新卒一括採用 論点

新卒一括採用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/15 16:05 UTC 版)

論点

新卒一括採用には功罪両面双方の論が広く展開されている。

メリット

採用の容易さ

本日の雇用システムでは企業・新卒者双方にとって、新卒一括採用を前提とした体制が取られている。この体制は上記の通り、戦後の混乱期にも変化した


教育コスト

原則的に日本の学校教育では職業訓練は行われていないため、企業が新卒者を雇用した場合は職業訓練が必須である。他にも、社員が昇進昇格するために必要な訓練や定期的な配置換えに対応するための訓練が行われるが、これらは継続雇用を前提にするならば十分に回収可能なコストである[23]

企業への忠誠心と個人の組織への同化

毎年の新卒定期採用は、同期生意識を生み従業員間の連帯感を強める。また初めての会社に長期間勤務する事が前提であるので、企業への忠誠心が生まれやすく、企業・労働者双方によって長期的な展望に基づいた関係を構築しやすい。又、新卒社員は他企業の就業規則や就業倫理の影響を比較的に受けにくい為に自社のそれらを植えつけやすい事から、自社の考え方に染めやすい。それにより、安易な解雇・離職による双方のオーバーヘッド、例えば教育コストや採用コストを減らすことができ、また労働者も長期的な人生計画を立てやすいという利点がある。また、相互の暗黙了解による業務の円滑化を進める[21]

デメリット

景気による採用の変動

新卒のみに偏った採用では、新卒時に就職できないとやり直すのが非常に難しいという問題が指摘されている。 法政大学大学院小峰隆夫教授によると「…少なくとも採用面での新卒主義は改めるべきだ。たまたま卒業時に景気が悪ければ就職できないという不平等があり、その時点ではじき出された年齢層がそのまま社会で滞留してしまう[24]

氷河期世代と呼ばれる世代には、新卒時に就職出来なくて、そのままずっとやり直しが出来ずに、フリーター派遣労働者などの不安定な仕事に就かざるを得ない者が多くいる。OECDの報告によると、2007年(平成19年)の日本における15~24歳の長期失業率は21.3%と、OECD平均の19.6%を上回った[25]。5年前に比べやや改善したものの、依然として10年前の18.2%を上回っており、若者は定職確保が困難になっていると感じていると分析する。報告は、日本の派遣労働について低い収入、低い社会保障水準で技能・キャリア開発の可能性もほとんどないと指摘している。

学業への悪影響

就職活動の早期化が顕著になり、学生大学での勉強が疎かになってしまう弊害が生じている。実際に、内定を出す時期が早過ぎるために、最終学年の勉学を怠る学生も多くいる。場合によっては、学生が就職活動に力を入れ過ぎて卒業に必要な科目の単位を取ることができず、そのまま留年が決まって就職の内定も取り消されるという本末転倒の事態さえ起こっている。このような学業への悪影響を懸念し、就職協定1928年(昭和3年)以来形を変えて何度も大学・財界から出されているものの、現在に至るまで全くと言ってよいほど守られておらず、現在もほとんど守られていない。これについては、企業側が学生の学業成績をあまり重視していないのではないかとする指摘がある[26]

機会不均等

新卒一括採用は機会均等の原則に反しているとする見方もある。日本では、既卒と新卒が同様には扱われない。新卒時、病気などのやむを得ない事情で就職活動が出来なかった者も既卒として扱われることにより、多くの機会を損失してしまう。また、離職者が少ない優良企業は新卒採用しか行っていない所が多く、既卒者は入社できる企業の質が著しく低下する事(例えば中途で就職できる企業は人が頻繁に退職する社会的倫理が低い企業が多い等)も機会不均等を拡大させている。また新卒一括採用では年齢差別があるため、大学型高等教育機関への25歳以上の入学者の割合は、OECD諸国最低の1.8%となっている[27]。(OECD諸国の平均は、21.3%)

脳科学者の茂木健一郎は新卒一括採用で就職機会を限定することは人権問題だと言う[28]

就職が決まらなかった学生の中には、次年度も「新卒」として就職活動するためにわざと留年する者がおり、一部の大学では卒業要件を満たしていても卒業延期を認める希望留年制度を設けている[29]。読売新聞の「大学の実力」調査によると、卒業学年で留年した学生が、2014年度春は10万人を超えて6人に1人に上ることが判明した。留年の理由は卒業単位不足も含まれるが、2014年度春は故意に内定を辞退して留年を選ぶ学生が多いという[30]

コラムニストの尾藤克之は問題点として厳選採用を演じる企業側に問題があり経団連の新卒方針についても罰則や規制がないため効果がないとしている。[31]


  1. ^ OECD Economic Surveys: Japan 2019, OECD, (2019), Chapt.1, doi:10.1787/fd63f374-en 
  2. ^ 野村 (2007) p.57
  3. ^ リクルート p.6
  4. ^ 野村 (2007) p.92
  5. ^ 野村 (2007) p.58
  6. ^ 野村 (2007) p.59
  7. ^ リクルート p.9
  8. ^ 野村 (2007) p.61-62
  9. ^ 野村 (2007) p.60
  10. ^ 野村 (2007) p.64
  11. ^ 野村 (2007) p.67 より引用
  12. ^ a b リクルート p.7
  13. ^ 野村 (2007) p.67
  14. ^ 野村 (2007) p.68
  15. ^ http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/087.html
  16. ^ 野村 (2007) p.70
  17. ^ 野村 (2007) p.70-71
  18. ^ 日本経済の進路と戦略 ~新たな「創造と成長」への道筋~』(プレスリリース)経済財政諮問会議、2007年1月25日、17頁https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/cabinet/2007/decision0710.html  - 閣議決定
  19. ^ 世耕大臣が唱える新卒一括採用の見直しは本当に必要か?ダイヤモンド・オンライン2016年8月10日付
  20. ^ 茂木内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成30年10月10日内閣府
  21. ^ a b 関口 (1996) p.55
  22. ^ リクルート p.10
  23. ^ 関口 (1996) p.55-56
  24. ^ 【2030年】第1部 働く場所はありますか(5)30代社員の憂鬱 「企業は老化する一方だ」” (Japanese). 産経ニュース. 2010年3月18日閲覧。
  25. ^ 日本は若年層が安定的な職に就けるよう更なる対策が必要” (Japanese). OECD. 2010年3月18日閲覧。
  26. ^ 野村 (2007) p.69
  27. ^ http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/06/__icsFiles/afieldfile/2010/06/22/1294984_06_2.pdf
  28. ^ https://news.livedoor.com/article/detail/9151298/
  29. ^ シューカツ2010 新卒になりたくて…希望留年 大学側も支援の制度”. 朝日新聞社 (2010年3月31日). 2010年7月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年7月20日閲覧。
  30. ^ 不本意な内定より留年…「卒業せず」10万人超”. 朝日新聞社 (2014年7月20日). 2014年7月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年7月20日閲覧。
  31. ^ 「学歴フィルター」が炎上中、新卒採用も炎上中! なぜ違和感を覚えるの?(オトナンサー).2021年12月19日閲覧。
  32. ^ サムスングループが新卒採用スタート 今年1万人規模の見通し”. 聯合ニュース (2019年3月11日). 2019年3月15日閲覧。





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