GDNFファミリーリガンドとは? わかりやすく解説

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GDNFファミリーリガンド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/23 10:15 UTC 版)

GDNFファミリーリガンド: GDNF family ligand、略称: GFL)は、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン英語版(NRTN)、アルテミン英語版(ARTN)、パーセフィン英語版(PSPN)の4種類の神経栄養因子からなるファミリーである。GFLは、細胞の生存、神経突起の成長、分化遊走など、いくつかの生物学的過程に関与していることが示されている。特に、GDNFによるシグナル伝達はドーパミン作動性ニューロンの生存を促進する[1]

シグナル伝達複合体の形成

標的細胞の表面では、特定のGFL二量体、受容体型チロシンキナーゼ分子RET、そしてGFRα英語版タンパク質ファミリーに属する細胞表面結合型コレセプターからなるシグナル伝達複合体が形成される。コレセプターであるGFRα1英語版GFRα2英語版GFRα3英語版GFRα4英語版の主要なリガンドはそれぞれ、GDNF、NRTN、ARTN、PSPNである[2]。まずGFLとGFRαの複合体が形成され、複合体は2分子のRETを呼び寄せて結合させることで各RET分子のチロシンキナーゼドメイン内の特定のチロシン残基のトランスリン酸化を開始させる。こうしたチロシン残基のリン酸化によって、細胞内のシグナル伝達過程が開始される。

GDNFの場合、RETを介したGDNFシグナルの伝達が生じるためには、細胞表面にヘパラン硫酸グリコサミノグリカンも必要であることが示されている[3]

臨床的意義

いくつかの疾患において、GFLは重要な治療標的となっている。

GDNFはパーキンソン病の2つの臨床試験[4][5]といくつかの動物実験で有望な結果が示された。この結果はプラセボ効果によるものであることが後に他の研究で報告されたものの、GDNFを被殻に送達する試みは継続されている。GDNFは運動ニューロンの強力な生存因子であるため、ALSの治療に重要である可能性がある[6]。さらに、薬物依存[7]アルコール依存症[8]の治療標的として、GDNFの重要性が報告されている。

NRTNもパーキンソン病やてんかんへの治療応用が試みられている[9]。NRTNは前脳基底部英語版コリン作動性ニューロン英語版[10]や脊髄の運動ニューロン[11]の生存を促進するため、アルツハイマー病やALSの治療法としての可能性がある。

ARTNは慢性疼痛の治療として臨床的可能性がある[12]

PSPNはマウス胚の前脳基底部のコリン作動性ニューロンの生存を促進することがin vitroで示されており[10]、アルツハイマー病治療への可能性がある。また、脳卒中の治療への臨床応用の可能性もある[13]

このようにGFLには非常に幅広い治療応用の可能性があるため、GFRα/RET受容体複合体活性の調節に多くの関心が寄せられている。しかしながら、天然型GFLの臨床使用は限定的なものとなっている。GFLは正に帯電したポリペプチドであるため血液脳関門を通過することができず、標的組織への分布は非常にわずかなものとなる。そのため、効果的治療法開発にはこれらの受容体に対する低分子アゴニストの創出が非常に有用なものとなると考えられている[14]

出典

  1. ^ “The GDNF family: signalling, biological functions and therapeutic value”. Nat Rev Neurosci 3 (5): 383–94. (2002). doi:10.1038/nrn812. PMID 11988777. 
  2. ^ “RET tyrosine kinase signaling in development and cancer”. Cytokine Growth Factor Rev. 16 (4–5): 441–467. (2005). doi:10.1016/j.cytogfr.2005.05.010. PMID 15982921. 
  3. ^ “Signalling by glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF) requires heparan sulfate glycosaminoglycan”. J. Cell Sci. 115 (23): 4495–4503. (2002). doi:10.1242/jcs.00114. PMID 12414995. 
  4. ^ “Direct brain infusion of glial cell line-derived neurotrophic factor in Parkinson disease”. Nat Med 9 (5): 589–95. (2003). doi:10.1038/nm850. PMID 12669033. 
  5. ^ “Improvement of bilateral motor functions in patients with Parkinson disease through the unilateral intraputaminal infusion of glial cell line-derived neurotrophic factor”. J. Neurosurg. 102 (2): 216–22. (2005). doi:10.3171/jns.2005.102.2.0216. PMID 15739547. 
  6. ^ “GDNF: a potent survival factor for motoneurons present in peripheral nerve and muscle”. Science 266 (5187): 1062–1064. (1994). Bibcode1994Sci...266.1062H. doi:10.1126/science.7973664. PMID 7973664. 
  7. ^ “Increased extracellular dopamine concentrations and FosB/DeltaFosB expression in striatal brain areas of heterozygous GDNF knockout mice”. Eur J Neurosci 20 (9): 2336–2344. (2004). doi:10.1111/j.1460-9568.2004.03700.x. PMID 15525275. 
  8. ^ “Glial cell line-derived neurotrophic factor mediates the desirable actions of the anti-addiction drug ibogaine against alcohol consumption”. J Neurosci 25 (3): 619–28. (2005). doi:10.1523/JNEUROSCI.3959-04.2005. PMC 1193648. PMID 15659598. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1193648/. 
  9. ^ “Neurturin exerts potent actions on survival and function of midbrain dopaminergic neurons”. J Neurosci 18 (13): 4929–4937. (1998). doi:10.1523/JNEUROSCI.18-13-04929.1998. PMC 6792569. PMID 9634558. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6792569/. 
  10. ^ a b “Neurturin and persephin promote the survival of embryonic basal forebrain cholinergic neurons in vitro”. Exp Neurol 184 (1): 447–55. (2003). doi:10.1016/j.expneurol.2003.07.999. PMID 14637114. 
  11. ^ “Responsiveness to neurturin of subpopulations of embryonic rat spinal motoneuron does not correlate with expression of GFR alpha 1 or GFR alpha 2”. Dev Dyn 220 (3): 189–97. (2001). doi:10.1002/1097-0177(20010301)220:3<189::AID-DVDY1106>3.0.CO;2-I. PMID 11241828. 
  12. ^ “Multiple actions of systemic artemin in experimental neuropathy”. Nat Med 9 (11): 1383–1389. (2003). doi:10.1038/nm944. PMID 14528299. 
  13. ^ “Effects of cerebral ischemia in mice deficient in Persephin”. Proc Natl Acad Sci USA 99 (14): 9521–9526. (2002). Bibcode2002PNAS...99.9521T. doi:10.1073/pnas.152535899. PMC 123173. PMID 12093930. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC123173/. 
  14. ^ Bespalov M.M.; Saarma M. (2007). “GDNF family receptor complexes are emerging drug targets”. Trends Pharmacol. Sci. 28 (2): 68–74. doi:10.1016/j.tips.2006.12.005. PMID 17218019. 

外部リンク


GDNFファミリーリガンド

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グリア細胞株由来神経栄養因子」の記事における「GDNFファミリーリガンド」の解説

GDNF1991年発見され、GDNFファミリーリガンド(英語版)(GFL)で最初に発見されメンバーである。

※この「GDNFファミリーリガンド」の解説は、「グリア細胞株由来神経栄養因子」の解説の一部です。
「GDNFファミリーリガンド」を含む「グリア細胞株由来神経栄養因子」の記事については、「グリア細胞株由来神経栄養因子」の概要を参照ください。

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