オオクチバス 外来種問題

オオクチバス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/14 09:03 UTC 版)

外来種問題

日本への導入

日本において、本種は人為的に移入された外来種である。21世紀現在、国内全ての都道府県で生息が確認されており、湖・池といった多くの内水面で姿がみられる。日本に持ち込まれたのは、1925年に実業家の赤星鉄馬により芦ノ湖に放流されたのが最初である[10]

その後、芦ノ湖から日本国内の他水域にも再移入がおこなわれた他、1945年敗戦にともない、進駐してきたアメリカ軍人が自分たちのゲームフィッシング用に多くの個体を持ち込み、分布拡大がさらに進む。例えば、沖縄県恩納ダムには1963年頃に移入され拡散したと考えられている[11]

1970年代以降、日本での分布が急速に拡大し、環境問題に発展している[10]。釣り人による密放流(ゲリラ放流)、琵琶湖産のアユ種苗やゲンゴロウブナへの混入などによりその生息域を広げたと考えられている。導入経路や非公式な違法放流についてはミトコンドリアDNAの解析によりその実態が明らかになっている[9][12][13]

影響

捕食や競争により本来日本の湖・池に生息していた魚(在来魚)を減少させるとしてコクチバスブルーギルと並び問題視されている[10]メダカゼニタナゴ、ジュズカケハゼ、シナイモツゴといった希少な魚を減少させるなど魚類相に大きな影響を与えている[10]。また、魚類だけでなく甲殻類や水生昆虫にも被害が発生しているほか、そうした生物を餌にする水鳥などの他の生物にも悪影響を及ぼす[10]。さらに、アカネズミなどの齧歯類ヒミズなどの食虫類といった小型哺乳類、アオジオオジュリンといった鳥類の直接的な捕食事例も確認されている[14][15]。 本種は日本生態学会により日本の侵略的外来種ワースト100に選定されているが、国際自然保護連合によって世界の侵略的外来種ワースト100のひとつにも選ばれており世界的に問題となっている[16]

対策

事態を重くみた環境省は、2005年(平成17年)6月施行の「外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)」でコクチバスと共にオオクチバスの規制(輸入・飼養・運搬・移殖を規制する)を目指すことになった[17]。しかし、2004年10月から開始されたオオクチバスを特定外来生物に選定する是非を決める会議では、全国内水面漁業協同組合連合会や外来種問題を危惧する研究者などの指定賛成派と、日本釣振興会全日本釣り団体協議会、釣魚議員連盟といった指定反対派との間で意見が大きく対立し議論は難航した[17]。この結果、2005年1月19日の第4回小会合にてオオクチバスの指定については半年まで検討期間を延長することになった[17]。ところが、その2日後に当時の環境大臣小池百合子がバスは指定されるべきとの発言をしたため急遽方針が転換され、結局オオクチバスは特定外来生物に1次指定されることが決定した[17]。こうした混乱や衝突はオオクチバスが大規模なバス釣り産業を形成しており経済的に重要な価値を有することが背景にあり、外来種問題の解決の難しさが窺える事例となった[17][18]。また、多くの都道府県でも、内水面漁業調整規則に基づき移殖放流が禁止されている[10]。1965年に移入された芦ノ湖の漁業権を管理する神奈川県は、オオクチバスを含めたブラックバスに関して移植をしてはならないとした[19]。さらに、日本国外ではイギリスや韓国などで国内への持ち込みが禁止されている[10]

稚魚のすくい取り、産卵床の破壊、人工産卵床の設置、地引き網、池干しといった方法で防除が行われている[18][20]。環境省では2005年度から「オオクチバス等防除モデル事業」を伊豆沼・内沼、羽田沼、片野鴨池、犬山市内のため池群、琵琶湖、藺牟田池の6つの地域で実施した[21]。また、市民活動も盛んに行われており、2005年には「全国ブラックバス防除市民ネットワーク」が結成されている[21][22]。防除対策によって減少していた魚類の増加が確認され生態系の回復が実現している水域もある[20]

漁業権と外来種問題

山梨県河口湖山中湖西湖でのブラックバスの漁業権は1989-1994年に認められ、2005年施行の外来生物法でブラックバスの放流が禁じられた後も「特例」として許可されてきた。2014年1月の免許更新期を前に、地元漁協や自治体が継続を求め、日本魚類学会NPO自然保護団体などが反対していた。山梨県が地元漁協の免許の特例更新を認める方針を固めた。


