ピアノ協奏曲第2番_(リャプノフ)とは? わかりやすく解説

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ピアノ協奏曲第2番 (リャプノフ)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/12 13:32 UTC 版)

ピアノ協奏曲第2番 ホ長調 作品38は、セルゲイ・リャプノフ1909年に作曲したピアノ協奏曲

概要

リャプノフは狭間の世代の生まれであった[1]。上の世代にはバラキレフをはじめとする「ロシア5人組」とチャイコフスキーがおり、下の世代にはスクリャービンプロコフィエフショスタコーヴィチといった面々が控えていた[2]。そうした時代にモスクワ音楽院クリントヴォルト(ピアノ)やタネーエフ(作曲)の指導を受けた彼が選択した道は、サンクトペテルブルクに移りバラキレフの一派に加わることだった[1]国民楽派への傾倒は、しかし、彼の音楽が死後急速に忘れられる原因となるのである[1]

本作は1909年に完成され、1910年にH.J. Zimmermannから出版された[1][3]。ところがこの作品は注目を浴びずに終わる[2]。理由のひとつめには1910年に開催されたショパン生誕100年祭の影響が挙げられる[2]。1910年2月(グレゴリオ暦3月)の催しに向けてバラキレフがショパンの旋律による組曲を、リャプノフが交響詩『ジェラゾヴァ・ヴォラ』(ショパンの生誕地)を期日内に書き上げねばならなかったのである[2]。果たしていずれの作品も期限内に仕上がり、リャプノフの指揮で披露されることとなった[2]。ふたつめは、この組曲の仕事を優先したバラキレフがピアノ協奏曲第2番の仕事を第2楽章までしか進めることができず[注 1]、体力の衰えにより自力で終楽章を書けないことを悟った末にリャプノフに残りを託して1910年にこの世を去ったことである[2]。楽想についてはバラキレフの生前にある程度聞いていたとはいうものの、恩師の作風を真似て楽章ひとつを完成させるという難事業をリャプノフは見事成し遂げた[2]。しかし、それ故に同年12月に行われた追悼コンサートでリャプノフが指揮をしたのは、自作のピアノ協奏曲ではなくバラキレフのピアノ協奏曲となったのだった[2]

ピアノ協奏曲第1番同様、この作品も単一楽章で書かれている。形式と技巧的なピアノ書法の両面において、本作がリストピアノ協奏曲第2番に負うところは大きい[1]。実のところ、リャプノフは過大なリストの影響についてバラキレフに相談していた。

2作目のピアノ協奏曲の作曲に着手しました。(中略)形式の使用においてリストの影響を取り去ることができません。技巧的書法ともなれば、自分がすっかりリストの奴隷になっているかのように感じます[5]

バラキレフは次のように応じている。

リスト風のピアニズムを避けようとしないでください。善き作曲家というものは自らを縛ることなく、自らの自然な性向に身を任せなければなりません。(中略)リスト風のピアニズムを用いる際にも貴方は貴方自身の個性を示し得るのですから、奴隷のようだなどと感じてはならないのです[5]

曲はヨーゼフ・ホフマンに献呈されている[6]

楽器編成

ピアノ独奏フルート3、オーボエコーラングレクラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、バストロンボーンチューバティンパニトライアングルシンバルバスドラム弦五部

楽曲構成

自由なソナタ形式[1][3]。リストの作品のように幾度となくカデンツァもしくはカデンツァ様のパッセージが挿入される[1]

Lento ma non troppo 3/8拍子 ホ長調

冒頭から弦楽器により最初の主題が奏でられる[1][3][2](譜例1)。主題はオーボエに歌い継がれ、ピアノが繊細な装飾音型を奏でていく[1]

譜例1


\relative c' {
 \new Staff {
  \key e \major \time 3/8 \set Score.tempoHideNote = ##t \tempo "" 4=58
  <<
   {
    e4 ^\markup { con sord. } ( fis8 a fis gis) b4.( ~ b4 cis8) b( a gis fis4 gis8)
    cis,4.~ cis8 dis e) fis4.( gis) fis8( e dis cis4 e8)
   }
  \\
   { e4.\pp ~ e e( ~ e8 dis d) cis4.( ~ cis8 b a) gis4.( b) ais( a!) gis( ~ gis4 cis8) }
  >>
 }
}

