持ち時間
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/29 07:12 UTC 版)
囲碁
歴史
江戸時代には持ち時間といった概念はなく、数日がかりの対局も行われていた。対局に持ち時間制を設けたのは1922年(大正11年)に設立された裨聖会で、当時盛んになり出した労働運動で8時間労働が唱えられていたことを参考に、1日各8時間で二日打切りとして、持ち時間を各16時間とした。たとえば1926(大正15)年に打たれた本因坊秀哉-雁金準一戦は持ち時間各16時間、秒読みなしで打たれ、雁金の時間切れ負けに終わっている。その後、1924年に設立された日本棋院の棋戦では持ち時間制は無く、棋戦によっては16時間、15時間、13時間などが用いられるが、これらは実際は二日では終わらず三日がかりの対局だった。1938(昭和13)年の秀哉引退碁は、各40時間という長い持ち時間が設定されている。
1937年に行われた本因坊引退碁挑戦者決定リーグ戦では各12時間、同年から開始された第1期本因坊戦では各11時間、決勝六番勝負が13時間となった。本因坊戦は1953年の第8期から、挑戦手合は各10時間二日打切りとなる。1954年開始の早碁名人戦では各4時間が採用されるなど、持ち時間短縮の傾向が進む。1988年開始の世界囲碁選手権富士通杯では各3時間となり、世界戦や中国、韓国などの棋戦では3時間が主流となった。さらに2010年アジア競技大会では各1時間となるなど、スポーツとしての時間短縮化も進んでいる。
規定
- 秒読み
囲碁界における秒読みには、持ち時間を使い切ってから秒読みに入る形式と、残りの持ち時間が一定の数に達した時に秒読みに入る形式がある。現行の日本の棋戦では、持ち時間が3-5時間の棋戦では残り5分、持ち時間が8時間の棋戦では残り10分になった時点で秒読みに入る。それより持ち時間が短い棋戦では、棋戦によって扱いが異なる。特に断りが無い場合は、秒読みは1分単位である。
また、秒読み中でも、相手の手番の際に中座しその間に相手が打着した場合、秒読みには加算しない(戻ってから秒読みを再開する)[10]。
初手から秒読みに入る「NHK杯方式」の早碁棋戦も日本では多く採用されている。
なお、かつては最後の1分の秒読みであっても、1分が経過したのち「打ってください」と記録係に言われてから着手すれば時間切れ負けにはならなかった。しかし、それでは事実上時間切れになっていることから、1963年より最後の秒を読まれた時点で時間切れ負けになる現行の方式に切り替わった[11]。
- 昼食休憩・対局中の外出
かつてはタイトル戦・テレビ棋戦などを除き各45分の昼食休憩時間が与えられていた[10]。しかし、棋士間では「国際標準に合わせたい」ということもあって昼食休憩の廃止の意見があり[12]、2022年4月1日より、日本棋院では持ち時間3時間以内の対局では昼休憩(45分)を廃止した[13]。食事をしたい棋士は自身の持ち時間内で食べることになった。
2021年1月1日からは、囲碁AIの不正利用対策として、日本棋院では対局中の外出も禁止とした[14]。
- 計点制ルール
台湾の一部棋戦で用いられる計点制ルール(応昌期ルール)では、「持ち時間を使い切っても、2目のコミを支払うことで持ち時間が追加される」という特殊なルールが採用されている。応昌期の「時は金なり」という信念によってこの規定は発案されたという[15]。
- 切れ負け
秒読み普及後のプロ棋戦ではまず採用されないが、アマチュア棋戦では切れ負けが採用されることも多い。しかし、囲碁は終局が双方の合意によって成立するため、相手の時間切れを狙って無意味な手を打ち続けることが可能である。そのため、切れ負けが採用されているアマチュア棋戦では、終局に合意せず無意味な着手を続ける行為は多くの場合禁止されている。単純な秒読みでは対局時間が長くなりやすいため、カナダ式秒読みを採用する例もある[4]。
棋戦ごとの持ち時間
以下は日本の棋戦。
棋戦名 | 挑戦手合・決勝戦 | 本戦 | 予選 |
---|---|---|---|
棋聖戦 | 8時間(2日制) | 5時間(Sリーグ・挑決T) | 4時間(Aリーグ) 3時間(B・Cリーグ、FT) |
