沖縄・自衛官爆死事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/13 07:28 UTC 版)
沖縄・自衛官爆死事件(おきなわ・じえいかんばくしじけん)は2003年(平成15年)8月31日に沖縄県沖縄市の資材置き場で53歳の男性自衛官一人が爆発による負傷で失血死、後に同自衛官が趣味などで収集していたと見られる多量の武器・弾薬が住宅地のアパート2部屋から発見された一連の事件[1]。
概要
2003年(平成15年)8月31日15時50分頃、沖縄市内の調理師で廃品回収業の男性の所有する資材置き場で、男性の知人である航空自衛隊那覇基地の整備補給群車両器材隊に所属する空曹長53歳(非番中)がワゴン車から荷物を下ろしている際に爆発が発生、火傷と負傷により死亡した[2]。
この爆発事故ではその場に同自衛官のほかに資材置き場所有者のほかトラック運転手(27歳)が居合わせたが特に負傷は無かった。しかし問題の爆発した荷物以外にビニール袋に入った米軍のものと思われる「訓練用40mm擲弾」などがワゴン車助手席から発見されるなどしたため、翌9月1日に県警が火薬類取締法違反容疑で被疑者死亡のまま同自衛官宅の捜索を行ったところ、米軍の訓練弾・ロケット弾の尾翼・模造とみられるライフル銃・薬莢ベルト・導火線点火具といった軍用品の類を押収した[3][4]。
9月3日には同自衛官宅から信管の付いた対戦車ロケット弾2発やM16軍用ライフルなどが押収された[5][6]。同自衛官は自宅アパートの一室に大量の武器弾薬を隠し持っていたため、一時はアパート住民を退避させてロケット弾の回収作業が行われる事態となった[7]。沖縄県警によると武器庫のようだったという[8]。
9月4日には同自衛官が那覇市小禄の別所に倉庫として借りていたもう一つのアパートが捜索されたが、ここからも対戦車ロケット弾ランチャーや米軍の旧装備であるM1カービン、実弾多数が発見され、同事件で発見された実弾総数は660発を超えた[9][10]。
9月6日には米空軍爆発物処理隊の協力で、66ミリ対戦車りゅう弾2発・他2発の計4発が処理されている[11][12]。この処理にあたっては、沖縄県警が周囲100mの住民約550人を避難させた[11]。
同事件ではこの他、防弾チョッキや手投げ発煙筒などが後日押収されている[13]。なお、同事件で押収された違法な武器弾薬は以下のとおり[14]。
計2332点
なお同事件では同自衛官と私的な取引のあった軍用品店経営者宅ら24箇所が家宅捜索され、2名が銃刀法違反で現行犯逮捕された[15][16]。県警側では大規模な武器流出ルートを調べるため、これ以外の軍用品店経営者ら20名ほどが事情聴取を受けたが、同自衛官との取引は否定している[17]。
事件後の動向
自衛官爆死事件を受けて那覇基地では勤務する隊員約3000名に対して聞き取り調査が行われたが、「(軍用品などの)マニアである」と回答した隊員が数人いたことを明らかにした[18]。
2003年(平成15年)9月18日、沖縄県議会は「県民が爆発物の危険や恐怖と隣り合わせの生活を余儀なくされている」として外務大臣や防衛庁長官に事件の原因究明と再発防止を求める意見書を全会一致で可決した[19]。
2003年(平成15年)11月6日、在日沖縄米軍は本事件に絡み沖縄県警からの照会に対し、「4月にキャンプ・ハンセンでロケット弾の発射訓練を行った」と文書回答した[20]。その後、M16軍用ライフルとM1カービンの使用時期などについては「古いので記録が残っておらず、詳細を確認できない」と回答した[21]。
関係者の処分
空曹長に対する処分
2003年(平成15年)10月15日、沖縄県警は空曹長を被疑者死亡のまま銃刀法違反、火薬類取締法違反容疑で那覇地検に書類送検した[22]。
2004年(平成16年)1月、那覇地検は空曹長を被疑者死亡のため不起訴処分とした[23]。また、銃刀法違反容疑で逮捕・送検された軍用品店経営者2名も不起訴処分とした[23]。
空曹長の上司に対する処分
2004年(平成16年)1月13日、航空幕僚監部は南西航空混成団司令・小鹿勝見を注意、那覇基地司令兼第83航空隊司令・彌田清を訓戒処分とした[24][25]。
背景・動機

この事件では、マニア筋に不発弾の類が高値で売れることなどが原因とみられている[26][27]。爆死した自衛官と資材置き場所有者・トラック運転手は「フリーマーケットで知り合った」としており、同自衛官死亡時には現金60万円のほか米ドル紙幣を所有しており、米軍払い下げ品などを扱う業者は「小遣い稼ぎに軍用品を売る米兵は少なくない。マニアにとって沖縄は天国」とマニア向け密売ルートの存在も示唆されている[28]。
こういった不正な武器弾薬の持ち出しは時折問題とされるが、本事件の2か月前(2003年6月30日)には静岡県裾野市で、宅配便荷物に入れられてインターネットオークション経由でマニア間で売買されていた砲弾に混じっていた不発弾が爆発、アルバイト宅配便従業員が全治3週間の怪我をする事件が発生した[29][30]。この不発弾は、陸上自衛隊東富士演習場から近所に住むマニアが不正に持ち出したものとされるが、類似の事例は過去にも発生している(→不発弾)。
関連項目
出典
