聴音機 聴音機の概要

聴音機

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/02 14:25 UTC 版)

アメリカ軍の空中聴音機。1935年。

概要

空中聴音機では音響探知が用いられる。音響探知とは、探知するべき対象の、距離と方向を測定するために、音響を用いる技術と科学である。探知は能動的または受動的に行うことができ、気体(例としては空気)、液体(例としては水)、また固体(例としては地中)などが探知場所となる。

  • 能動型音響探知には、音響の反射を作り出すために音波を発振することも含まれる。反射音は、問題とされている対象の位置を決定するために分析される。
  • 受動型音響探知には、探知するべき対象によって発振されている音や振動を探しだすことも含まれる。音響は、対象の位置を特定するために分析される。

これらの技術は水中で使用され、ソナーとして広く知られている。パッシブソナーとアクティブソナーは、両方とも広汎に使用されている。

音響反射鏡と音響反射板は、マイクを使用する時には受動型音響探知方式を用いる。しかしこれは、スピーカーに用いる際には能動型探知方式を意味する。通常、探知には複数の機材が使用される。探知はいくつかの聴音機間で測定し、三角測量される。

第一次世界大戦時、イギリス本土防空のために設けられた音響反射鏡。

空中にある対象の音響探知は、軍用機が登場した第一次世界大戦の中期[1]から行われ、第二次世界大戦の初期まで用いられた。空中聴音機は航空機を受動的に探知する機材であり、エンジンの騒音を探り出すものだった。空中聴音機はレーダーの導入により、第二次世界大戦の以前から中期にかけて時代遅れになっていった。しかしレーダーは迎撃用としてはるかに効率的だったが音響探知には曲がり角や丘を越えて探知可能な点に有利さがあった。

日本軍の使用した空中聴音機には九五式大空中聴音機、九〇式大空中聴音機、九〇式小空中聴音機がある。これらが配備される以前には反射鏡型空中聴音機が導入されており、1930年(昭和5年)まで用いられた。空中聴音機は主として、要地防空の際に、対空照明の諸元測定、ならびに対空警戒用に用いるものとされた。これらの聴音機の精度は、固定音源に対し、方向と高低の誤差が約一度におさまるというものだった。聴音距離は九五式大空中聴音機で約8kmが限度だった。

レーダーの実用化、配備の遅れから、日本軍では太平洋戦争終戦時にも高射部隊に相当数が配備されていた。また「聴音壕」も各地に造られた。音を聞き取りやすいように、人家などから離れた静かな場所に円筒形またはラッパ形の施設を煉瓦で建てた。青少年らも動員して、双眼鏡による目視も併用して日本本土空襲に飛来する米軍機の探知を図った[2]。このほかにも視覚障害者をアメリカ軍機の音を録音したレコードで訓練し、人間を聴音機の代わりとした「防空監視員」も導入されていた[3]

構造

ドイツ軍の空中聴音機。1939年。
スウェーデン軍の空中聴音機。1940年。

空中聴音機の大きさは、野戦で用いる携帯式のものから、トラックに車載するような大型のもの、固定式のものなど様々である。

空中聴音機は方向と高低を特定するためにラッパや凹面鏡のような集音装置を備え、音を導音して受音器で聞き取った。音源の方向と高低の特定は、音を聞き取る操作員が、音響が正面から来ていると感じ取ることで行われた。しかし、音響は気象条件、湿度、温度、風向等の条件によって大きく変化した。また雨天の際には集音部のラッパに水がたまるため、点検して除去する必要があった。

聴音によって特定できる航空機の位置は常にずれている。数キロメートル離れた場所からの音波は、聴音するまでに数秒がかかり、その間に航空機は聴音によって特定された位置から離れている。照空、射撃に用いるには、この誤差を修正する必要があった。

聴音機で特定した、航空機が過去に存在した位置に、時差とおおよその航空機の速度の修正を加えたものが、現在、航空機の飛行している位置である。日本軍の使用した九五式大空中聴音機の場合、歯車によって航空機の過去位置から現在位置へとデータを自動修正するための、操縦機方向連動機と操縦機高低連動機が搭載されていた。

これらの修正装置は、第一修正機と呼ばれるシステムへ、軸と歯車の運動によって機械的にデータを伝達した。方向歪輪軸と高低歪輪軸へ運動が伝達されると、歪輪軸の歯車は修正値を自動的に出力した。この方向・高低歪輪軸の修正データは、歯車と軸の運動を介して計算機甲・乙・丙に伝えられた。計算機甲は、高空の風速を算出し、第一修正機の方向連動機に方向修正角度を伝達するための計算機である。計算機乙は高空風を考慮に入れた修正角度を第一修正機の高低連動機に伝えた。計算機丙は温度による高低角修正量を第一修正機の高低連動機に伝えるための装置だった。

最終的な修正データは高低・方向連動機を介して第二修正機へ伝達された。第二修正機は、余切板と呼ばれるガラス盤上に投光機からの光線を映し出すものであり、航空機の飛行する航跡を聴測手が知ることができた。


  1. ^ How Far Off Is That German Gun? How 63 German guns were located by sound waves alone in a single day, Popular Science monthly, December 1918, page 39, Scanned by Google Books: https://books.google.co.jp/books?id=EikDAAAAMBAJ&pg=PA39&redir_esc=y&hl=ja
  2. ^ 「聴音壕」戦争の愚かさ示す/岩手・花巻 敵機の音で「数」や「距離」聞き分け/少年らが情報、空襲警報発令『日本経済新聞』夕刊2018年8月10日・社会面掲載の共同通信配信記事(2018年8月14日閲覧)。
  3. ^ 障害者たちの太平洋戦争 - NHK
  4. ^ 対潜戦問答 - ジェネラル・サポート


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