エダショクダイカビとは? わかりやすく解説

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エダショクダイカビ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/21 14:30 UTC 版)

エダショクダイカビ
分類
: 菌界 Fungi
: トリモチカビ門 Zoopagomycota
亜門 : キクセラ亜門 Kickxellomycotina
: incertae sedis
: エダショクダイカビ目 Ramicandelaberales Doweld, 2014
: エダショクダイカビ科 Ramicandelaberaceae Doweld, 2014
: エダショクダイカビ属 Ramicandelaber Y. Ogawa, S. Hayashi, Degawa & Yaguchi, 2001
学名
Ramicandelaber Y. Ogawa, S. Hayashi, Degawa & Yaguchi, 2001
タイプ種
Ramicandelaber longisporus Y. Ogawa, S. Hayashi, Degawa & Yaguchi, 2001
下位分類
  • Ramicandelaber brevisporus Kurihara, Degawa & Tokum., 2004
  • Ramicandelaber fabisporus S.C. Chuang, H.M. Ho & Benny, 2013
  • Ramicandelaber longisporus Y. Ogawa, S. Hayashi, Degawa & Yaguchi, 2001
  • Ramicandelaber taiwanensis S.C. Chuang, H.M. Ho & Benny, 2013

エダショクダイカビ[1]学名Ramicandelaber)は、キクセラ亜門Kickxellomycotina)に属する糸状菌。エダショクダイカビ属は4種が知られ、本属のみで単型の目を構成する。学名の「Ramicandelaber」はラテン語の「rāmus」(枝)と「candēlāber」(蝋燭)の合成語である[2]

形態

培地上に形成されるコロニーは白色、羊毛状に毛羽立ち、成長は遅い[2][3][4]。栄養菌糸は無色、隔壁があり、菌糸先端に根状突起が形成され、種によっては菌糸先端付近、胞子嚢柄直下での分岐(lateral branch)により複数の根状突起を生じる[2][3][4]。また、他のキクセラ亜門の菌類と同様に、各隔壁あたり1つの隔壁孔を持つ。隔壁孔の周縁部には溝があり、中心部がやや膨らんだ円盤状のプラグによって閉塞している[2][3]

無性生殖

他のキクセラ亜門の菌類と同様に、無性生殖は偽フィアライド(pseudophialide)から出芽的に形成される小胞子嚢胞子(sporangiospore)によって行われる。

栄養菌糸先端の根状突起の上方、先端から3から5番目の隔壁とその次の隔壁によって区切られた細胞がそのまま胞子嚢柄となり、さらに分枝した小枝が輪生する。分枝数は種によって異なり、多くは1から数本程度だが、R. brevisporusではときに13本に達する。スポロクラディア(sporocladia)は分枝した胞子嚢柄に輪生し、細長く、遠位側に向かうにつれて更に細くなり、隔壁を欠く。偽フィアライド(pseudophialide)は、胞子嚢柄から見たスポロクラディアの遠位側の面に単生し、初めは類球形だが、成熟するとときに半球形になる。1つの偽フィアライドからは1つの小胞子嚢胞子を生じる。小胞子嚢胞子は無色でガラス質、形状は種によって異なり、細長い形状からそら豆形まで様々である[2][3][4]。また、小胞子嚢胞子の胞子嚢壁と胞子は合着しており、明瞭に分離している部分は観察されない[2]

有性生殖

本属において有性生殖は未知であり、接合胞子やそれに類する構造については報告されていない[2][3][4]

分布および生態

既知の4種は日本あるいは台湾の森林土壌から分離されており、それ以外の地域からの正式な報告はない[2][3][4]。なお、本属菌類は乾燥ミジンコや素干しサクラエビをベイトとした土壌の湿室処理や、甲殻類を組成とする寒天培地上への土壌の直接接種、また希釈平板法によって、ブラシカビ属Coemansia)やリンデリナ属Linderina)の菌類と共に出現することが知られている[5]

分類史

本属のタイプ種であるR. longisporusは、1996年千葉県船橋市日本大学薬用植物園のシイ落葉下の土壌より分離され、2001年に新属新種として記載された[2]。観察された無性生殖構造や隔壁孔とそれに嵌まり込んだプラグの形態から、記載当初はキクセラ目Kickxellales)に所属させられていたが[2][3]、2000年代に行われた複数の分子系統学的研究により、キクセラ目と近縁ではあるものの、独立の系統を構成することが判明した[1][6]。その後、リボソームの大サブユニットをコードする核リボソーム遺伝子(LSU領域)の分子系統解析結果から、トリモチカビ目Zoopagales)の姉妹群という系統仮説が支持されたこともあったが[4]、2010年代以降の複数遺伝子座に基づく分子系統解析では、キクセラ亜門でもディマルガリス目に次いで基部で分岐した系統であることが示唆されている[7][8]

2013年以降、エダショクダイカビ属(Ramicandelaber)には以下の4種が知られている[4]

  • Ramicandelaber longisporus Y. Ogawa, S. Hayashi, Degawa & Yaguchi, 2001
本属の模式種タイプ種)。基準となる株は1996年千葉県船橋市日本大学薬用植物園での菌類調査で採集されたシイ樹下の落葉より得られたものである[2][6]。胞子嚢柄の分枝数は1-4、胞子嚢柄直下での分枝(lateral branch)は見られない[2][4]。種小名の通り、小胞子嚢胞子は長さ44-44μmに対して幅5-6μmと極めて細長い形状をしている[2]
  • Ramicandelaber brevisporus Kurihara, Degawa & Tokum., 2004
基準となる株は1998年高知県室戸市室戸岬にてアコウ樹下の土壌より分離されたものである。胞子嚢柄の分枝数が他種と比較して多い傾向にあり、平均8、最大13に達する。また、胞子嚢柄直下での分枝(lateral branch)が見られる[3][4]。小胞子嚢胞子は21×3-4μmの細長い形状である[3]。なお、本種独自の特徴として、2本の気中菌糸が近接して、互いにかぎ状の突起で結束しているのが頻繁に観察される[3]
  • Ramicandelaber fabisporus S.C. Chuang, H.M. Ho & Benny, 2013
基準となる株は2007年台湾島南部にある屏東県恒春鎮南仁山の森林土壌より分離されたものである[4]。胞子嚢柄の分枝数は1-6、胞子嚢柄直下での分枝(lateral branch)が見られる。種小名の通り、小胞子嚢胞子は7-8×2.5-3μmのそら豆形であり、他種よりも小さい[4]
  • Ramicandelaber taiwanensis S.C. Chuang, H.M. Ho & Benny, 2013
基準となる株は2006年台湾島北部にある台北県(現在の新北市淡水区観音山のタケ植栽地の土壌より分離されたものである[4]。胞子嚢柄の分枝数は3-7、胞子嚢柄直下での分枝(lateral branch)は見られない。小胞子嚢胞子は10-13×2-3μmであり、細長い形状をしている[4]

脚注

  1. ^ a b Kurihara, Y. (2003). Taxonomic study on the order Kickxellales (Zygomycetes, Zygomycota) (Ph.D. thesis). University of Tsukuba. NAID 500000242426. 博士(理学)甲第3071号.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m Ogawa, Y., Hayashi, S., Degawa, Y., & Yaguchi, Y. (2001). “Ramicandelaber, a new genus of the Kickxellales, Zygomycetes”. Mycoscience 42 (2): 193–199. doi:10.1007/BF02464137. 
  3. ^ a b c d e f g h i j Kurihara, Y., Degawa, Y., & Tokumasu, S. (2004). “Two novel kickxellalean fungi, Mycoëmilia scoparia gen. sp. nov. and Ramicandelaber brevisporus sp. nov.”. Mycological Research 108 (10): 1143–1152. doi:10.1017/S0953756204000930. 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m Chuang, S.-C., Ho, H.-M., Benny, G. L., & Lee, C.-F. (2013). “Two new Ramicandelaber species from Taiwan”. Mycologia 105 (2): 320–334. doi:10.3852/11-219. 
  5. ^ 栗原祐子, 出川洋介, 徳増征二, & 原山重明 (2008). “Coemansia属菌を始めとしたキクセラ目菌の土壌からの分離法”. 日本菌学会会報 49 (1): 46–51. doi:10.18962/jjom.jjom.H19-04. 
  6. ^ a b 小川吉夫, 栗原祐子, 須田篤博, 草間(江口)國子, 渡邊和子, & 徳増征二 (2005). “18S rDNA塩基配列に基づくRamicandelaber属の分類学的位置の検討”. 日本菌学会会報 46 (1): 13–17. doi:10.18962/jjom.jjom.H16-13. 
  7. ^ Tretter, E. D., Johnson, E. M., Benny, G. L., Lichtwardt, R. W., Wang, Y., Kandel, P., Novak, S. J., Smith, J. F., & White, M. M. (2014). “An eight-gene molecular phylogeny of the Kickxellomycotina, including the first phylogenetic placement of Asellariales”. Mycologia 106 (5): 912–935. doi:10.3852/13-253. 
  8. ^ Reynolds, N. K., Stajich, J. E., Benny, G. L., Barry, K., Mondo, S., LaButti, K., Lipzen, A., Daum, C., Grigoriev, I. V., Ho, H.-M., Crous, P. W., Spatafora, J. W., & Smith, M. E. (2023). “Mycoparasites, Gut Dwellers, and Saprotrophs: Phylogenomic Reconstructions and Comparative Analyses of Kickxellomycotina Fungi”. Genome Biology and Evolution 15 (1): evac185. doi:10.1093/gbe/evac185. 



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