵されず音のしないメカニカルスイッチも多い[注釈 7]。コストの面でメンブレン方式に劣るため衰退しつつあるが、キー音の軽快さや入力の確実性、そして独特の打鍵感(キータッチ)を好むユーザに支持されている。ドイツのチェリー製のスイッチ[11]や日本のアルプス電気製のスイッチが有名である。スイッチがボタンの戻ろうとする力を吸収してくれるので、長時間のタイピングでも疲れにくい。ただし粗悪な物は、ある程度使うとチャタリングが発生する場合がある。
メンブレンスイッチ
- メンブレン (Membrane) とは、日本語で膜、薄膜を意味する。2枚の接点シートの間に穴のあいた絶縁シートを挟み、キーを押すと接点が触れ合う仕組みとなっている。シートを押すための機構としては、ラバードーム、パンタグラフ、バックリングスプリングなどさまざまな種類がある。材質的に耐久性に限界があるものの、メンブレンとラバードームを使用したキーボードは安価に製造できるため、現在最も普及している。ただし作りが悪いものだとタッチが固く、指先に反発の力がダイレクトに戻ってくるので長期間のタイピングには向かず、腱鞘炎になる危険性が指摘されている。
- 「メンブレンキーボード」も参照
静電容量無接点
- 静電容量の変化でキー入力を検知する。機械接点が無いため静穏で、耐久性やキータッチを高められるが、高価になりがちという面もある。事実、普及価格帯での価格はメンブレン方式では1,000円 - 4,000円程度なのに対し、静電容量無接点方式では14,000円 - 24,000円程度である。IBM PC、PC/XT、PC/ATの初期の83/84キーボード、Sun Type4に代表されるKeyTronic製キーボード等がある。東プレ製のREALFORCEシリーズや、東プレOEMのPFU Happy Hacking Keyboard Professional等のキーボードが有名。金融機関や証券業界などでも広く使われている。
光学式スイッチ
- オプティカルスイッチ、オプトメカニカルスイッチなどとも呼ばれる。基板上すべてのキーの下に照明用でない赤外線等のLEDを配置して、常時発光させておき、そこから出た光をキー内のプリズムでコの字型に反射させ、LED横に装着された感光センサーへと送る。キーが押下されると、プリズム内のシャッターが開き、感光センサーで暗い状態から明るくなったことを検知し、キーが入力を検出する仕組み(フォトインタラプタ)のキースイッチ。特徴として、電気的な接点がないため、接点の劣化による故障の心配がなく、チャタリングも起きない[12][13]。また、理論上は、電気接点の感触に左右されない独特なストローク感を作り込むことや、シャッターの開閉というシンプルな機構の寿命を追求することも可能という点がある。2017年後半から販売され始めた。
レーザー投影式
- 厳密にはスイッチというよりもむしろセンサーである。机の上にレーザー投影機とセンサーが一体となった装置を置き、机の上にレーザーで直接キーを投影し、そこに指を置くことによりそれをセンサーで感知して入力とするものである。装置は非常に小型で可搬性に優れ、ある程度のスペースと反射率のある机があればどこでも使用できるが、物理的なキーが存在しないためタッチタイプが難しく、構造上縦に並んだキーの同時押しが検知できないという欠点がある。
アクチュエータ
メカニカルスイッチはユニット自体にアクチュエータを内蔵している事がほとんどであるが、その他のスイッチの場合、スイッチを通電させたりキータッチを出したりするアクチュエータが存在する。
- ラバードーム
- 主にメンブレンスイッチや静電容量無接点スイッチ等で使用される、半球状(ドーム以外にコーンの場合もある)のシリコーンゴム製の部品で、キーごとに独立しているものと、シート状に全てが一つにつながっているものがある。
- パンタグラフ(シザー)
