又貸し説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/06 06:12 UTC 版)
信用創造とは、銀行は受け入れた預金以上に貸付けることができるか否かを問うものであって、それを肯定するもの(マクラウド)、否定するもの(リーフ(en:Walter Leaf))の論争の後、今日では個々の銀行は預金以上には貸付け得ないが、一国の銀行群全体としては本源的預金に数倍する貸付けを行いうる(C.A.フィリップス)というのが通説となっている。 預金準備率が10%の時、銀行が融資を行う過程で以下の通り信用創造が行われる。 A銀行はW社から預金1,000円を預かる。すると、A銀行はW社の預金のうち900円を貸し出すことができる。 A銀行がX社に900円を貸出、X社が900円をB銀行に預金する。同様にB銀行はX社の預金のうち810円を貸し出すことができる。 B銀行がY社に810円を貸出、Y社が810円をC銀行に預金する。そのうちC銀行はY社の預金のうち729円を貸し出すことができる。 C銀行は729円をZ社に貸し出す。 A銀行は1,000円の預金のうち、100円だけを準備として残り900円を貸し出す。A銀行が貸し出しを行うと貨幣供給量は900円増加する。貸出が実施される前は貨幣供給量はA銀行の預金総量1,000円のみであったが、貸出が実施された後の貨幣供給量はA銀行預金1,000円+B銀行預金900円=合計1,900円に増加している。このとき、W社は1,000円の預金を保有しており、借り入れたX社も900円の現金通貨を保有している。この信用創造はA銀行だけの話ではない。X社がB銀行に900円預金することで、B銀行が10%の90円の準備を保有し残りの810円をY社に貸し出す。さらに、Y社がC銀行に810円預金することで、C銀行が10%の81円の準備を保有し残りの729円をZ社に貸し出す。このように、預金と貸出が繰り返されることで、貨幣供給量が増加していく。 以下の図は、1,000円の本源的預金が、預金と貸出がされるたびにその何倍もの預金額となり、貨幣供給量が増えていくことを示している。 A銀行の貸借対照表 資産負債準備 100円 預金 1,000円 貸出 900円 B銀行の貸借対照表 資産負債準備 90円 預金 900円 貸出 810円 C銀行の貸借対照表 資産負債準備 81円 預金 810円 貸出 729円 このとき、総貨幣供給量は、以下の通りである。(準備・預金比率:rr) 本源的預金 = {\displaystyle =} 1000円 A銀行 貸出 = ( 1 − r r ) {\displaystyle =(1-rr)} ×1000円 B銀行 貸出 = ( 1 − r r ) 2 {\displaystyle =(1-rr)^{2}} ×1000円 C銀行 貸出 = ( 1 − r r ) 3 {\displaystyle =(1-rr)^{3}} ×1000円 ⋯ {\displaystyle \cdots } 総貨幣供給量 = {\displaystyle =} { 1 + ( 1 − r r ) + ( 1 − r r ) 2 + ( 1 − r r ) 3 + ⋯ {\displaystyle {1+(1-rr)+(1-rr)^{2}+(1-rr)^{3}+\cdots }} }×1000円 = 1 r r {\displaystyle ={\frac {1}{rr}}} ×1000円 しかし、この通俗的な信用創造論には、本源的預金はどこから来るのかについてはまったく説明がなく、本源的預金が外生的に与えられ、これが貸し出されるのは金融仲介である。そして、預入によって形成される派生的預金は余剰資金であり、この信用創造は、余剰資金を資金不足主体に仲介する過程そのものであり、この通俗的な信用創造論は、実は金融仲介論でしかなく、信用創造の名前に値しない。
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