数学モデルによる考察
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/11 00:24 UTC 版)
「ホールドアップ問題」の記事における「数学モデルによる考察」の解説
自動車会社が部品会社に専用部品の開発を依頼し、部品会社は専用部品の開発のために x {\displaystyle x} の投資を行う。その際に部品会社が支払う費用は C ( x ) {\displaystyle C(x)} である。その後、完成した部品を受け渡しする際に、自動車会社は部品会社に報酬として W {\displaystyle W} を支払う。部品の価値(追加的価値)は部品会社の投資に依存するため、 R ( x ) {\displaystyle R(x)} である。すなわち、自動車会社は利益 π p ( x ) = R ( x ) − W {\displaystyle \pi _{p}(x)=R(x)-W} を獲得し、部品会社は利益 π a ( x ) = W − C ( x ) {\displaystyle \pi _{a}(x)=W-C(x)} を獲得する。 効率性の観点から言えば、自動車会社と部品会社の両者の利益の和 π ( x ) = π p ( x ) + π a ( x ) = R ( x ) − C ( x ) {\displaystyle \pi (x)=\pi _{p}(x)+\pi _{a}(x)=R(x)-C(x)} を最大とするような投資 x ⋆ {\displaystyle x^{\star }} を部品会社が行うことが望ましい。完備契約の場合、部品の取引によって生じる利益は π ( x ) = R ( x ) − C ( x ) {\displaystyle \pi (x)=R(x)-C(x)} であるため、自動車会社と部品会社はこの利益を等しく分けるような取引を行い、両者の利益はそれぞれ π ( x ) 2 {\displaystyle {\frac {\pi (x)}{2}}} となる(報酬 W = π ( x ) 2 + C ( x ) {\displaystyle W={\frac {\pi (x)}{2}}+C(x)} となる)。そのため、部品会社は π ( x ) 2 {\displaystyle {\frac {\pi (x)}{2}}} を最大化するような投資 x ⋆ {\displaystyle x^{\star }} を行い、効率性が確保される。 しかしながら現実には、部品の価値に応じた報酬額に関して、自動車会社と部品会社の双方が合意できる強制力のある契約を記述することができない。不完備契約の場合、完成した部品を受け渡しする際に、報酬に関する交渉が行われる。ここで、交渉が成立すれば利益 R ( x ) {\displaystyle R(x)} [ノート:ホールドアップ問題#数学モデルの矛盾点]が生じるが、交渉が決裂すれば利益は 0 {\displaystyle 0} であるため、部品会社がすでに支払った費用 C ( x ) {\displaystyle C(x)} は無視される(埋没費用となる)。このため、自動車会社と部品会社は、完成した部品の受け渡しによって生じる利益 R ( x ) {\displaystyle R(x)} を等しく分けるような取引を行い、自動車会社は部品会社に報酬 W = R ( x ) 2 {\displaystyle W={\frac {R(x)}{2}}} を支払う。部品会社の最終的な利益 π a ( x ) = R ( x ) 2 − C ( x ) {\displaystyle \pi _{a}(x)={\frac {R(x)}{2}}-C(x)} となるため、部品会社はこれを最大化するような投資 x ¯ {\displaystyle {\overline {x}}} を行う。 ここで、部品会社の投資費用 C ( x ) {\displaystyle C(x)} は逓増し、部品の追加的価値 R ( x ) {\displaystyle R(x)} は逓減するものと考える。すなわち、 C ′ ( x ) > 0 {\displaystyle C'(x)>0} 、 C ″ ( x ) > 0 {\displaystyle C''(x)>0} 、 R ′ ( x ) > 0 {\displaystyle R'(x)>0} 、 R ″ ( x ) < 0 {\displaystyle R''(x)<0} である。 最適投資水準 x ⋆ {\displaystyle x^{\star }} の条件は R ′ ( x ) = C ′ ( x ) {\displaystyle R'(x)=C'(x)} であり、不完備契約時の投資水準 x ¯ {\displaystyle {\overline {x}}} の条件は R ′ ( x ) 2 = C ′ ( x ) {\displaystyle {\frac {R'(x)}{2}}=C'(x)} である。このとき、 x ¯ {\displaystyle {\overline {x}}} は最適投資水準 x ⋆ {\displaystyle x^{\star }} に比べて必ず小さく、部品会社の投資水準は非効率となる。
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