エタール・コホモロジー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 01:24 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動定義
任意のスキームXに対してエタール射u:A→X全体からなる圏をEt(X)であらわす。この圏は位相空間Sの開部分集合の圏Top(S)の類似であって普通の開埋め込み射をエタール射に置き換えたものとみられる。しかしながらザリスキ位相の開埋め込み射よりもエタール射のほうが数が多くなっており、その分位相は細かくなっている。この位相を用いることによって通常の層の理論とまったく同様に、Et(X)上に前層および層を定義することができる。それらをエタール前層およびエタール層とよぶ。
Et(X)上の層の成す圏は通常と同様にやはりアーベル圏であり、アーベル圏の理論もしくは導来関手の理論を用いることにより、エタール層Fに対してコホモロジー
の存在および一意性が証明される。これがエタール・コホモロジーである。
もっと一般的には、同様の手順によって、任意の景の上でそのグロタンディーク位相を用いて層を定義し、コホモロジー理論を構成することができる。景の言葉を用いるならエタール・コホモロジーはエタール景上のコホモロジーと言い換えることができる。
ℓ進コホモロジー群
エタール・コホモロジーは係数がZ/nZの場合には上手く働くが、ねじれを持たない(たとえば整係数や有理係数)場合は満足する結果を与えない。エタール・コホモロジーからねじれを持たないコホモロジー群を得るためには、ねじれを持つ係数のエタール・コホモロジーの逆極限をとればよい。これはℓ進コホモロジーもしくはℓ進エタール・コホモロジーと呼ばれる。ここでℓは考えているスキームVの標数pとは異なる任意の素数を表す。たとえば定数層Z/ℓkZのエタール・コホモロジー
の逆極限
としてℓ進コホモロジーが定義される。ここで注意しなければならないのだが、コホモロジー(右導来関手をとる操作)は逆極限をとる操作と可換ではない。したがってこのℓ進コホモロジーはエタール層Zℓに係数をもつエタール・コホモロジーとは異なるものである。後者のコホモロジーは存在するが"悪い"コホモロジー群を与える。
ℓ進コホモロジーからねじれ部分群を取り除き、標数0の体上のベクトル空間としてコホモロジー群を得たいならば
と定義する。ここでこの記法は誤解を与えるのだが、Qℓはエタール層でもℓ進層でもない。
性質
一般的に多様体のℓ進コホモロジー群は複素多様体の特異コホモロジー群と似たような性質を持つ。ただ特異コホモロジーは整数もしくは有理数上の加群であるのに対して、ℓ進コホモロジーはℓ進整数もしくはℓ進数上の加群になる。非特異な射影多様体上のℓ進コホモロジーはポアンカレ双対性を満たすほかケネスの公式も満たす。
一方ℓ進コホモロジーは特異コホモロジーと異なり、ガロア群の作用を持つという性質がある。たとえば有理数体上定義された複素多様体のℓ進コホモロジー群は有理数体の絶対ガロア群の作用を持ち、ガロア表現と関係が深い。
- 1 エタール・コホモロジーとは
- 2 エタール・コホモロジーの概要
- 3 いくつかの計算例
- 4 参考文献
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