ピアノはさらに主題を発展させると[3]、木管楽器が主題を歌う中で装飾的な音型で彩りを添える。ピアノのカデンツァが挿入される。

Allegro molto ed appassionato 2/2拍子 ヘ短調

第2の主題はピアノが管弦楽のすぐ後を追いかける形で提示される[1](譜例2)。

譜例2


\relative c'' {
 <<
  \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } {
   \key f \minor \time 2/2 \set Score.tempoHideNote = ##t \tempo "" 4=150 \partial 2
   r4 c4\mf ^\markup (C.ingl.) ( des) aes'2( e4\< ) g( f\! ) c'2( ~ c4 b fis\> g) bes( a\! )
  }
  \new PianoStaff <<
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } {
    \key f \minor \time 2/2 \set PianoStaff.connectArpeggios = ##t
    r4^\markup { \italic { agitato assai } } r8
    <<
     {
      c,, b'\rest d,4 aes'2\arpeggio ( e8)
      b'\rest g4 f c'4.-> ~ c b4 fis g8 b\rest bes4 a8
     }
    \\
     {
      <g, e>8 s8 <d' f,>4 q\arpeggio q8 a\rest <c g>
      s8 <c g>4 <c f,> <f c> q8[ ~ q] q4 <f b,> <e bes> q8 s <es bes>4 <es a,>8
     }
    >>
   }
   \new Dynamics {
    s4 s8\f s s2 s4 s4\< s4. s4\! s4. s2.. s8\> s s\!
   }
   \new Staff { \key f \minor \time 2/2 \clef bass
    r4
    <<
     { c,\arpeggio des\arpeggio aes'2( e4) }
     \\
     { <g, c,>\arpeggio-. <aes ces,>\arpeggio-. e\rest <aes bes,>\arpeggio-. g-. }
    >>
    <c aes,>-.\arpeggio aes-. des-. aes'-. g,-. <des'' f,>-. <c, c,>-. <c' e,>-. ges,-. <c' es,!>
   }
  >>
 >>
}

この部分は長くは続かず、カデンツァを置いて次の部分に移行する[1]

Allegro moderato 4/4拍子 変イ長調

3つ目となる主題はピアノによってロマンティックに出され、ところどころでチェロが合いの手を入れる[3](譜例3)。

譜例3


\relative c' {
 \new PianoStaff <<
  \new Staff = "R" { \key aes \major \time 4/4
   \set Score.tempoHideNote = ##t \tempo "Allegro moderato." 4=112
   <<
    {
     \acciaccatura c8 c'2 ces4 g') \acciaccatura es,8 f'4( es2 bes4)
     des2( c4. f,8)
     \once \override Arpeggio.positions = #'(-2 . 0)
     aes2.\arpeggio ( bes4)
    }
   \\
    { aes2 <ces f,> bes2. bes4 aes2 f f1 }
   >>
  }
  \new Dynamics {
   s1\p s2. s4\< s\! s\> s s8 s\!
  }
  \new Staff = "L" {
   \key aes \major \time 4/4 \clef bass \stemDown
   \grace s8 aes,,,8*2/3( [ aes' es' c' f es] d[ aes ces d, f aes,] )
   g( [ d' es c'! bes f'] es[ a, bes d, f es] )
   f,( [ aes des! aes'! es' des] \change Staff = "R" f[ \change Staff = "L" aes, c f, aes c,] )
   f,( [ bes des f c' bes] aes[ c f, des c f,] )
  }
 >>
}

大きく盛り上がったところで譜例1が聞こえてくる。精巧に作られたピアノのカデンツァを境に次の部分へ接続される[3]

Allegro molto 2/2拍子 ホ長調

展開が開始される前に奏されるトゥッティのエピソードは、リトルネッロのように機能する[2](譜例4)。譜例4の低音部は譜例2の主題による。

譜例4


\relative c' {
 \new Staff { \key aes \major \time 2/2
  \set Score.tempoHideNote = ##t \tempo "Allegro molto." 4.=158 \clef tenor
  <<
   { <es c>2. <aes c,>4 <ges d>2 <fes d> <es c> s4 <aes c,>4 <ges d>2 <fes d> <es c> }
  \\
   { aes,,2.\ff es'4 fes ces'2 g4 bes( aes) a\rest es fes ces'2 g4 bes( aes) a\rest }
  >>
 }
}

管弦楽とピアノによって3つの主題が展開されていく[1]。前半は譜例1、後半は譜例2の展開が中心となる。終わりにかけて調性はホ長調へと戻っていく[1]

Lento ma non troppo 3/8拍子 変ニ長調

展開部の終盤で主調へ回帰したにもかかわらず、譜例1の再現は変ニ長調で行われる[1][3][2]。管弦楽が譜例1を奏でる一方、ピアノは自由なパッセージで広い音域を駆け巡る。

Allegro molto 2/2拍子 ホ長調

ようやくホ長調となって譜例4が奏され、ピアノのカデンツァ的走句が続く。

Allegro moderato 4/4拍子 ホ長調

ピアノによる譜例3の再現となり、やはりチェロが応答を行う。ここでもカデンツァ様のパッセージが場面の切り替えに用いられる。

Allegro molto 2/2拍子 ト短調 - ホ長調

管弦楽が譜例2を奏するが、すぐに譜例1によって遮られるという流れが繰り返される。譜例3の2倍の拡大形が弦楽器で奏される傍らでピアノの和音の重なりが華を添えてクライマックスを形成する。譜例4にピアノが華麗な両手のグリッサンドを合わせる俊敏さをみせ[1][3]、最後に譜例1を回想して堂々たる終幕となる。

脚注

注釈

  1. ^ とはいえ、バラキレフが第2協奏曲の仕事に着手したのは実に半世紀近く前の1860年であり、第2楽章も1906年には書き上がっていたとされる[4]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Little, Christopher (2016年). “Lyapunov: Second Piano Concerto in E major, Op. 38”. Musikproduktion Hoeflich. 2025年9月1日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k Garden 2002.
  3. ^ a b c d e f g h Anderson 2010.
  4. ^ Garden 1993.
  5. ^ a b Chernyshev 2007, p. 8.
  6. ^ Score, Lyapunov: Piano Concerto No.2, J.H. Zimmermann, Leipzig.

参考文献

外部リンク




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