名人戦 | 8時間(2日制) | 5時間(リーグ戦) | 5時間(最終予選) 3時間(予選A・B・C) |
本因坊戦 | 8時間(2日制) | 5時間(リーグ戦) | 5時間(最終予選) 3時間(予選A・B・C) |
十段戦 | 3時間(1日制) | 3時間 | 3時間 |
天元戦 | 3時間(1日制) | 3時間 | 3時間 |
王座戦 | 3時間(1日制) | 3時間 | 3時間 |
碁聖戦 | 4時間(1日制) | 3時間 | 3時間 |
阿含桐山杯 | 1時間30分(決勝) | 2時間 | 1時間 |
新人王戦 | 3時間 | 3時間 | 3時間 |
王冠戦 | 4時間 | 4時間 | 3時間 |
NHK杯 | 初手から1手30秒、1分×10回の考慮時間 | ||
竜星戦 | 初手から1手30秒、1分×10回の考慮時間 | 1時間 |
注釈
- ^ 逆に、不均衡な持ち時間をハンデキャップとして使うことも可能である。例えば、女流王位戦の記念対局(非公式戦)では、女流王位が1時間、王位は10分という時間差で対局を行う。
- ^ 大平のケース(2005年3月18日・竜王戦昇級者決定戦1回戦・対児玉孝一戦)は、埼玉で行われたZONEのコンサートに、対局場の大阪から駆けつけるためであり、「トリビアの泉」(2006年6月7日放送)でも紹介された。
- ^ a b 日本将棋連盟公式サイトの表記に準ずる。
- ^ 『近代将棋』連載の「名人義雄」によると、日本将棋連盟設立前の対局である、1921年の木村義雄四段対金子金五郎四段(段位は当時)戦では持ち時間は設定されておらず、3日間の長丁場の戦いとなっている。
- ^ 2日制のタイトル戦番勝負の場合、残り時間が少ない方の対局者の持時間が2時間となるように同じ時間が加算される。
出典
- ^ a b c d e f “対局に遅刻をしたときはどうなる?意外と知らない、将棋の「時間」についてまとめてみました|将棋コラム|日本将棋連盟”. www.shogi.or.jp. 2023年10月23日閲覧。
- ^ a b c d TIMES編集部, ABEMA. “羽生善治九段、フィッシャールールの戦い「慣れた人も増えて洗練されてきた」「日によって出来不出来の波が結構ある」/将棋・ABEMAトーナメント | ニュース | ABEMA TIMES | アベマタイムズ”. ABEMA TIMES. 2023年3月28日閲覧。
- ^ “The Origins of Canadian Byo-Yomi”. 2006年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年11月20日閲覧。
- ^ a b “第30回世界アマチュア囲碁選手権戦 静岡大会”. www.nihonkiin.or.jp. 2023年4月23日閲覧。
- ^ 対局規定(第4条 持時間)
- ^ 世界コンピュータ将棋選手権 大会ルール 第22条1項
- ^ 田丸の勝率、里見香奈女流四冠へのコメントと遅刻の罰則規定について - 田丸昇、2013年9月2日(2014年5月28日閲覧)。
- ^ 女流将棋界で対局ボイコット騒動 プロ資格巡り対立 - 日本経済新聞・2013年1月30日
- ^ 対局規定(抄録) - 日本将棋連盟
- ^ a b 日本棋院対局管理規定 - ウェイバックマシン(2004年7月17日アーカイブ分)
- ^ “囲碁用語 秒読み”. 日本囲碁連盟. 2022年11月12日閲覧。
- ^ 棋士の昼食、対極の手 将棋は外食業が協力、囲碁は廃止検討:一面:中日新聞(CHUNICHI WEB)
- ^ NHK囲碁フォーカス 2022/8/14放送分
- ^ 日本棋院対局時間中の外出禁止実施のお知らせ
- ^ 王銘琬『こんなに面白い世界の囲碁ルール』日本棋院、2019年、136-137頁。
- ^ 04. Rules & Regulations for the FIDE World Championship Match (FWCM) 2016
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