過去時制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/06 19:51 UTC 版)
文法化
完了形から過去時制へ
過去時制を表す形式は、しばしば 完了形の標識に由来する[1]。
西アフリカで話されるエウェ語 (ニジェール・コンゴ語族) の「ダホメ王国方言」では、「〜である・〜終える」を意味する動詞kɔが、完了標識を経て過去標識へと文法化したという[2]。
完了形から過去形への変化は、ロマンス諸語やゲルマン語派における「『持つ』+過去分詞」構文にも認められる (e.g. 現代ドイツ語のhaben完了)[1][3]。
このように完了標識が過去標識として用いられる際には、当該の形式が本来備えていた、過去の行為と現在との繋がりを示す機能は消失しており、単に過去の事態一般を指す表現へと変質している[4]。
「得る」から過去時制へ
クメール語・ミャオ語・タイ語といった東南アジア大陸部の言語では、「得る」を意味する動詞が、単に動作が過去に起こったを示す標識として使用されることがある[1]。
同様の文法化は、西アフリカのトウィ語 (ニジェール・コンゴ語族) でも生じている[1]。
「昨日」から過去時制へ
中部アフリカのバカ語において近過去を表す動詞接辞-ngiは、「昨日」を意味する副詞のngiliに由来する[5]。
ラテン語とロマンス語
ラテン語の動詞では各時制に対して未完了形と完了形の区別があり、過去のことであっても継続・反復的ならば未完了過去形、完結的ならば完了現在形を用いるという区別がある。この区別はラテン語から派生したロマンス語(フランス語・スペイン語など)にも引き継がれ、ラテン語の完了現在形はロマンス語の単純過去(遠過去)形に、未完了過去形は半過去形・線過去形[注釈 1]になっている。また助動詞と過去分詞を用いる完了形が発達し、現在完了形が複合過去・近過去[注釈 2]などとも呼ばれて過去の意味に用いられている。
日本語
日本語では、中古までの古語では完了と過去の区別があり、過去の助動詞としては「けり」と「き」が、また不確実な過去を表現するために過去推量の「けむ」が用いられた。「けり」は、今から思えばそうだったという回想過去を表現する。それに対して「き」は、過去の時点で確実だったことを表現し、またしばしば自分の経験によることを含意する。このように過去形を証拠性により区分する言語は他にもかなりある(トルコ語など)。中世以後はこのような本来の過去形はすたれ、完了の「たり」に由来する「た」だけが残った。ただし「けり」に由来し回想を表す終助詞「っけ」が東日本方言に残っている。
- ^ これらの名称は日本における各言語学での名称で、フランス語ではimparfait(半過去)、イタリア語ではimperfetto(半過去)、スペイン語ではpretérito imperfecto(線過去、不完了過去など)、ポルトガル語ではpretérito imperfeito(不完全過去)と呼ばれる。()内の名称は日本での各言語学での名称。
- ^ これらの名称は日本における各言語学での名称で、フランス語ではpassé composé(複合過去)、イタリア語ではpassato prossimo(近過去)、スペイン語ではpretérito perfecto(現在完了他)と呼ばれる。()内の名称は日本での各言語学での名称。
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