学歴インフレ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/24 13:30 UTC 版)
学歴インフレ(がくれきインフレ Credentialism and degree inflation)は、社会においての学歴の価値の変化を表す言葉。
概要
物価が上昇して通貨の価値が下がるインフレーションのように、学位を持つ人が増え過ぎて学歴の価値が下がるということである[1]。
アメリカでは2007年から2009年にかけての世界金融危機から学歴インフレが顕著になっている。顕著になった理由は、この頃より求人数よりも求職者の方が圧倒的に多くなったために、その多い求職者から絞り込むために学位を必要としないような職業でも学位取得者を対象として募集するようになっていたため。それから進学率や学位取得者が増加して、秘書や事務や肉体労働監督などは本来は学位を必要ないのであるが、採用では学位を求めるようになっている。生産労働監督の職では学位取得者は16%なのだが、67%の職場が同じ仕事なのに学士を条件とするようになる[1]。
イーロン・マスクは、企業が力を入れるべきなのはサービスや製品の開発であり、財務や経営会議ではないとする。これに対してマスコミが、なぜ経営陣らは財務や配当金に意識が行くのかを問うたところ、イーロン・マスクは、経営陣にMBAが多すぎるからと答えた。そしてこれは良くないことであるとした。アメリカでは1908年に初めて経営に関するプログラムが始められて、それ以降はMBAとは学んだことだけでなく、ネットワーク構築や、活動の機会増加や、年収アップなどでその肩書きで威力を発揮できていた。だがここ20年の時代の変化はあまりにも早く、ビジネススクールで学ぶ学問や、MBA取得者が携わる経営スタイルは伝統化されているのではないかとされるようになっている[1]。
日本では学歴インフレは社会階層に現れている。大卒労働者が従事することを期待しているのは、上層のホワイトカラーという階層なのであるが、このような階層に就くことへの変化が見られる。1995年以降は、入試レベルの低い私立大学出身の男性が専門職に就くことは変わらなかったが、入試レベルの高い私立大学出身の男性が専門職に就きやすくなっていた。1995年以降は、大卒の男性は管理職に就くということが困難になり、特に入試レベルの低い私立大学出身の男性ほど管理職に就くことが困難となるという不利が発生している。このように学歴インフレとは、専門職に就く場合では問題となっていないのだが、管理職に就く場合において不利になるという問題がある[2]。
中華人民共和国においても学歴インフレが見られる。2023年3月の中国の大学卒業生は1158万人で、前年に続いて再び1000万人を突破するという数字。特に北京市では学歴インフレが顕著で、北京市では2023年3月の大学と大学院の卒業生は28万5000人なのであるが、この内訳では大学院卒業の人数の方が多い。このようになったのは初のことで、他の市でもこのようになった例は無い[3]。
韓国で行われたアンケートからの調査結果によると、学歴インフレが起きた原因としては、賃金に関する事柄は相対的に少なく、名誉や自尊心などが学歴インフレになっているということが多い。韓国では学歴を求められているのは収入という単純な理由よりも、名誉や自尊心のためとのことであった。そして学歴インフレが起きることからの弊害としては、教育投資を無駄遣いしているという声が多い。他には就職への準備期間が延長されることでの労働力喪失と潜在力毀損となっているという声が多い。韓国では2009年に博士の学位取得者が1万人を超えたことに対しては回答者の85%が需要に対してあまりにも多いと答えていた。学歴インフレの問題を改善させるためには、就職や昇進や賃金を策定するときに学歴を条件としないことが最優先課題であるとされた。だが学歴インフレを懸念しすぎることを心配する声もあり、学歴は国家資源であり個人の質を高める尺度という意見もある。学歴インフレの改善は個人の精神的満足度を無視することになるという意見もある[4]。
脚注
- ^ a b c 水迫尚子 (2021年3月29日). “学歴、必要なのに意味がない? ねじれる「学歴インフレ」をイーロン・マスクが斬る | AMP[アンプ - ビジネスインスピレーションメディア]”. 2025年8月23日閲覧。
- ^ 豊永, 耕平 (2018-11). “高学歴化・経済変動と学歴:”. 教育社会学研究 103 (0): 47–68. doi:10.11151/eds.103.47. ISSN 0387-3145 .
- ^ F_100584. “学歴のインフレ化が加速? 北京の大学院卒業生が初めて学部卒業生を超える”. j.people.com.cn. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “10人に9人が「学歴インフレ深刻」”. 中央日報 - 韓国の最新ニュースを日本語でサービスします. 2025年8月23日閲覧。
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