アルティン加群とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > ウィキペディア小見出し辞書 > アルティン加群の意味・解説 

アルティン加群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/29 07:03 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動

抽象代数学において、アルティン加群: Artinian module)とは、部分加群について降鎖条件を満たす加群のことである。アルティン加群と加群の関係は、アルティン環の環に対する関係と同様であり、環がアルティン的なのはそれが(左または右からの積によって)それ自身の上の加群としてアルティン的であるとき、かつそのときに限る。これらの概念はエミール・アルティンにちなんで名づけられている。

選択公理のもと、降鎖条件は極小条件と同値であり、これを代わりに定義に使ってもよい。

ネーター加群と同様、アルティン加群は次の遺伝的な性質をもつ。

  • M がアルティン的な R-加群ならば、その任意の部分加群と任意の剰余加群もアルティン的である。

逆も成り立つ。

  • MR-加群、N がその部分加群でアルティン的、かつ M/N もアルティン的ならば、M もアルティン的である。

この結果、アルティン環上の有限生成加群はアルティン的である[1]。アルティン環はネーター環であり、ネーター環上有限生成加群はネーター的なので[1]、アルティン環上有限生成加群はネーター的かつアルティン的であり、有限の長さをもつ。しかしながら、R がアルティン的でなければ、あるいは M が有限生成でなければ、反例がある。

アルティン的な環、加群、両側加群

R は右からの積で自然に右加群と考えられる。R が右 R-加群としてアルティン的なとき、右アルティン環と呼ばれる。左アルティン環の定義も同様である。非可換環においてこれらの区別は必要である。片側でアルティン的だがもう片側ではアルティン的でない環が存在する。

左右の語は加群において普通必要でない、なぜなら加群 M は通常はじめに左または右 R-加群として与えられるからである。しかしながら、M が左右両方の R-加群としての構造をもつことがあり、そのとき M をアルティン的と呼ぶのは曖昧であるので、どちらの加群としての構造がアルティン的であるのかを明確にする必要が生じる。2つの構造を分離するために、左 R-加群として M がアルティン的であると言うのが正しいときに、用語を濫用して、M を左アルティン的または右アルティン的と言うことができる。

左右両側の加群の構造をもつ加群は珍しいことではない。例えば R 自身は左かつ右 R-加群としての構造をもつ。実はこれは両側加群の例であり、別の環 S によってアーベル群 M を左 RS 両側加群にできるかもしれない。実際、任意の右加群 M は自動的に整数環 Z 上の左加群であり、さらに Z-R 両側加群である。例えば、有理数体 Q を自然に Z-Q 両側加群として考えよ。すると Q は左 Z-加群としてはアルティン的でないが、右 Q-加群としてはアルティン的である。

アルティン条件は両側加群の構造についても定義できる。アルティン両側加群 とは両側加群であって、その部分両側加群が降鎖条件を満たすようなものである。R-S 両側加群 M の部分両側加群は当然左 R-加群なので、もし M が左 R 加群としてアルティン的であれば、M は自動的にアルティン両側加群になる。しかしながら、両側アルティン加群が左または右アルティン加群でないことは、次の例で示すように、起こり得る。

単純環が左アルティン的であることと右アルティン的であることは同値であり、このとき半単純環でもあることはよく知られている。R を右アルティン的でない単純環とすると、左アルティン環でもない。R を自然に R-R-両側加群と考えると、その部分両側加群はちょうど Rイデアルである。R は単純なのでそれは2つしかない。R と零イデアルである。したがって R は両側加群としてアルティン的であるが、左または右 R-加群としてはアルティン的でない。

ネーター条件との関係

環の場合と違って、アルティン加群だがネーター加群でないものが存在する。例えば、p-primary component、つまり、 を考えよ。これは -加群としてp-準巡回群 と同型である。真増大列 は無限に続き、 は(従って も)ネーター的でない。しかしすべての真の(この仮定は一般性を失わない)降鎖列は止まる。そのような列は整数 に対して という形をしている。包含関係 によって を割り切らなければならないので、 は正整数の真の減少列である。それゆえ列は止まり、 はアルティン的である。

可換環上の任意の巡回アルティン加群はネーター加群でもあるが、非可換環上の巡回アルティン加群は長さが無限になり得る。このことは Hartley の記事で示されており、Hartley の記憶に捧げてPaul Cohn の記事でうまく要約されている。

関連項目

注釈

  1. ^ a b Lam (2001), Proposition 1.21, p. 19.

参考文献

  • Atiyah, M.F.; Macdonald, I.G. (1969). “Chapter 6. Chain conditions; Chapter 8. Artin rings”. Introduction to Commutative Algebra. Westview Press. ISBN 978-0-201-40751-8 
  • Cohn, P.M. (1997). “Cyclic Artinian Modules Without a Composition Series”. J. London Math. Soc. (2) 55 (2): 231–235. doi:10.1112/S0024610797004912. MR 1438626. 
  • Hartley, B. (1977). “Uncountable Artinian modules and uncountable soluble groups satisfying Min-n”. Proc. London Math. Soc. (3) 35 (1): 55–75. doi:10.1112/plms/s3-35.1.55. MR 442091. 
  • Lam, T.Y. (2001). “Chapter 1. Wedderburn-Artin theory”. A First Course in Noncommutative Rings. Springer Verlag. ISBN 978-0-387-95325-0 

アルティン加群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/12 07:37 UTC 版)

環上の加群」の記事における「アルティン加群」の解説

アルティン加群とは、その部分加群からなる任意の降鎖列が有限長さ止まるような加群をいう。

※この「アルティン加群」の解説は、「環上の加群」の解説の一部です。
「アルティン加群」を含む「環上の加群」の記事については、「環上の加群」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「アルティン加群」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「アルティン加群」の関連用語

アルティン加群のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



アルティン加群のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアルティン加群 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの環上の加群 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS