暗黒の壁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/22 00:14 UTC 版)
トリローンを廻るその惑星は、自転と公転の周期が一致していた。そのため恒星に面した側は永遠の昼、反対側は永遠の夜だった。人々はその中間の、細長い薄明帯で暮らしていた。昼の側の中心、つまり恒星が真上から照らすところに向かうにつれて、耐えられない高熱になった。夜の側には、それを囲むように、暗黒の高い壁が惑星を一周してそびえている。いまだかつて、その壁を登ったものはなく、壁の向こうは未知の世界だ。 あるとき2人の若者が知り合いになった。1人は地主の息子、もう1人は建築家の息子だった。2人は連れ立って壁を調査した。持っていったどんな器具や道具を使っても、壁を砕くことはおろか、傷つけることさえできなかった。測量機器を使って、高さを測定しただけだった。年月がたち、地主の息子は、親類縁者の土地をすべて相続して大地主になった。建築家の息子も、都市の設計を行うほど著名になっていた。 2人は壁を登ることを計画した。建築家が壁に沿って高いピラミッド状の足場を設計した。大地主は必要な資金を提供した。足場は壁の頂上から少し低く作られる。これが完成したとき、危険を避けるため大地主だけが、足場から押し上げられて壁の上に立った。それは壁ではなく、台地のようになっていた。彼は、台地の奥へ向かって歩き始めた。背後のトリローンはだんだん暗くなり、やがて見えなくなった。さらに進んだ大地主の前方に、明かりがみえてきた。それはトリローンに似ていた。もっと進むと台地の端が見えるではないか。そこから下を見下ろした彼には、苦労して作った足場が見えた。台地は「メビウスの輪」になっていた。
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