くノ一
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/03 23:16 UTC 版)
山田風太郎の時代小説『忍法帖シリーズ』をはじめとして[3]、くノ一は小説、テレビドラマ、映画、漫画など多数の創作物に登場するが、三重大学山田雄司、吉丸雄哉らによる近年の研究によれば、男性と同じように偵察や破壊活動を行った女性忍者の存在については史料に記録がない[1][2]。
吉丸の調査によれば、創作物においてくノ一が女忍者の意味に用いられるようになったのは山田風太郎の『忍法帖シリーズ』の影響が大きい[3]。
江戸期における「くノ一」の語
語源
くノ一が女を指すのは、「女」という漢字を書き順で1画ずつに分解すると「く」「ノ」「一」となるためであると思われる[1]。
江戸期における意味
江戸期には「くノ一」は「女」を指す隠語として使われており、女忍者の意味はまったくなかった[4]。
用例
江戸期には「くノ一」の用例が少ない。これは当時「女」という字は「くノ一」に分解できる楷書体ではなく、くずし字の草書体で書かれることが多かったからかもしれない[1]。
古い用例
くノ一の古い用例として以下の句
香炉峰くノ一籠る簾(みす)のひま — 俳諧点者遠舟(1653~)の自薦句集『遠舟千句附』(延宝8年刊)
がある[1]。これは『枕草子』299段を踏まえたもので、「くノ一」は清少納言を指す[1]。
くノ一の術
忍法書の『万川集海』巻八には「くノ一の術」が載っている[1][5]。これは男では潜入しにくい場合、代わりに女を潜入させるというものである[6][7]。
また「くノ一の術」の次に載っている「隠蓑の術」は「くノ一」が木櫃を取り寄せるという口実を奥方に述べる事により、二重底の木櫃を使って人を潜入させる術である[6]。
どちらも「女を使った術」という趣旨である[6]。これを女の忍びとみなすか[8]、女の忍びは存在しないとみなすか[6]は論者によって分かれる。
その他の俗説
作家の戸部新十郎は、実際の語源は陰陽道における房術を指す「九一ノ道」が本義であり、「九」の字がたまたま、平仮名の「く」の字と同じ発音のうえ、「一」と合すれば、ともに「女」となることから「くノ一」というふうになったとする「九一ノ道説」を主張している[9]。
近代の創作物における用例と意味
初期の用例
初期の用例としては下記のものがあるが、いずれも「女忍者」という意味ではない。
- 五味康祐の『柳生武芸帳』(1956 - 1958年)には女に化ける「くノ一の術」が登場する[10]。
- 司馬遼太郎の出世作『梟の城』(1958 - 1959年)では、男の忍者が、自身に恋心を抱く女を「くノ一の術」に利用する[10]。
初期の忍法帖シリーズ
冒頭で述べたように、創作物においてくノ一が女忍者の意味に用いられるようになったのは山田風太郎の『忍法帖シリーズ』の影響が大きい[3]。
しかし『忍法帖シリーズ』の第1期作品(1964年の『野ざらし忍法帖』まで)では女忍者を「くノ一」とは呼んでいない[11]。題名に「くノ一」の語がある『くノ一忍法帖』(1960年 ~ 1961年)においても女の忍者は「くノ一」ではなく「女忍者」と呼んでおり、「くノ一」の語は女の隠語として用いている[11]。
「くノ一=女忍者」の普及
1964年の『忍法八犬伝』には
八人の女忍者、いわゆる服部くノ一衆もまじっていた。 — 山田風太郎『忍法八犬伝』
という記述があり、くノ一が女忍者の意味で使われている[12]。同年10月には『くノ一忍法帖』の映画版が公開されており[12]、題名から「くノ一」=「女忍者」と解釈した人もいた可能性がある[12]。
『自来也忍法帖』(1965年)、『忍びの者』、『倒の忍法帖』、『くノ一死ににゆく』(1967年)といった山田風太郎作品では「くノ一」は「女忍者」の意味の普通名詞として用いられているので、このあたりで「くノ一」=「女忍者」が普及したものと思われる[12]。
- 1 くノ一とは
- 2 くノ一の概要
- 3 くノ一が登場する作品
- 4 脚注
- くノ一のページへのリンク