- 日本では、スイッチの外観・形状が鉄道車両のパンタグラフに似ているため、パンタグラフと呼ばれている。英語ではシザー(Scissor)と呼ばれる。ラバードームとの組み合わせで使用されることが多い。中心から外れたところを打ってしまってもしっかりとキーを押せるという利点がある。構造的に薄く出来るので、ほぼ全てのノートパソコンに採用されているほか、一部のデスクトップパソコン向けキーボードに採用されている。指先に反発の力がダイレクトに戻ってくることや、構造上ステップスカルプチャ形状をとるのが困難であることなどから、長期間のタイピングには向かないとされていたが、低いキートップや短いキーストロークにより長時間のタイピングでも疲れにくいとする意見もある。近年は軽い打鍵感により指を滑らせるような軽快な入力が可能として、デスクトップパソコンでもパンタグラフキーボードを選ぶ者も多い。近年は隣接するキーとの間に枠を設け、各キーを独立した配置としたアイソレーションキーボードと呼ばれるデザインが流行している(外形はチクレットキーボードに似ている)。キー間に大きな隙間ができにくくゴミや埃が入りにくい、爪や指先がキーに引っかかりにくいといった長所がある。
- バックリングスプリング
- 座屈ばね機構とも呼ばれる[14]。その名の通りキーに内蔵したスプリングを座屈(buckling)させることで明確なクリック感を出す機構である[15]。キーを押すと「カシュンカシュン」「パシュンパシュン」と、スプリングが折れ曲がってスライダの内部にぶつかる音がする。
- 右の図はIBMによる特許の図であるが、図によると、まず1のキートップを押し下げると2のスプリングが徐々に湾曲して行き、完全に折れ曲がると7を支点にして4が可動、スイッチが通電する。この瞬間、スプリングが折れ曲がり急激にキーの重さが低下する事によってクリック感が、スプリングがスライダ内部3にぶつかる事でクリック音が発生する。キーを離すとスプリングの弾力によって元に戻るというしくみである。12と13が完全に接触すると、それ以上キーは沈まない。このため明確な底付き感を発生させており、一般的なラバードーム等に見られるゴムを押すようなあやふやな底付き感と一線を画している。
- かつてIBM社が生産していたキーボードが有名であり、その一連のシリーズは「Model M」と通称されている。
- なお、あくまでアクチュエータがこのような構造になっているというだけであり、IBM社のキーボードの場合、スイッチの接点方式としては静電容量式とメンブレン式のものが存在した。すでにIBMの特許期間は切れているが、構造的に高コストになりがちであり、一部を除いて、製造・販売される事は稀である。
スタビライザー
シフトキーやスペースバーのような長いキーのどの位置を押しても正しくまっすぐ押下できるようにするための仕組みである。これを省略している安いキーボードは、シフトキーの端の部分を押すと、引っかかってスムーズに押せないものがほとんどである。初期のIBM PCのキーボードは、そのためキーの中央のみにキートップを付け、端の部分を押せない物としていた。
キートップ
主にキーの機能などが印字されている。たいていの場合表面にホームポジション・マーカがある。平らな物、球面状に窪んでいる物、円筒形に窪んでいる物などの種類がある。 平らなものはパンタグラフなど薄型キーボードに多く、球面状に窪んでいる物は昔の物に多かったようである。
印字方法には様々な種類があり、二色成型・昇華印刷・シルク印刷・レーザー印字などがある[16]。最も耐久性(印字の消えにくさ)に優れるのは二色成型であり、文字の種類だけ金型が必要なため、低コスト化及び他の安価な製法に押され採用が減ったが、近年ゲーミングPC向けに文字照光を実現するため、簡易化した二色成型が採用されつつある。昇華印刷は熱と圧力がかかるため高価なプラスチック材料で構成される必要があり、一部の高級機種に用いられているのみである。現在の大多数のキーボードには専らシルク印刷(特にカラー印字がある場合)とレーザー印字が用いられている。
印字がされていない無刻印キーボードと呼ばれるものが存在する。キーボードの印字の重要性は、タッチタイピングをしない人に比べてタッチタイピングをする人は低い。また、タッチタイピングをする人は使いやすいようにキー配列をカスタマイズする場合があり、こうしたユーザにとって印字がされていないキーボードは、使い勝手が良いとの考えによるものである[17]。
ホームポジション・マーカ