  1. ^ a b シノニム・学名の変更 日本魚類学会 2023年1月5日更新 2023年1月23日閲覧
  2. ^ a b c Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2006). "Micropterus salmoides" in FishBase. April 2006 version.
  3. ^ a b c 赤星鉄馬 『ブラックバッス』 イーハトーヴ出版、1996年6月。[要ページ番号]
  4. ^ 神戸市:須磨海浜水族園 「ブラックバスを釣ってきて、入園料がタダ!!」”. 神戸市. 2015年9月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月24日閲覧。
  5. ^ Largemouth Bass”. 2017年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月24日閲覧。
  6. ^ Green bass[1][出典無効]
  7. ^ 特定外来生物の解説 オオクチバス 環境省
  8. ^ 杉山秀樹、神宮字寛、ため池における外来魚・オオクチバスの影響と駆除 農業土木学会誌 2005年 73巻 9号 p.797-800,a1, doi:10.11408/jjsidre1965.73.9_797
  9. ^ a b c 高村健二「日本産ブラックバスにおけるミトコンドリアDNAハプロタイプの分布」(PDF)『魚類学雑誌』第52巻第2号、2005年、107-114頁、doi:10.11369/jji1950.52.1072012年5月7日閲覧 
  10. ^ a b c d e f g 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著)『決定版 日本の外来生物』平凡社、2008年4月21日。ISBN 978-4-582-54241-7 [要ページ番号]
  11. ^ 嶋津信彦 、「【原著論文】沖縄島比謝川に侵入したオオクチバスの生態学的研究」 『人と自然』 2008年 19巻 p 35-41, doi:10.24713/hitotoshizen.19.0_35, 兵庫県立人と自然の博物館
  12. ^ 青木大輔・中山祐一郎・林 正人・岩崎魚成「琵琶湖におけるオオクチバスフロリダ半島産亜種(Micropterus salmoides floridanus)のミトコンドリアDNA調節領域の多様性と導入起源」『保全生態学研究』第11巻第1号、2006年、53-60頁、doi:10.18960/hozen.11.1_53 
  13. ^ 北野聡, 武居薫, 川之辺素一, 上島剛「長野県内で確認されたオオクチバス及びコクチバスのミトコンドリアDNAハプロタイプ」『長野県環境保全研究所研究報告』第4巻、2008年、75-78頁。 
  14. ^ 中野晃生・西原昇吾「オオクチバス Micropterus salmoides に摂食されたヒミズ Urotrichus talpoides」『哺乳類科学』第45巻第2号、2005年。 
  15. ^ 嶋田哲郎・藤本泰文「オオクチバスによる小鳥の捕食」(PDF)『Bird Research』第5巻、2009年、7-9頁、2012年5月7日閲覧 
  16. ^ 村上興正・鷲谷いづみ(監修) 日本生態学会(編著)『外来種ハンドブック』地人書館、2002年9月30日。ISBN 4-8052-0706-X [要ページ番号]
  17. ^ a b c d e 瀬能 宏「外来生物法はブラックバス問題を解決できるのか?」『哺乳類科学』第46巻第1号、2006年、103-109頁、2012年5月7日閲覧 
  18. ^ a b オオクチバス 国立環境研究所 侵入生物DB
  19. ^ 神奈川県内水面漁業調整規則第30条の2”. 神奈川県. 2007年8月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月24日閲覧。
  20. ^ a b 高橋清孝「オオクチバスMicropterus salmonides駆除の技術開発と実践」『日本水産学会誌』第71巻第3号、2005年、402-405頁、NAID 110003161621 
  21. ^ a b 種生物学会『外来生物の生態学 進化する脅威とその対策』文一総合出版、2010年3月31日。ISBN 978-4-8299-1080-1 [要ページ番号]
  22. ^ 全国ブラックバス防除市民ネットワーク”. 2018年12月24日閲覧。
  23. ^ a b ブラックバスをおいしく料理するには? 釣って食べる「健啖隊」に聞く - エキサイトニュース(1/3)”. 2018年12月24日閲覧。
  24. ^ 日本顎口虫(がっこうちゅう)症 愛知県衛生研究所
  25. ^ Q&A;(よくある質問) - 埼玉県ホームページ”. 埼玉県. 2014年11月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月24日閲覧。






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