アルキュオネウス (電波銀河)とは? わかりやすく解説

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アルキュオネウス (電波銀河)

(アルキオネウス から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/06 06:36 UTC 版)

アルキュオネウス
Alcyoneus[1]
電波と赤外線で撮像された低励起電波銀河「アルキュオネウス」の画像
星座 やまねこ座
見かけの等級 (mv) 21.371544[2](Gバンド)
分類 電波銀河
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  08h 14m 21.6967993776s[2]
赤緯 (Dec, δ) +52° 24′ 10.075821336″[2]
赤方偏移 0.24674±0.00006[3]
距離 約30億光年[1]
アルキュオネウスの位置(赤丸)。
物理的性質
直径 5.04±0.05 メガパーセク
約1640万±16万光年[1]
他のカタログでの名称
SDSS J081421.69+522410.0[4], 2MASS J08142169+5224103
Template (ノート 解説) ■Project

アルキュオネウス (: Alcyoneus[1]) は、地球から見てやまねこ座の方向約30億光年の距離にある電波銀河[1]。母銀河のSDSS J081421.68+522410.0から広がる電波ローブの広がりは少なくとも5 メガパーセク (Mpc)(約1630万光年)以上の大きさを持ち、これは単独の銀河が形成する構造としては最大のものである[1][注 1]。2022年2月に、オランダ電波天文学研究機関「ASTRON」が運用する大型電波望遠鏡LOFAR (Low-Frequency Array) を用いた観測で発見されたことがプレプリントサーバー「arXiv」で公表され、同年3月30日に学術誌「アストロノミー・アンド・アストロフィジックス」に掲載された[1]。研究グループは、ギリシャ神話ヘーラクレースと戦って敗れたギガンテスの一柱の名を取って、「アルキュオネウス(Alcyoneus、古代ギリシア語: Αλκυονεύς)」と呼んでいる[1]

特徴

電波銀河は活動銀河の一種で、天の川銀河より1万-10億倍も強い電波を放出する[5]。電波銀河には、銀河本体(母銀河)よりもはるかに大きなスケールの「電波ジェット」や「電波ローブ」と呼ばれる構造が見られる[6]。電波ジェットは母銀河から双極的に噴出するジェットで、電波ジェットの伸びた先から繋がるようにバブル状の電波ローブが位置する。電波銀河の中でも、電波ジェットや電波ローブの大きさが0.7-1.0 Mpc(230万-330万光年)を超えるものは「巨大電波銀河 (Giant radio galaxy, GRG) と呼ばれる。GRGは約1,000個が知られており、そのうち3 Mpc(約980万光年)を超えるほどの大きさを持つものは10個程度である[1]。これまで既知のGRGの中で最大のものはJ1420-0545で、4.9 Mpcの構造を持つとされていた[7]。研究チームは、アルキュオネウスの大きさを5.04±0.05 Mpc(1640±16万光年)と見積もっており、これは単独の銀河によって形成された構造としては最大のものであるとしている[1]

この巨大な電波放射の母銀河である楕円銀河SDSS J081421.68+522410.0の恒星質量は2400億±400億太陽質量 (M) 、中心部にある超大質量ブラックホールの質量は4億±2億 Mと、GRGの母銀河としては大きなものではなくむしろ下限値に近い。特に大きいわけではない母銀河からの電波放射がどのようにしてこれほど大きなサイズとなったのか、原因は不明である。またこの楕円銀河は、最も近い銀河から約7.9 Mpc(約2600万光年)、最も近い銀河団からは約11 Mpc(約3600万光年)離れていることから、銀河団銀河群に属さない独立した銀河で、宇宙の大規模構造の「フィラメント」に位置していると見られている[1]。そのため、電波放射の領域が著しく大きくなった原因がフィラメントとの何らかの熱力学的相互作用による可能性も示唆されている[1]

名称

研究グループが呼称として用いたAlcyoneusは、ギリシャ神話に登場するギガンテス(巨人)の1柱に由来する。西暦1-2世紀の著述家偽アポロドーロスの『ビブリオテーケー』によると、アルキュオネウスは原初の天空神ウラノスの息子で、ポルピュリオーンとともにギガンテスの中でも最も偉大な者とされた。彼は、ギガンテスとオリンポスの神々との戦い「ギガントマキアー」の際にヘーラクレースに挑んで敗れたとされる[1]

脚注

注釈

  1. ^ このことから「最大の銀河」と誤って紹介されることがあるが、銀河本体の大きさははるかに小さい。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m Oei, Martijn S. S. L.; van Weeren, Reinout J.; Hardcastle, Martin J. et al. (2022-03-30). “The discovery of a radio galaxy of at least 5 Mpc”. Astronomy and Astrophysics (EDP Sciences) 660: A2. arXiv:2202.05427. Bibcode2022A&A...660A...2O. doi:10.1051/0004-6361/202142778. ISSN 0004-6361. 
  2. ^ a b c Gaia Collaboration. “Gaia data early release 3 (Gaia EDR3)”. VizieR On-line Data Catalog: I/350. Bibcode2020yCat.1350....0G. https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ6295fb993962c7&-out.add=.&-source=I/350/gaiaedr3&-c=123.59040333074%20%2B52.40279883926,eq=ICRS,rs=2&-out.orig=o. 
  3. ^ Ahn, Christopher P. et al. (2012-11-19). “The Ninth Data Release of the Sloan Digital Sky Survey: First Spectroscopic Data from the SDSS-III Baryon Oscillation Spectroscopic Survey”. The Astrophysical Journal Supplement Series (American Astronomical Society) 203 (2): 21. arXiv:1207.7137. Bibcode2012ApJS..203...21A. doi:10.1088/0067-0049/203/2/21. ISSN 0067-0049. 
  4. ^ SDSS J081421.69+522410.0 -- Radio Galaxy”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2022年5月31日閲覧。
  5. ^ 電波銀河”. 天文学辞典. 日本天文学会 (2017年8月26日). 2022年5月30日閲覧。
  6. ^ 須藤広志 著「4.4 電波ジェットと電波ローブ」、谷口義明岡村定矩祖父江義明 編『4 銀河I 銀河と宇宙の階層構造』(第2版第1刷)日本評論社〈シリーズ現代の天文学〉、134-140頁。 ISBN 978-4-535-60754-5 
  7. ^ Machalski, J.; Kozieł‐Wierzbowska, D.; Jamrozy, M.; Saikia, D. J. (2008-05-20). “J1420-0545: The Radio Galaxy Larger than 3C 236”. The Astrophysical Journal (American Astronomical Society) 679 (1): 149-155. arXiv:0808.2742. Bibcode2008ApJ...679..149M. doi:10.1086/586703. ISSN 0004-637X. 

関連項目

  • IC 1101 - 既知の銀河の中で最も巨大な銀河。



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