エクリプス (競走馬)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/08 05:32 UTC 版)
血統
エクリプスの両親は父マースクと母スピレッタで、どちらもカンバーランドの所有馬であった。父マースクは、競走馬時代に6戦3勝の成績を残した。種牡馬としての評価はあまり高くなかったが、エクリプスの活躍で評価が高まった[16]。母スピレッタは1戦して着外だった。その2番目の産駒がエクリプスである。兄弟は全部で5頭、内2歳年下の全妹プロサーパインは娘にルナを出し、ルナはファミリーナンバー12-g号族の祖となった。12-g号族の日本での代表格はハイセイコー、タニノムーティエ・タニノチカラ兄弟等がいる。
なお、父はマースクではなくシェイクスピアだという説もある。タタソールの記録帳には、デニス・オケリーの厩務員の証言として、1763年のスピレッタにはマースクに交配される前にシェイクスピアとも交配されたという記述がある[17]。エクリプスの特徴もシェイクスピアに似ているという。しかしこれはあくまで仮説であり、公式にはエクリプスの父はマースクである。もっとも、シェイクスピアの父親はホブゴブリンであり、その父の父はマースクと同じくダーレーアラビアンに遡るため仮にこちらが本当だとしても父系自体に大きな変更はない。
血統表
血統表及びその見方については競走馬の血統#血統表を参照
エクリプスの血統(エクリプス系 / Snake Mare3×4=18.75% Snake4×4・5=15.62%) | (血統表の出典) | |||
父 Marske 1750 黒鹿毛 (or Shakespeare 1745) |
父の父 Squirt1732 栗毛 |
Bartlet's Childers | Darley Arabian | |
Berry Leedes | ||||
Snake Mare | Snake | |||
Grey Wilkes | ||||
父の母 Blacklegs Mare生年不明 |
Blacklegs | Hutton's Bay Turk | ||
Coneyskins Mare | ||||
Bay Bolton Mare | Bay Bolton | |||
Fox Cub Mare | ||||
母 Spilletta 1749 鹿毛 |
Regulus 1739 鹿毛 |
Goldolphin Arabian | 不明 | |
不明 | ||||
Grey Robinson | Bald Galloway | |||
Snake Mare | ||||
母の母 Mother Western1731 |
Easby Snake | Snake | ||
Akaster Turk Mare | ||||
Old Montagu Mare | Old Montagu | |||
Hautboy Mare F-No.12 |
死亡後
死亡の際ロンドンの獣医大学教授ヴィアル・ド・サン・ベルが検死を行っている。体高は16.2ハンド(約164.6 cm)と推定され、この時代の馬としては非常に大きな馬体を持ち、骨格は当時の他の馬とは異なる特徴がいくつも見出された。心臓は14ポンド(約6.35 kg)もあった。なお、右写真の骨格は現在ニューマーケットの競馬博物館に展示されているものだが、この他に「これはエクリプスの骨格である」と主張する物が4体もあり、蹄も本物の1つで金の台座にあしらわれた物がジョッキークラブに所有されているが、他に本物と称するものが少なくとも5個ある。検死の後に、皮は財布の皮にされ、たてがみと尾の毛は鞭にされた[18]。
骨格や血統の研究は現在も続いており、2005年にはエクリプスのDNAが調査される予定であるとBBCやサラブレッドタイムズによって報道された[19]。記事には、イギリスの王立獣医科大学とケンブリッジ大学の科学者が歯等に残されたDNAを調査すると記載された。また、2006年には骨格と運動モデルが分析され、現在の馬とほぼ同じ特徴を持っていたと結論付けられた[20]。この他の特徴も現在のサラブレッドにかなり似ている。もっとも、エクリプスが現在のサラブレッドに似ているというより、現在のサラブレッドがエクリプスに似ているというべきであるが。
後世への影響
後世への影響は非常に強い。サラブレッドの血統を父の父の父…という風に父方に辿ると殆どがエクリプスに辿り着くと言われており、その勢力は実に95%に達するとまで言われる[21]。また、母系を合わせてのサラブレッドへの血統的影響はヘロド程ではないが非常に強く、血量にして優に10%を超えている[22]。
しかし、父系に関して言えば最初からこれほどまでの勢力を持っていたわけではない。当初はヘロド〜ハイフライヤー系の方が優勢で、実際に1780年から1839年までの60年間の首位種牡馬回数は、エクリプス系12回に対し、ヘロド系が43回とヘロド系の方が多かった(マッチェム系は5回)。オケリーは詩人を使ってハイフライヤーの馬主であるタタソールに向かって「ハイフライヤーの産駒でヘロドの血の優秀性を証明して見せよ」と、どちらの血が優れるか投げかけてはいるものの、三大始祖[23]いずれの父系が優れるかの議論もヘロド系の方が優勢で、エクリプスはハイフライヤーに牝馬を提供するだけという極端な考えを持っていた馬主もいたようである[24]。