- ^ 『毎日新聞』2003年9月3日 西部夕刊 社会面7頁「沖縄の爆発事故 軍用品の処分ルート調査へ--県、米軍に改善要求も」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月1日 全国版 西部夕刊 夕社会9頁「自衛官死亡、洗浄中に爆発か 車内から演習弾28発回収/沖縄県警」(読売新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月2日 全国版 西部朝刊 社会31頁「沖縄・自衛官爆死事故 「車内に銃砲弾」、数日前知人目撃/県警」(読売新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月2日 全国版 西部夕刊 夕社会9頁「自衛官爆死事故 米軍の銃砲弾?100発以上自宅から押収/沖縄」(読売新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月4日 全国版 西部朝刊 C社会33頁「自衛官爆死 ロケット弾、6日に処理 押収実弾600発に/沖縄」(読売新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月4日 全国版 西部夕刊 夕社会7頁「自衛官爆死 爆発はロケット弾?復元金属片、尾翼と一致/沖縄県警」(読売新聞西部本社)
- ^ 『毎日新聞』2003年9月6日 西部夕刊 1面1頁「不発弾処理、緊迫の2時間 550人うんざり--沖縄・爆死自衛官の自宅」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月6日 全国版 東京朝刊 一面1頁「自衛官爆死 自宅はまるで武器庫=写真」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月5日 全国版 西部朝刊 社会31頁「沖縄の爆死自衛官 軍用品店開業を計画? 来年6月退職機に空自司令が謝罪」(読売新聞西部本社)
- ^ 『毎日新聞』2003年9月5日 西部朝刊 1面1頁「沖縄の自衛官爆死 1000点超す武器所有か 隊員24万人調査」(毎日新聞西部本社)
- ^ a b 『読売新聞』2003年9月6日 全国版 東京夕刊 夕2社14頁「沖縄の自衛官爆死事件 ロケット弾2発処理 住民550人避難」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月7日 全国版 西部朝刊 一面1頁「沖縄・自衛官爆死 ロケット弾4発の処理完了」(読売新聞西部本社)
- ^ 『毎日新聞』2003年9月8日 西部朝刊 社会面23頁「沖縄の自衛官爆死 押収物1000点超す--家宅捜査再開」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『毎日新聞』2003年9月9日 西部朝刊 社会面23頁「沖縄の自衛官爆死 武器、弾薬2300点押収 銃弾類はすべて火薬入り」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月22日 全国版 西部夕刊 夕社会9頁「自衛官爆死 取引先から銃弾押収 銃刀法違反容疑 沖縄県警、24か所捜索」(読売新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月23日 全国版 西部朝刊 社会33頁「自衛官爆死 取引先の2人逮捕 経営の米軍用品店に銃剣/沖縄県警」(読売新聞西部本社)
- ^ 『毎日新聞』2003年10月16日 西部朝刊 社会面25頁「ロケット弾の出所、米軍施設を特定 爆死自衛官を書類送検--沖縄」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『毎日新聞』2003年9月4日 西部朝刊 社会面25頁「沖縄の自衛官爆死 ライフルに実戦装置--「米軍から流出」強まる」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『毎日新聞』2003年9月18日 西部夕刊 社会面6頁「自衛官爆死で、外相らに意見書--沖縄県議会」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『毎日新聞』2003年11月8日 西部朝刊 社会面25頁「沖縄・自衛官爆死事件 県警照会に、米軍が文書回答」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『毎日新聞』2003年12月17日 西部夕刊 社会面7頁「沖縄・自衛官爆死 銃の確認不可能--米軍が県警に回答」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年10月16日 全国版 東京朝刊 2社38頁「爆死の自衛官、書類送検 武器入手ルート解明できず/沖縄県警」(読売新聞東京本社)
- ^ a b 『毎日新聞』2004年1月24日 西部朝刊 社会面22頁「沖縄・自衛官爆死事件 被疑者死亡で、空曹長を不起訴」(毎日新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2004年1月14日 全国版 西部朝刊 社会29頁「沖縄自衛官爆死事件 空将ら処分/防衛庁」(読売新聞西部本社)
- ^ 『朝日新聞』2004年1月14日 朝刊 2社会30頁「監督責任問い上司2人処分 沖縄自衛官爆死事件【西部】」(朝日新聞西部本社)
- ^ 『朝日新聞』2003年9月5日 夕刊 2社会8頁「武器は販売目的か 「マニアには有名」沖縄・爆死自衛官【西部】」(朝日新聞西部本社)
- ^ 『朝日新聞』2003年9月9日 朝刊 1社会35頁「不発弾、米演習場から 沖縄・爆死自衛官、周辺に話す【西部】」(朝日新聞西部本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月8日 全国版 東京朝刊 社会39頁「沖縄・爆死自衛官、武器・弾薬を米軍関係者から仕入れ? 財布に米ドル紙幣」(読売新聞東京本社)
- ^ 石田真一 (2003年7月1日). “宅配便トラック危機一髪!? 警察と自衛隊が必死に追跡”. レスポンス. 2020年10月11日閲覧。
- ^ “ヤマト運輸爆発事件 ネットで砲弾販売 送り主の板金工逮捕”. 河北新報. (2003年7月1日). オリジナルの2003年7月4日時点におけるアーカイブ。
外部リンク
- 沖縄自衛官爆死事件のページへのリンク