アイネスフウジン デビューまで

アイネスフウジン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/26 21:35 UTC 版)

デビューまで

誕生までの経緯

中村牧場

北海道浦河町にて家族経営で競走馬生産をしていた中村吉兵衛は「借金を抱えない」健全経営を方針として掲げており、年老いて種付け料の安い種牡馬ばかりを用いて調教師から怒られるほどであった[5]。それにより1968年の菊花賞を制して同年の年度代表馬に輝いたアサカオーを最後に牧場生産馬の成績は低迷が続き[6]、倒産間際の状態に追い込まれたこともあった[7]。そんな中で産まれたのがムツミパールであった。

ムツミパール

1965年、吉兵衛が生産したムツミパールは、父モンタヴァル、母の父トサミドリの牝馬である[8]。競走馬としてデビューし26戦4勝の成績で引退、中村牧場に里帰りして繁殖牝馬に。1971年から産駒を出産していた[9]。あるとき、吉兵衛は知人にムツミパールとシーホークとの交配を勧められた。その知人はシーホークとムツミパールの共通の祖先であるノースマンに注目し、もしその2頭が交配すれば、ノースマンの4×3のインブリードが成立し、「奇跡の血量」の仔になると助言していた。しかし吉兵衛は、その時点でシーホーク産駒の活躍馬がいなかったことから、その助言を退けた[10]。1975年、吉兵衛はランドプリンステスコガビーなどを送り出すなど実績十分の種牡馬であるテスコボーイをムツミパールの交配相手に考えていた[7]

テスコボーイは、日高軽種馬農業協同組合(HBA)が日本に導入した種牡馬である。HBA所有のため種付け料が安価な一方で産駒がデビューすると続々活躍し、それにより後続の産駒が高額で取引されることが多かった事から産地での評判も良く、低迷中で資金に乏しい中村牧場とっても魅力的であった。その人気故にテスコボーイの種付け権利は抽選販売となり高い倍率での抽選となる中、中村牧場は当選して種付け権利を獲得。ムツミパールと交配された[7]。そして翌1976年4月22日、後にアイネスフウジンの母となるテスコパールが誕生した。

テスコパール

抽選を潜り抜けるなどして生まれたテスコパールは吉兵衛以外からの評判も高かったが[7]、2歳の春に悪性の下痢に襲われ、長期間の闘病の末に回復したものの競走馬としてはデビュー出来ずにそのまま繁殖牝馬となった[11]。そして1986年の交配相手は、かつてムツミパールの交配相手に勧められたシーホークだった。吉兵衛が高齢を理由に引退した翌1987年4月10日、息子の中村幸蔵が跡を継いだ中村牧場にて、テスコパールの7番仔である黒鹿毛の牡馬(後のアイネスフウジン)が誕生した[1]

幼駒時代

テスコパールの7番仔は、両親の名前の組み合わせである「テスコホーク」という幼名で呼称された。主に当主の幸蔵夫妻によって見守られたが、夫妻の都合が悪いときは、引退した先代の吉兵衛、ハナ夫妻にも見守られたという[12]。当歳の頃から馬体の評価の高かったテスコホークを見出したのは、母テスコパールを競走馬として管理する予定だった加藤修甫だった。加藤は冠名「アイネス」を用いる小林正明から幼駒調達の全てを任されており、まもなくテスコホークの小林の所有と加藤厩舎での管理が内定した[7] [13]。競走馬になるにあたり、小林は当時高校生だった娘2人に命名を頼んでいた。娘二人は「風神」を提案して、冠名と合成。テスコホークは「アイネスフウジン」としてデビューすることになった[13]


アイネスフウジン血統 (血統表の出典)[§ 1]
父系 エルバジェ系ダークロナルド系
[§ 2]

*シーホーク
Sea Hawk
1963 芦毛 アイルランド
父の父
Herbager
1956 鹿毛
Vandale Plassy
Vanille
Flagette Escamillo
Fidgette
父の母
Sea Nymph
1957 芦毛
Free Man Norseman
Fantine
Sea Spray Ocean Swell
Pontoon

テスコパール
1976 栗毛
*テスコボーイ
Tesco Boy
1963 黒鹿毛
Princely Gift Nasrullah
Blue Gem
Suncourt Hyperion
Inquisition
母の母
ムツミパール
1965 鹿毛
*モンタヴァル
Montaval
Norseman
Ballynash
マサリュウ トサミドリ
ユキツキ F-No.4-d
母系(F-No.) プロポンチス系(FN:4-d) [§ 3]
5代内の近親交配 Norseman4×4、Nasrullah4×5、Firdaussi5×5、Blue Peter5×5 [§ 4]
出典
  1. ^ [60]
  2. ^ [61]
  3. ^ [60]
  4. ^ [60]

注釈

  1. ^ 1989年の葉牡丹賞(500万円以下)は中山競馬場・芝2000メートルで行われ、メジロライアンなど11頭が出走、勝ち馬はプリミエール。
  2. ^ ハイペースは一般的に、逃げ、先行する馬が不利とされる。
  3. ^ 内訳はヤマニングローバルに43票、コガネタイフウに9票、ツルマルミマタオーとプリミエールに各1票、該当馬なしは6票。[24]
  4. ^ 朝日杯3歳ステークスで先頭を争ったサクラサエズリはJRA賞最優秀3歳牝馬を受賞した[24]
  5. ^ 当時はまだ「ウイニングラン」が定着しておらず、スタンド前からの退出は一般的ではなかった。
  6. ^ 後に所有し、アイネスフウジンよりも先にデビューした馬が複数頭存在する。1歳上のアイネスボンバーはアイネスフウジンの前年の皐月賞に出走した[13]
  7. ^ 南関東公営競馬では既に馬主をしていた。大井競馬場所属のマルタカリボーは、1988年の春に中央競馬に移籍し、条件戦2連勝を記録している[13]
  8. ^ アイネスフウジンの1年後輩
  9. ^ キャンター(駈歩(かけあし)で移動する場合が多い。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t アイネスフウジン”. JBISサーチ. 公益社団法人日本軽種馬協会. 2019年8月20日閲覧。
  2. ^ a b ダービー馬アイネスフウジン死亡”. netkeiba. ネットドリーマーズ. 2019年7月24日閲覧。
  3. ^ “【ダービーの栄光】(2)1990年アイネスフウジン”. サンケイスポーツ. (2018年5月23日). https://race.sanspo.com/keiba/news/20180523/etc18052305040001-n1.html 2019年7月23日閲覧。 
  4. ^ アイネスフウジン「魅了する風神」OH03-H061 | カードショップ うるま屋 powered by BASE”. カードショップ うるま屋. 2024年4月26日閲覧。
  5. ^ 『優駿』1990年2月号 25頁
  6. ^ (有)中村牧場|JBISサーチ(JBIS-Search)”. www.jbis.or.jp. 2021年12月12日閲覧。
  7. ^ a b c d e f 『優駿』2009年6月号 155頁
  8. ^ ムツミパール”. JBISサーチ. 2021年5月24日閲覧。
  9. ^ 繁殖牝馬情報:牝系情報|ムツミパール”. JBISサーチ. 2021年5月24日閲覧。
  10. ^ a b c 『優駿』1990年4月号 136頁
  11. ^ 『優駿』1990年2月号 24頁
  12. ^ a b 『優駿』1990年8月号 19頁
  13. ^ a b c d e 『優駿』1990年7月号 56-57頁
  14. ^ a b “ナカノコール”のアイネスフウジンを今振り返る”. サラブレモバイル. KADOKAWA. 2019年7月24日閲覧。
  15. ^ 3歳未勝利|1989年10月22日”. netkeiba.com. 2021年5月25日閲覧。
  16. ^ a b c d e f g h 『優駿』1990年2月号 142-143頁
  17. ^ 朝日杯3歳ステークス|1989年12月17日 | 競馬データベース - netkeiba.com”. db.netkeiba.com. 2021年5月25日閲覧。
  18. ^ a b 『優駿』2009年6月号 156頁
  19. ^ a b 『優駿』2009年6月号 157頁
  20. ^ 『優駿』1990年2月号 12頁
  21. ^ 中野栄治の騎手成績(1989年の勝利一覧)”. netkeiba.com. 2021年5月25日閲覧。
  22. ^ 『優駿』1990年7月号 62頁
  23. ^ 『優駿』1990年2月号 134頁
  24. ^ a b c 『優駿』1990年2月号 55頁
  25. ^ 『優駿』1990年2月号 69-70頁
  26. ^ 『優駿』1990年5月号 131頁
  27. ^ a b c d e 『優駿』2009年6月号 158頁
  28. ^ 『優駿』1990年5月号 130頁
  29. ^ a b c 『優駿』1990年5月号 6頁
  30. ^ 第81回東京優駿(日本ダービー) 歴代優勝馬ピックアップ アイネスフウジン|GⅠ特集”. JRA-VAN. 2021年5月28日閲覧。
  31. ^ a b c d アイネスフウジンに19万人の中野コール/ダービー”. 極ウマプレミアム. 日刊スポーツ. 2019年7月24日閲覧。
  32. ^ a b 『優駿』1990年7月号 140-141頁
