配偶者防衛とは? わかりやすく解説

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配偶者防衛

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2012/02/06 17:25 UTC 版)

行動生態学での専門用語。 オスが自分の子供を確実に残す為、メスの行動を制限する事を指す。哺乳類に限らず生物全般に見られる[1]

目次

女性の処女性を重視するという考え

進化心理学社会生物学の視点では、婚姻もしくは交尾の際に女性の処女性を重視するという考えは、雌(女性)が他の雄(男性)と配偶しないように阻止するという行動を配偶者防衛という本能で説明している[2] [3] [4]。配偶者防衛は、雄が子の父性を確実にするために行うと考えられており、多数の種の動物に見られる行動である[5]。これは雌(女性)が出産するという繁殖のシステム上どうしても父側の遺伝子については明確にはならない事が発端となっており、父性の確実さを求めることは、ヒトの場合は特に男性が子の生育に対して多大な投資を行う際に強くなると考えられている[6]

ヒトの配偶者防衛として考えられているものには、婚姻時の処女性の重視のほかに、北アフリカを中心に行われる女子割礼や、インドイスラム世界などで今もみられる女性の行動を制限したり、他の男性に会わないようにさせたりする風習アラブ世界の女性のベール中国纏足などもある。これら女性の行動をコントロールするような風習がある社会では、強い父系と父方住居の文化を持ち、女性の生活は配偶者の男性に完全に依存している。つまり、男性の子に対する投資が大きい社会であり、そのために配偶者防衛が色濃く現れていると考えられる[7] [8]

の蓄積などにより、男性が生存と生殖に必要な資源を握っている場合、男性は自分の資源を確実に自分の子のみに使わるようにするため、配偶者防衛を厳しく行う[9]。だが、同じ社会でも富の蓄積のない下層階級はそのような配偶者防衛はあまりみられない[10]狩猟採集社会や、現代の先進国のように女性が独立した生活手段を比較的獲得しやすい社会でも、男性の配偶者防衛はあまり強くなく、婚姻の条件としては、年齢が近く、話があい、性格があうというような「同類交配」を好む傾向がある[11]。富の蓄積の可能な農耕牧畜の発達は、1万年くらい前からであり、配偶者防衛による女性の行動をコントロールしようとする傾向が、遺伝的変化を起こしたせいなのか、世代間の学習によるものか、いまのところどちらともいえない[12]


人間独自にみられる配偶者防衛の要因

 ではなぜ社会的生物である人間が自らの子供に自らの遺伝子を求めるのかというと以下のようなものが挙げられる。

  1. 子供を育てるのにかかる経済的時間的負担が大きい…人間社会、特に日本では父親が子育てに費やす経済的負担が大きく、それにより大きく自らの選択権を制限される。このような負担をしている以上、それに対する対価として自らの遺伝子を持った子供である事を望むのは当然である[13]
  2. 遺産や家督権など死後…自らの死後、その財産を子供に分配するが他人の遺伝子を持った存在により自らの遺伝子を持った子供の分配が減ったりする事はその後により効率的に遺伝子を残し続ける上で甚だ不都合である[14]
  3. 性病のまん延…人間には多種多様な性病があり、性病は本人だけではなくその子供にも感染するケースが少なくない。しかし性病は個人の努力だけではなく相手の努力も必要なので必然的に性病リスクの低い相手を選ぶのは当然。
  4. 堕胎に対する警戒…自らの子供を確実に産み、育てる必要がある為、堕胎を利用できる人間ではそういった行為をした事のない相手を選びがちである。

海外の配偶者防衛の例

  1. イスラム女性の顔を隠すベール
  2. 中国の纏足[15]

脚注

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  1. ^ はてなキーワードの配偶者防衛の項目 http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C7%DB%B6%F6%BC%D4%CB%C9%B1%D2
  2. ^ 長谷川寿一 長谷川眞理子 『進化と人間行動』 東京大学出版、2000年、243頁。ISBN 978-4-13-012032-6。2012年1月30日閲覧。
  3. ^ ジャレド・ダイアモンド  (1993). 人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り. 新曜社, pp. 138-143. ISBN 4-7885-0461-8. 2012年1月30日閲覧。 
  4. ^ ロバート・ウィンストン  (2008). 人間の本能-心にひそむ進化の過去. 新曜社, p. 130. ISBN 4-7885-0461-8. 2012年1月30日閲覧。 
  5. ^ 『進化と人間行動』 著者:長谷川寿一 長谷川真理子 出版:東京大学出版 P.201-203
  6. ^ 長谷川寿一 長谷川眞理子 『進化と人間行動』 東京大学出版、2000年、243頁。ISBN 978-4-13-012032-6。2012年1月30日閲覧。
  7. ^ 長谷川寿一 長谷川眞理子 『進化と人間行動』 東京大学出版、2000年、243-244頁。ISBN 978-4-13-012032-6。2012年1月30日閲覧。
  8. ^ 例えば、ケニアの牧畜民、キプシギスの社会は伝統的な父系社会であり典型的な一夫多妻制である。男性の家族は女性の家族に婚資を払って、嫁となる女性を得る。婚資の価値基準は、若くて繁殖力があることと、処女であることである。処女はこれまでにどんな男性とも性交渉を持っていないので、他の男性の子を妊娠していることは考えられず、確実に自分の子に財産を受け継ぐことができる。また、親のいいつけを守って男性と性交渉をしなかった女性なので、結婚後も夫に従い浮気をする可能性は低いと考えられ、このような女性は婚資が高くなる 『進化と人間行動』 P.230-232 2012年2月1日閲覧
  9. ^ 長谷川寿一 長谷川眞理子 『進化と人間行動』 東京大学出版、2000年、P.243-244 P.247-248 P.250-251。ISBN 978-4-13-012032-6。2012年1月30日閲覧。
  10. ^ 長谷川寿一 長谷川眞理子 『進化と人間行動』 東京大学出版、2000年、248頁。ISBN 978-4-13-012032-6。2012年1月30日閲覧。
  11. ^ 長谷川寿一 長谷川眞理子 『進化と人間行動』 東京大学出版、2000年、238 248。ISBN 978-4-13-012032-6。2012年1月30日閲覧。
  12. ^ 長谷川寿一 長谷川眞理子 『進化と人間行動』 東京大学出版、2000年、252頁。ISBN 978-4-13-012032-6。2012年1月30日閲覧。
  13. ^ 「異文化の理解」佐藤廉也(九州大学準教授)http://scs.kyushu-u.ac.jp/~yt1/staff/sato/culture_2003_2.pdf
  14. ^ 長谷川寿一 長谷川眞理子 『進化と人間行動』 東京大学出版、2000年、P.243-244 P.247-248 P.250-251
  15. ^ 「異文化の理解」著者:佐藤廉也(九州大学準教授、文化地理学・生態人類学)http://scs.kyushu-u.ac.jp/~yt1/staff/sato/culture_2003_2.pdf#search='配偶者防衛 纏足'

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