二項定理 歴史

二項定理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/11 03:50 UTC 版)

歴史

二項定理の特殊な場合については、古代より知られていた。紀元前4世紀ギリシャの数学者エウクレイデスは指数が 2 の場合の二項定理に言及している[1][2]。また、三次の場合の二項定理が6世紀のインドでは知られていた[1][2]

二項係数は相異なる n個のものから重複無く k個を選ぶ総数に等しくなるが、このことについては、古代ヒンドゥーで着目されていた。現在知られているもので最古のものは、ヒンドゥーの詩人ピンガラ英語版 (c. 200 B.C.) による Chandaḥśāstra で、それにはその解法も含まれている[3]:230。紀元後10世紀に評者ハラーユダ英語版はこの解法を今日でいうパスカルの三角形を用いて説明した[3]。この数が n!/(nk)! k! であることが、6世紀ごろのヒンドゥーの数学者には、おそらく知られていた[4]し、この規則についての言及を12世紀にバースカラ2世の表した文書 Lilavati に見つけることができる[4]

二項係数を組合せ論的量として表記した二項定理は、二項係数の三角形パターンについて記述した11世紀アラビア数学アル゠カラジ英語版の業績にも見つけることができる[5]。アル゠カラジはまた、原始的な形の数学的帰納法を用いて二項定理およびパスカルの三角形に関する数学的証明も与えている[5]。ペルシアの詩人で数学者のウマル・ハイヤームの数学的業績のほとんどは失われてしまったが、彼は恐らく高階の二項定理についてよく知っていた[2]。低次の二項展開は13世紀中国の楊輝[6]朱世傑[2]の数学的業績にも見られる。楊輝は遥か旧く11世紀の賈憲英語版の書の方法に従った(しかし、それらもまた今日では失われてしまった)[3]:142

1544年にミハエル・シュティーフェルドイツ語版英語版[7]は "binomial coefficient"(「二項係数」)の語を導入し、(1 + a)n(1 + a)n−1 での表し方を、「パスカルの三角形」により示した[8]ブレーズ・パスカルは、今日彼の名を冠して呼ばれる三角形の包括的な研究を論文英語版Traité du triangle arithmétique (1653) に著したが、これらの数の規則性はルネッサンス後期ヨーロッパの数学者たち(例えばシュティーフェル、タルタリアシモン・ステヴィンなど)には既に知られていた[8]

アイザック・ニュートンは有理数冪に対して成り立つ一般化された二項定理を示したと考えられている[9][8]二項級数を参照)。


脚注

  1. ^ a b k = 0, n では項にそれぞれ y, x が現れないが、x0 = y0 := 1 と定義することより、統一して表記することができる。乗法的単位元 1 が存在しない場合は、この定義はできない。
  2. ^ a b これは収束を保証する。r によっては、|x| = |y| でもこの級数が収束することがある。

参照

  1. ^ a b Weisstein, Eric W. "Binomial Theorem". mathworld.wolfram.com (英語).
  2. ^ a b c d Coolidge, J. L. (1949). “The Story of the Binomial Theorem”. The American Mathematical Monthly 56 (3): 147-157. https://www.jstor.org/stable/2305028. 
  3. ^ a b c Jean-Claude Martzloff; S.S. Wilson; J. Gernet; J. Dhombres (1987). A history of Chinese mathematics. Springer 
  4. ^ a b Biggs, N. L. (1979). “The roots of combinatorics”. Historia Math. 6 (2): 109-136. doi:10.1016/0315-0860(79)90074-0. 
  5. ^ a b O'Connor, John J.; Robertson, Edmund F., “Abu Bekr ibn Muhammad ibn al-Husayn Al-Karaji”, MacTutor History of Mathematics archive, University of St Andrews, https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Al-Karaji/ .
  6. ^ Landau, James A. (1999年5月8日). “Historia Matematica Mailing List Archive: Re: [HM] Pascal's Triangle” (mailing list email). Archives of Historia Matematica. 2007年4月13日閲覧。[リンク切れ]
  7. ^ シュティーフェル』 - コトバンク
  8. ^ a b c Kline, Morris (1972). History of mathematical thought. Oxford University Press. p. 273 
  9. ^ Bourbaki, N. J. Meldrum訳 (1998-11-18). Elements of the History of Mathematics Paperback. ISBN 978-3540647676 
  10. ^ 二項定理の意味と係数を求める例題・2通りの証明』 - 高校数学の美しい物語
  11. ^ Binôme de Newton : démonstration par récurrence. - YouTube
  12. ^ Binôme de Newton : approche par dénombrement. - YouTube
  13. ^ E.ハイラー、G.ヴァンナー 『解析教程(上)』p.29 シュプリンガー・ジャパン
  14. ^ Seely, Robert T. (1973). Calculus of One and Several Variables. Glenview: Scott, Foresman. ISBN 0-673-07779-9 






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