  33. ^ a b “【平成の真実(10)】平成2年5月27日「史上最多19万人来場ダービー」”. サンスポZBAT!競馬. (2018年12月5日). http://race.sanspo.com/keiba/news/20181205/etc18120510000001-n1.html 2021年5月28日閲覧。 
  34. ^ a b 『優駿』1990年7月号 5頁
  35. ^ a b 『優駿』2009年6月号 161頁
  36. ^ a b 『優駿』1990年7月号 10頁
  37. ^ 『優駿』2010年6月号 47頁
  38. ^ “【平成の真実(10)】平成2年5月27日「史上最多19万人来場ダービー」 (4/4)”. サンスポZBAT競馬 (サンケイスポーツ). http://race.sanspo.com/keiba/news/20181205/etc18120510000001-n4.html 2019年7月24日閲覧。 
  39. ^ 『競馬ブック』当日版 1990年9月1日号 最終頁
  40. ^ 史上に残る三強対決を制す アドマイヤベガ[1999年]”. JRA-VAN. 2019年7月31日閲覧。
  41. ^ キングカメハメハ レコードでGI連勝[2004年]”. JRA-VAN. 2019年7月31日閲覧。
  42. ^ アイネスフウジンの競走成績”. netkeiba.com. ネットドリーマーズ. 2019年8月20日閲覧。
  43. ^ アイネスフウジン 競走成績”. JBISサーチ. 公益社団法人日本軽種馬協会. 2019年8月20日閲覧。
  44. ^ 種牡馬情報:世代・年次別(サラ系総合)|アイネスフウジン|JBISサーチ(JBIS-Search)”. www.jbis.or.jp. 2021年12月12日閲覧。
  45. ^ ファストフレンド”. JBISサーチ. 2019年7月31日閲覧。
  46. ^ スノーエレガンス|JBISサーチ(JBIS-Search)”. www.jbis.or.jp. 2023年8月5日閲覧。
  47. ^ アミー”. JBISサーチ. 2019年7月31日閲覧。
  48. ^ ヤシロビックボーイ”. JBISサーチ. 2019年7月31日閲覧。
  49. ^ ヒラカツアスカ”. JBISサーチ. 2019年7月31日閲覧。
  50. ^ リスポンスフウジン”. JBISサーチ. 2019年7月31日閲覧。
  51. ^ ■1990年■日本ダービー~アイネスフウジン&中野栄治~”. 二宮清純 プロフェッショナル列伝. ニッポン放送. 2019年7月31日閲覧。
  52. ^ 中野師とアイネスフウジンとの出会い”. デイリー馬三郎. デイリースポーツ. 2019年7月31日閲覧。
  53. ^ 『優駿』1990年7月号 58頁
  54. ^ 馬主の自殺、バブルの残滓 今振り返る、平成ダービー「裏面史」 平成最後のダービー、30年の悲喜こもごも”. 文春オンライン. 文藝春秋. 2019年7月24日閲覧。
  55. ^ 『優駿』1990年6月号 12-13頁
  56. ^ 【平成の真実(10)】平成2年5月27日「史上最多19万人来場ダービー」 (3/4)”. サンスポZBAT競馬. サンケイスポーツ. 2019年7月24日閲覧。
  57. ^ 『優駿』2009年6月号 160頁
  58. ^ メイステークス|1990年05月26日”. netkeiba.com. 2021年5月28日閲覧。
  59. ^ 緻密な計算がもたらしたダービー優勝の栄冠”. サラブレモバイル. KADOKAWA. 2019年7月24日閲覧。
  60. ^ a b c 血統情報:5代血統表|アイネスフウジン”. JBISサーチ. 2017年8月28日閲覧。
  61. ^ アイネスフウジンの血統表”. netkeiba.com. 2017年8月28日閲覧。
  62. ^ a b 双子のサラブレッドが両馬ともにJRAデビューしたケースは - トリビア牧場”. 競走馬のふるさと案内所. 日本軽種馬協会. 2019年7月24日閲覧。
  63. ^ リアルポルクス”. JBISサーチ. 2019年7月24日閲覧。
  64. ^ リアルカストール”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2019年7月24日閲覧。






固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「アイネスフウジン」の関連用語

アイネスフウジンのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



アイネスフウジンのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアイネスフウジン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS