ミントゥチ
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ミントゥチ(mintuci)またはミントゥチカムイ(mintuci kamuy)は、アイヌに伝わる水棲の半人半獣の霊的存在。河童に類する妖怪ともいわれる。
注釈
- ^ "mintuchi"という表記がジョン・バチェラーの『アイヌ・英・和辞典』で使われている。
- ^ 「ミンツゥチ」という表記も大正期の論文に見える[4]。
- ^ 高見沢はミントゥチと「蛟」を関連付けているが、そこで引用されている桜井、、あくまで本州や九州のミズシ、メドチ系と蛟の語源関係について考察している。東北のメドチと蛟を関連付ける仮説は既に南方熊楠の『十二支考』(1917年)にみえる[18]。
- ^ 十勝の伏古別(現・帯広市)のアイヌのあいだでは「フンヅゥチ」と呼ばれると大正期の論文に記録される[4]。
- ^ ここでは更科源蔵が収集した「河童を焼いた灰」の付注を引用するが、この話ではモシリ・シンナイサムという化け物を「河童」に充てている。
- ^ バチェラーは、ミントゥチが「肉の悪魔」という意味なのは、この肉質の頭に拠ると説いている。
- ^ 近文コタンの若者が湧別へ行くが、その途中(石狩川の上流から下流へくだる途中)で河童(ニントチカムイ)に遭遇する話。河童の予言通り、行先の村人は若者の用件(宝物を返してもらう)に応じたくないので、巨鳥「フリーカムイ」のところにさしむけるが、若者は河童にもらった小さな袋に守られて攻撃に耐え、美しい羽を得る。
- ^ ニオイ(荷負、現・日高の平取町の字)という部落のイトンビヤと言う人物が、アブシというところ(平取町内)で鎌状の足跡を発見したとされる[4]。
- ^ ジョン・バチェラーは(鎌形とはいわずに)手足の代わりに蹄を持っていると表現している[5]。
- ^ 原文では「ミンツゥチトノ」。ミントゥチの殿様、の意。
- ^ 上田トシ伝の説話では、若者が十勝川の下流に行く途中で河童(ミントゥチカムイ)のねぐらに宿泊し(「石狩川の河童」[27]に似た発端)、木幣(inaw イナウ)を立て食事を共にして恩恵を受けることになるが、のちに河童は「硬い木幣(nitne inaw)と硬い酒粕」で祀ってくれたらよい、と指示している[32]。この表現は「粗末な木幣」とも訳される[33]。
- ^ 吉田巌が発表した沙流川の話例では、酋長の荷運びを手伝ったミントゥチが供応を要求し、その褒美として金の煙草入れを、夜襲からのお守りとして渡した。他村の襲撃を受けたとき、もてなしに加わった者は無事だったが、集まらなかったものは殺されたという[4]。安藤美紀夫編「河童の話」でも河童の神(ニントチカムイ)が金の煙草の護符を授ける[34]。
- ^ チシナプカムイはノヤイモシカムイ noya-imos-kamuy 'ヨモギの呪術に入った神'とも呼ばれる[39]。
- ^ 日本語の「ヨモギ」はふつう Artemesia princepsという種を指すが、アイヌが「ノヤ・カムイ」等、単に「ノヤ」という場合はエゾヨモギ(オオヨモギ A. montana )を指すのだと説明される[40]。
出典
- ^ アイヌ無形文化伝承保存会, ed (1983). アイヌの民話. 1. p. 27
- ^ a b 兼松 (1985).
- ^ 石川 (1985).
- ^ a b c d e f g 吉田巌「アイヌの妖怪説話 (續)」『人類学雑誌』第29巻、第10号、日本人類学会、405–407頁、1914年10月 。
- ^ a b c d e Batchelor, John (1905). An Ainu-English-Japanese Dictionary アイヌ・英・和辭典 (2nd ed.). Methodist Publishing House. pp. 265–266
- ^ 高見沢 (1995), p. 359.
- ^ 柳田國男「河童駒引」『山島民譚集』、創元社、大阪、113頁、1942年 。
- ^ コシンプ【 kosimpu】妖精. 萱野茂『アイヌ語辞典』三省堂、1996年、237頁。ISBN 9784385170503 。
- ^ 【コシンプ】 kosimpu 妖魔. 知里真志保「分類アイヌ語辞典」『常民文化研究』第68号、143–144頁、1936年 。
- ^ a b c d Batchelor (1901), p. 545.
- ^ ジョン・バチェラーのアイヌ語彙(『アイヌ・英・和辞典』)に拠る。原文は"fabulous animal"で[5]、直訳せば「架空の動物(幻獣)」の意味であり、高見沢の"伝説上の動物"[6]が正確であろう。ただ"幻獣"でなく"霊物"との訳も柳田國男 (1942)[1014](金田一京助談として)[7]や石川 (1985), p. 250にみられる。この「霊物」の解釈の正当化については、もう少し掘り下げてみる必要がある。バチェラーは『辞典』でミントゥチを「人魚(マーメイド)」のたぐいであると追記しているが[5]、この「人魚」を「幻獣」よりも「精霊」の意味でとらえていたことを示すバチェラーの別の著作がある。そこではバチェラーは、「水のコシンプク」(koshimpuk, コシンプに同じ)を英語の「人魚(マーメイド)」に充てており、コシンプ[ク]とはアイヌ語で'妖精'や'妖魔'などを意味する[8][9]。そしてこの水のコシンプク(水妖精)の一種が「ミントゥチ」という通称をもつ水の精霊(ニュンペー)だと記述する[10]。
- ^ a b c 草野巧; シブ・ユウジ『幻想動物事典』(初版)新紀元社、1997年、299頁。ISBN 978-4-88317-283-2。
- ^ a b c d e 草野巧、戸部民夫『日本妖怪博物館』(初版)新紀元社、1994年、109頁。ISBN 978-4-88317-240-5。
- ^ a b c d e f g h i j k 村上健司編著『日本妖怪大事典』角川書店〈Kwai books〉、2005年、317-318頁。ISBN 978-4-04-883926-6。
- ^ 石川 (1985), pp. 250–251.
- ^ a b 矢崎春菜「河童伝承からみるアイヌ語「ミントゥチ」と日本語「ミヅチ」の関係性」『2013年度第2回研究会発表要旨』、日本人類学会、405-407頁、2013年 。
- ^ 高見沢 (1995), p. 359。桜井満"加賀、能登方面でミズシ.."を引用。
- ^ 南方熊楠「十二支考(4):蛇に関する民俗と伝説」『太陽』1917年。 青空文庫 No.2536; 南方熊楠 著「蛇に関する民俗と伝説」、飯倉照平 編『十二支考 1』平凡社〈東洋文庫 215〉、1973年、231頁 。
- ^ a b 金田一 (1914), p. 23.
- ^ a b c 水木しげる『妖鬼化 1 関東・北海道・沖縄編』Softgarage、2004年、126頁。ISBN 978-4-86133-004-9。
- ^ 中川裕『アイヌ語千歳方言辞典』草風館、1995年、126頁。ISBN 4-88323-078-3。
- ^ 兼松 (1985), pp. 120, 127.
- ^ 白老楽しく・やさしいアイヌ語教室編 『アイヌ語白老方言の研究1』白老楽しく・やさしいアイヌ語教室、2010年。
- ^ 兼松 (1985), p. 127.
- ^ 更科源蔵「河童を焼いた灰」『アイヌ民話集』北書房、1963年、58–59頁 。。異称についての注は59頁、再版の更科(1981b)では、77頁。
- ^ a b c 石川 (1985), p. 255.
- ^ a b 更科 (1971) 「石狩川の河童」『アイヌ伝説集』312–313頁(近文・川村ムイサシマッ姥伝)。
- ^ 大島建彦; 薗田稔; 薗田文雄『日本の神仏の辞典』大修館書店、2001年、1236頁。ISBN 9784469012682 。
- ^ 三浦 (2002), p. 121。中川裕の論文を挙げる。
- ^ 石川 (1985), p. 251.
- ^ 石川 (1985), p. 251、『アイヌ伝説集』に拠る。
- ^ 大谷 (2016)(要約)57–58頁;(テキスト・対訳)60–73頁。アイヌ語散文説話(ウウェペケㇾ)、沙流郡平取町ペナコリ・上田トシ (1912~2005)伝。
- ^ 上田トシ「4. ウサギの穂摘み」『上田トシの民話 2』アイヌ民族博物館〈アイヌ民話ライブラリ 2〉、2014年、97頁 。 1996年9月28日採録。
- ^ 更科源蔵; 安藤美紀夫「河童の話」『北海道の伝説』角川書店〈日本の伝説 17〉、1977年4月、202–204頁。 (大谷 (2016), p. 59に要約)
- ^ 藤田護 著、中川裕 編「飢饉を主題とするアイヌの神謡 - 人間とカムイの世界の対称性、起原の探究、語りの自由 -」『千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書』188 アイヌ語韻文表現法、67, n9頁、1995年 。
- ^ 三浦 (2002), p. 119で起源譚と明言。藤田に拠る[35]。
- ^ 金田一 (1914), p. 24.
- ^ 金田一は"Chi-shinap-kamui"と表記[37]。
- ^ a b 萱野茂『五つの心臓を持った神: アイヌの神作りと送り』小峰書店、2003年、262頁。ISBN 9784338081443 。
- ^ 更科源蔵『アイヌ文学の謎』みやま書房〈更科源蔵アイヌ関係著作集7〉、1982年11月、153頁 。
- ^ 金田一 (1914), p. 24; 石川 (1985), p. 257に要約。
- ^ 三浦 (2002), p. 122.
- ^ a b 稲田浩二; 小沢俊夫 編『日本昔話通観: 北海道(アイヌ民族)』 1巻、同朋舎、1989年、164, 901頁。ISBN 9784810406177 。
- ^ 平山裕人『アイヌ史を見つめて』北海道出版企画センター、1996年、453頁。ISBN 9784832896024 。
- ^ 民間伝承の裏には実際日本の弁財船が疱瘡罹患者を打ち捨てていったためアイヌに蔓延したという史実があると考察されている(『日本昔話通観』1 巻 46 話)[43][44]。ただしこれはミントゥチの起源譚と結びつけられてない"疱瘡神が弁財船でやってきて"という話についてである。
- ^ 多田克己『幻想世界の住人たち IV 日本編』新紀元社〈Truth In Fantasy〉、1990年、117頁。ISBN 978-4-915146-44-2。
- ^ 石川 (1985), p. 257.
- 1 ミントゥチとは
- 2 ミントゥチの概要
- 3 参考文献
- 4 関連項目
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