キーボードを見ずにホームポジションへ指を置けるようにキートップに施された工夫のことで、一般にはホームポジション各指のうち、両手の人差し指を置く「F」と「J」のキートップが、触れるだけで他のキーから判別できるようになっている。キートップ中央に小さな丸い突起を設けたものや、キートップ手前に横長の突起を設けたものが多い。「F」と「J」のキートップを他のキートップよりも深くえぐってあるものもある。テンキーを持つキーボードには中指用にテンキー部の「5」にも設けられている。俗にOld Worldと呼ばれるiMacより前の、つまりベージュのMacintoshのキーボードは、テンキー部に揃えてフルキー側も中指用の「D」と「K」キーに設けられており、右手のマーカー触感が統一されていた。親指シフトキーボードには、両手人差し指用に加えて両手小指用(Aと;キー)にも付いているものがあり、親指のシフトに伴って人差し指がホームポジションから大きく離れても、小指からホームポジションを探るための配慮がされてある。これらホームポジション・マーカはキーボードを見ないで文字入力する人達には非常に重要な存在である。
ステップスカルプチャ
打鍵しやすくするため、あたかも階段のように上段のキーほど高くなっているステップ構造と、キーボード全体に指が届きやすくするため、上段・下段に対し中段が凹んでいるスカルプチャ構造との折衷構造の事である。特にキートップの指との接触部分が円筒形の溝になっている物はシリンドリカルステップスカルプチャと呼ばれる。スカルプチャには、実際のキーが曲面状に設置されているものや、キートップの形状で再現したものなどがある。
なお、シリンドリカルと言う単語は、キートップの表面の形状が円筒の内側のようなえぐれをしているものを差して使用されるのが本来であるが、最近ではスカルプチャと混乱しているようである。
チルトスタンド
タイプしやすいようにキーボードの傾斜を調整する機構である。
日本産業規格(JIS)では「キーボードの傾斜角は,水平から正方向に5°から12°の間が望ましい。角度調節ができないキーボードの傾斜角は,正方向に0°から15°の間になければならない。」と記載されている[18]。
一例として、オランダのキーボードメーカー「bakker elkhuizen」の場合は、チルトスタンドは、タッチタイピングが出来ないユーザーの為にキーボード表面が見やすくなるように設けられており、タッチタイピングが可能なユーザーは収納しておいたほうが手首の負担とならず望ましいと回答している[19]。
注釈
- ^ 最近では少ないが、1950年代や1960年代のコンピュータに関する文献や解説書においては漢字で「鍵盤」と書かれていることは多かった。なおkeyの日本語訳は「鍵」であり、boardの訳語は「盤」であり、keyboardの訳語が「鍵盤」なので、両者は本質的には同一のものである。近年は楽器については「鍵盤」と呼び、コンピュータのものは「キーボード」と呼び分けてる傾向はある。だが、鍵盤楽器でも電子楽器については「鍵盤楽器」ではなく「キーボード」と呼ぶのが当たり前なので、電子楽器に慣れている人にとっては、逆に、どちらも「キーボード」であり、同一名称で呼ぶものである。中国語ではどちらも鍵盤と呼ぶ。一方、朝鮮語では漢字表記は「字板」とした。
- ^ 赤ちゃん・乳幼児を育てている人々の切実な需要を意識した文章が、静音タイプのキーボードのパッケージに表示されている。赤ちゃんは聴覚器官のサイズが小さく、音高(ピッチ)が高い音に非常に敏感で、大人には聞こえていないような高い音でもはっきりと聞こえており、たとえば食品の袋やスーパーのレジ袋がかすかに動く音や、当記事で扱っているキーボードのタッチ音などにも非常に敏感に反応する。赤ちゃん・乳幼児の子育てには子供を(健やかな成長のために)眠りに誘導する作業《寝かしつけ》が含まれており、子守唄を歌ったり細心の注意でやさしくなでたりするなどしてかなりの時間(長い場合は数十分ほど)をかけて眠りに誘導し、うまく眠り始めたら大人は音を一切たてないように細心の注意を払うのだが、せっかく苦労して眠ってもらったのに、気をつけていてもコンピュータ類のキーボードを操作するだけで乳幼児が目覚めてしまい《寝かしつけ》をまた最初からやり直さなければならないということが、世の子育て中の家庭の中で無数に起きている。
- ^ 極端なキーの詰め込み具合から「変態配列」等とも呼ばれ、特にタッチタイピングを行う場合は勝手が変わってしまうため一部のユーザには嫌悪されている。
- ^ 一部のオペレーティングシステムにおいては[どれ?]、同時に押したキーが認識できない場合に、ビープ音が鳴るものもある(マザーボード本体にスピーカーが搭載されている場合)。
- ^ Macintosh用キーボードは、ADBが廃止されUSBとなった後もしばらくは電源ボタンが搭載されていたが、OSのフリーズ時やハブを介しての接続では使用不能となった。
- ^ 但し、キーを最深部まで押下した時の底付き音や、押したキーが元に戻った時の音などは発生する。これらの音を軽減するためユニット内部にゴム製の部品を使用したスイッチもあり、Apple Extended Keyboard II等に使用されている。
- ^ チェリーの茶軸等。
- ^ 古いシステムではタイプライターそのものを流用しプリンターの機能を兼ねさせることもあった。
出典
- ^ IT用語辞典 e-words、【キーボード keyboard】[1]
- ^ スタパ齋藤の『これだ!!これで行くゼ!! 〜 IBM SpaceSaverキーボード 〜』等。
- ^ タッチ操作の設計(Windows ストア アプリ)(Windows)
- ^ ピクニック企画, 堤大介, ed. (1 March 1990). "オートリピート". 『電脳辞典 1990's パソコン用語のABC』. ピクニック企画. p. 24. ISBN 4-938659-00-X。
- ^ a b Weekly "Keyboard World" 『7. Capitals lock』
- ^ 4Gamer.net『ついに登場した「4桁円台半ば」の大本命 SideWinder X4 Keyboard』
- ^ Deck Backlit Keyboards
- ^ Art. Lebedev Studioを参照。
- ^ Optimus keyboard
- ^ Optimus mini three keyboard
- ^ チェリーキーボードMXキースイッチ
- ^ 株式会社インプレス (2018年5月29日). “【やじうまミニレビュー】 光学式スイッチを採用した高コスパのゲーミングキーボード「GAMDIAS HERMES P2」”. PC Watch. 2021年9月27日閲覧。
- ^ ジャンク (2020年8月15日). “オプティカルスイッチとは?ゲーミングキーボードで使われる光学キースイッチ「Opto-Mechanical」”. ジャンクライフ. 2021年9月27日閲覧。
- ^ 鍵人『Buckling Spring Mechanisms』
- ^ IBM BucklingSpring Keyboard (IBM 5576-003, 5576-A01, 101model M, etc...)
- ^ Nogujyu Keyboard Mania キートップの文字
- ^ Tech総研『和田英一@日本初ハッカーはちょっと変わった絵を描く』無刻印HHK発売の経緯
- ^ “JISZ8514:2000 人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業-キーボードの要求事項”. kikakurui.com. 2021年2月15日閲覧。
- ^ BakkerElkhuizen. “Should I have the Feet on my keyboard in or o”. BakkerElkhuizen, Work Smart - Feel Good. 2021年2月15日閲覧。
- ^ 最速のCPUと最高解像度の液晶を搭載する無敵のA4ノートPC PCG-GR9E(別冊ASCII No.4 2002年2月5日)
- ^ 松下電子部品、打鍵感に優れるキーボードの詳細を公表
- ^ “キーボードクリーナー・掃除グッズおすすめ人気比較ランキング15選”. タスクルヒカク | 暮らしのおすすめサービス比較サイト. 2019年11月20日閲覧。
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