ユルリ島 植物・植生

ユルリ島

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/31 14:51 UTC 版)

植物・植生

ユルリ島の植生はその立地から大別して、台地草原、湿原、断崖植生の三つに区分される。それぞれが北方の自然を代表する群落組成を示し、300種(推定)に近い植物の生育を見る。低地の沢沿いにヤナギの小郡生地があるほかは、樹林はまったくない[15][16]

台地草原

北海道東部の沿岸台地や海岸砂丘地帯は古くから放牧地として利用されてきているが、ユルリ島においても馬が自然放牧されてきた。この島での放牧は非常に古く、しかも周年放牧を行なっているのが一つの特色になる[15]。台地上ではミヤコザサを中心とする海岸草原が主となっているが、馬がミヤコザサや高径の草本を食すため、花園効果により草丈の低い植物種が豊富である。やや湿潤な場所にはナガボノシロワレモコウ、タチギボウシに代表される植物群落が形成される。台地草原にはタチギボウシ、ハクサンチドリエゾフウロなどの白色個体が多くみられることも特徴の一つである。

湿原

島の中央部に高層湿原が広がり、その周囲を幅の狭い低層湿原が囲う。高層湿原の成立は14000年前とされる。完新世初頭の暖流の北上に伴い発生した夏季の海霧とそれに伴う低温などの特殊条件が影響し成立した古い歴史を持つものである[17]。チャミズゴケ、スギゴケ、ヒメツルコケモモ[18]ガンコウランイソツツジなど道東の高層湿原の特徴種が見られるほか、クロマメノキのような特異的な種が出現し、千島列島の湿原植生、植物相と道東の湿原植生の関係性を考える上で非常に重要であるとされる[15][16]。また、ユルリ島で記録されている環境省レッドリストおよび北海道レッドリストに記載されている植物種は24種[19][20][21]あるが、そのうち17種が湿原及び湿地環境を生育の場とする種である。

人の出入り等が少ないため原生に近い環境が保たれており、保全上も非常に重要な場所であるとされる[22]

野生化した馬による踏圧等による影響が懸念され、田中(1973)では「主たる馬道はほぼ定まっているようで、蹄跡の密度がこの事を示している」「湿原全域を展望すると、湿原の中にもある程度の足跡は残されているが、はっきりした馬道は目立たず、第一次の湿原として現在にいたっている事が推測される」とあるが、その後行われた橘ほか(1997)では『高層湿原内にも馬道が至る所でみられ、踏み荒らしによる植生の破壊や糞尿による湿原水の富栄養化などが懸念される』と報告している。

2017年時点で、馬は3頭にまで減少しているが、「馬の消滅とともに、高層湿原を含めたユルリ島の植生がどのように回復していくかモニタリングしていくことは、大型草食動物の攪乱から自然植生がどのように回復するか?回復にはどの程度の時間を要するのか?を知り、他の高層湿原における保全施策を考える上でも重要な情報となりうる(外山2017)」と主張する者もいる[23]

断崖および海浜植物

島の断崖には国内では分布が限られている、キヨシソウ、トモシリソウが多くみられる。その他、海浜にはハマツメクサ、チシマキンバイなどがある。断崖上部にはユキワリコザクラ、エゾオオバコ、チシマコハマギク、ネムロシオガマなどが生育する[15]

白花品種

ユルリ島の植生で特記されるものは、白花品種の多様性である。島ではシロバナタチギボウシ、シロバナツリガネニンジン、シロバナエゾフウロ、シロバナハクサンチドリ、シロバナウツボグサ、シロバナクサフジなどが数多く発見される[15]。どのようなメカニズムでユルリ島において白花品種が多くみられるのかに関する研究はなされていないが、推測されるものとしては、白花品種が見られる植物種は全て虫媒花であり、虫媒花の花の形質(形、色)はポリネーター(花粉媒介者)との相互作用によって進化してきたといわれている[22]ことから、ユルリ島の自然環境においては白色の花を咲かせることで、効果的にポリネーターを引き寄せることのできる条件があり、一定程度の割合で白花品種が見られる可能性が考えられている。


注釈

  1. ^ 根室層群は、その下部からイノセラムスアンモナイトの化石が発見されていることよりかつては根室層群全体が白亜系とされた[1]が、根室層群上部から新生代古第三紀暁新世ダニアン有孔虫化石が発見され[2][3]てから層序・年代の見直しが進み、君波(1978)はユルリ累層を根室層群上部の霧多布層に対比した。さらに、Okada et al. (1987)が霧多布層からダニアンのナンノ化石(: nannofossil)を報告していることから、ユルリ層もダニアンの地層(ダン階)とされている[4][5]
  2. ^ 本段落は、ユルリ層の層序・年代に関する注釈以外は原則、三谷ほか(1958)を参照している。

出典

  1. ^ a b 三谷ほか(1958)
  2. ^ 浅野(1962)
  3. ^ Yoshida (1967).
  4. ^ 君波(2010)
  5. ^ 産総研の20万分の1日本シームレス地質図(全国版)V2(地質図Navi)の当該地層の凡例
  6. ^ 「根室沖の無人島ユルリ島で野生馬の間引き」北海道新聞(2006年11月4日)
  7. ^ 「厳寒、雌馬生き抜く 根室・ユルリ島」北海道新聞(2013年2月14日)
  8. ^ ユルリ島 ウェブサイト
  9. ^ 「写真家・岡田敦さん 消えゆく野生馬の姿残したい」毎日新聞(2016年9月8日)
  10. ^ 「写真家岡田敦、消えゆく馬を写す 〜ユルリ島の野生馬〜」NHK(2013年4月5日)
  11. ^ 「ユルリ島の馬 撮り続ける 生活の証し後世に」北海道新聞(2013年04月01日)
  12. ^ 「写真家岡田敦、消えゆく馬 無人島で追う 残りは雌ばかり6頭」朝日新聞(2013年04月03日)
  13. ^ 「北の無人島 野生馬活写」東京新聞(2014年04月03日)
  14. ^ 「(各駅停話1023)JR花咲線(4)昆布盛 無人島、馬だけが残った」朝日新聞(2017年9月19日・朝刊)
  15. ^ a b c d e f 田中 (1973)
  16. ^ a b 橘ほか(1997)
  17. ^ 守田(2001)
  18. ^ ツルコケモモも参照
  19. ^ 環境省レッドリスト2017
  20. ^ 根室市教育委員会(2007)
  21. ^ 北海道自然環境局. 2001. 北海道レッドリスト植物編
  22. ^ a b 鈴木ほか(2016)
  23. ^ 【HTBセレクションズ】ユルリ島と、残された馬 - YouTube(北海道テレビ放送(2017年11月14日公開))
  24. ^ 芳賀 (1973)
  25. ^ 国指定鳥獣保護区一覧 < 環境省公式サイト
  26. ^ ユルリ・モユルリ島海鳥繁殖地 < 文化遺産オンライン
  27. ^ 自然環境保全地域等 | 環境生活部環境局自然環境課 < 北海道庁公式サイト
  28. ^ 生物多様性の観点から重要度の高い湿地 < 環境省公式サイト
  29. ^ 日本野鳥の会 : IBA(重要野鳥生息地)選定事業 < 日本野鳥の会公式サイト
  30. ^ 毎日新聞「ドブネズミ駆除作戦で海のカナリア増加」2017年3月21日
  31. ^ 毎日新聞「馬はなぜ死んだのか」2017年04月03日
  32. ^ 読売新聞「ドブネズミ根絶可能性 根室ユルリ、モユルリ島」2016年12月08日
  33. ^ 「写真家・岡田敦さん 写真の町東川賞」北海道新聞(2017年5月1日)
  34. ^ 「岡田敦さん 写真の町東川賞」毎日新聞(2017年5月6日)
  35. ^ 「岡田敦さんに特別作家賞」根室新聞(2017年5月10日)
  36. ^ 「写真家・岡田敦さん 東川賞受賞」北海道新聞(2017年5月11日)
  37. ^ 「稚内生まれ岡田さん 東川賞特別作家賞に」朝日新聞(2017年5月18日)
  38. ^ 「ほっかいどうアート紀行 消えゆく馬を捉える岡田敦」朝日新聞(2017年8月23日)
  39. ^ NHK金曜特集 「高倉 健・北帰行」 ―さらば道産馬― | 番組表検索結果詳細 | NHKクロニクルも参照。
  40. ^ 番組詳細 グリーンチャンネル ヒュ馬ンアワーセレクション (2011/12/08 13:00 ~ 2011/12/08 14:00)
  41. ^ 番組詳細 グリーンチャンネル ヒュ馬ンアワーセレクション #38「ユルリ島~野生馬との新たな出会い~」制作:1999年 (2016/09/30 09:30 ~ 2016/09/30 10:30)
  42. ^ さわやか自然百景 - NHK - ウェイバックマシン(2018年8月18日アーカイブ分)、さわやか自然百景 「北海道 ユルリ・モユルリ島」 | 番組表検索結果詳細 | NHKクロニクル
  43. ^ さわやか自然百景 2018/08/27(月)16:05 の放送内容 ページ1 | TVでた蔵






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