だが、ヘロド系が優勢だったのは1830年頃までで、19世紀中盤以降ハイフライヤー系が衰退・滅亡するヘロド系に対し、ストックウェル、ニューミンスター、セントサイモン等大種牡馬を連発したエクリプス系が勢力を伸ばした。これ以後現在に至るまでエクリプス系優位が続いている。現在エクリプス系は主にポテイトーズとキングファーガスの2頭にさかのぼることができる(子孫についての詳細はエクリプス系を参照のこと)。
遺伝子
2018年のシドニー大学を中心とした研究グループの報告によると、2000年から2011年にオーストラリアで走ったサラブレッド13万5572頭の全血統表、更に抽出した128頭の常染色体塩基配列のSNP(一塩基多型)を解析した結果、これらの馬に対するエクリプスの血統的影響は、ヘロド(18.3%)、ゴドルフィンアラビアン(13.8%)に次ぐ13.3%に達した[25]。
また、同一系統対立遺伝子の遡及系統解析によると、エクリプスの遺伝子を多く持つ個体は競走能力が低い傾向がみられ、特に現役期間が短い傾向が顕著であった(他に出走率や獲得賞金も低い傾向がみられる)[25]。現役期間の短さについて、この研究はエクリプスの祖父が患っていた肺出血について言及している[25]。
その他
1886年にはイギリスのサンダウン競馬場でエクリプスを記念するエクリプスステークスが創設された。この競走は当時英国内で最高額の賞金を誇り、現在もG1に指定されている。さらにアメリカ競馬の年間表彰制度エクリプス賞もこの馬を記念したもので、各部門の最優秀者及び最優秀馬の所有者にはエクリプスの像が送られる。ニューマーケット競馬場にも銅像がある。
- ^ 当時はイングランドのランニングホース等と呼ばれていた
- ^ 当時は騎手と調教師、厩務員の区別は明瞭ではなく、騎手ジョン・オークリー、馬主ウィリアム・ワイルドマンらが調教を付けていた。『新・世界の名馬』はサリヴァンとしている
- ^ 当時のイギリスでは5月1日に一律年をとる
- ^ 本村凌二『競馬の世界史』中公新書、2016年、pp18-46,ISBN978-4-12-102391-9
- ^ この時の日食は金環食である。皆既日食が起こったというのは正確ではない。他にこの年イギリスで日食は起こっていないとする説もあるが、こちらは完全に誤りである
- ^ ジェネラルスタッドブック(血統書)創刊が1791年、レーシングカレンダー(成績書)が1773年
- ^ 『優駿』2011年6月号、84頁。
- ^ オケリーが賭け相手を集めるため意図的に流したとの説もある。「揺籃期のイギリス競馬」「新・世界の名馬」等による
- ^ 「新・世界の名馬」p.19による
- ^ ヒートを1つの競走と見るか、複数の競走と見るか。レーシングカレンダーに載っていない競走を含めるかどうかによって変わってくる。ここではイギリスの公式の競馬成績書に基づいて18戦としたが、bloodlinesは20戦とし最後の競走もNottinghamのキングズプレートとしている。また、「伝説の名馬 I」も別の組み合わせで20戦20勝としている
- ^ 「新・世界の名馬」による
- ^ 死亡日については27,28日と記述する資料もある。ここではThoroughbred Heritage、英語版Wikipediaを参考に26日としたが、「新・世界の名馬」「サラブレッド世界百名馬」「世界名馬ファイル」は27日、「伝説の名馬 I」及びThe book of Daysは28日としている
- ^ [1]、「新・世界の名馬」等による。「サラブレッドの生産及び英国競馬小史」等は逆に初年度が25ギニー、後50ギニーとしている
- ^ [2]による
- ^ 世界名馬ファイル p.17
- ^ 種付け料が3ギニーから100ギニーにまで上昇した
- ^ 「揺籃期のイギリス競馬」による
- ^ 「揺籃期のイギリス競馬」等による
- ^ BBC - DNA study of 'greatest racehorse'
- ^ BBC - 'Averageness' key to great racehorses
- ^ [3], [4]等による。他に80%や90%とする説もある
- ^ セントサイモンにおけるEclipse血量は約14%、Herodは19%強
- ^ 三大始祖が成立したのはエクリプスやハイフライヤーの産駒が走っていた時代であり、1785年にダービーを制したエイムウェル(オルコックアラビアン系)にしても母の父にヘロドを持っていた
- ^ 「揺籃期のイギリス競馬」、Thoroughbred Heritage - Highflyer等による
- ^ a b c Todd ET, Ho SYW, Thomson PC, Ang RA, Velie BD, Hamilton N2. (2018). “Founder-specific inbreeding depression affects racing performance in Thoroughbred horses.”. Scientific Reports 8 (1): 6167.
- ^ a b 『新・世界の名馬』原田俊治・著、サラブレッド血統センター・刊、1993,p13-27,エクリプス
- ^ a b 『英国競馬事典』p105-106「距離」
- ^ 『競馬百科』日本中央競馬会・編、みんと・刊、1976,p184
- ^ 『競馬 サラブレッドの生産および英国競馬小史』デニス・クレイグ著、マイルズ・ネーピア改訂、佐藤正人訳、中央競馬ピーアールセンター刊、1986,p70
- ^ 『アーバンダート百科』山野浩一・著,国書刊行会・刊,2003,p97
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