フリーター 不完全雇用として

フリーター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/16 17:40 UTC 版)

不完全雇用として

日本における不本意非正規雇用労働者の割合・人数の推移

バブル期フリーターと氷河期フリーターの最大の違いは、前者は「自ら就職を拒否してフリーターを選んだ」のに対し、後者は「就職を希望しながら、やむを得ずフリーターにならざるを得なかった(不完全雇用)」という点である[注釈 3]

フリーターが就職で不利になる理由とは

フリーターへの偏見

2010年代の日本の企業において、人事や面接を担当する者は、多くの場合、バブル経済全勢の恵まれた時期にさほどの苦労もなく就職できた中高年世代や、現役で就職をした(挫折経験がない)者たちである。彼らは一般に「フリーター=“バブル期のフリーター”」「“学生時代に就職活動をしていなかった”」などとイメージしており、フリーターに対する偏見が強く、フリーター経験のある者を社会からの逸脱者として「好きでなった」「長続きしない」「問題を起こす」などと決め付けて、マイナス評価する傾向が強い。

事実、厚生労働省が発表した2004年の「雇用管理調査」では[13]、フリーター経験をプラス評価する企業は3.6%に過ぎず、逆にマイナス評価する企業は30.3%である事が分かっている。

有り付ける求人の少なさ

上記の理由より、フリーターが就職可能な職種・業種といえば、その多数が職歴を問題としない人手不足の求人(営業職、鉄骨組み、零細の土建、IT土方、地方の配達業・運送業、掃除夫(清掃員)、中小の警備会社、チェーン店の店員[14]、苺農園など)に限られる。しかし、これらの求人は終身雇用の保証はなく、低所得かつ雇用状況も不安定であるため(零細の土建や地方の配達業[注釈 4]などは大手の下請けであるため、常に仕事を確保できる訳ではない)、同一世帯員を有し家族を扶養し続けることは困難である。

離職率の高さに加え、失業率も高く、就職しても数年後にはフリーターに戻ってしまうか、あるいは同レベルの求人を転々とせざるを得ない。

ゆえに、氷河期フリーターは、生活のためにフリーター生活を継続するか、たとえ生活が苦しくなろうとも低所得の正規職に就くか、その双方を転々とするかのいずれかを余儀なくされている。

事実、中期氷河期世代に当たる1975年生まれ世代の“正社員”の平均年収は、三菱総合研究所の調査では「300万円」である事が判明している[15]。 また、2008年に行われた兵庫県内の労組調査でも、兵庫県内の正社員を含む若年層の若者の4割が年収200万以下であることが分かっている[16]。これらの数字は、就職氷河期出身者は“正社員”でも、非正社員と大差の無い雇用状況に置かれている事を示している。

フリーターと労働者派遣制度

1997年アジア通貨危機金融危機)の煽りを受けて日本は大不況に突入し、大量の失業者が発生した。新卒市場も超氷河期に突入し、2000年〜2005年の大卒の就職率は著しく低下した。参考に2004年の就職率は55.8%(男性:53.1%、女性:59.7%)。

職業安定所の中途市場の求人数も、求職者数に対して4割不足していたが為に[17]、フリーターやニートにならざるを得ない若年者が大発生した。

1999年、中高年の失業者と就職難の若年者の受け皿として労働者派遣事業が一般に解禁されると、派遣労働者として生きるフリーターが急増し始めた。

フリーターの受け皿として注目される職業

農業介護は深刻な人手不足に悩まされており、フリーターを受け入れようとする動きが活発になっている。

介護は資格が必要である上に、その収入は非正規労働者と同レベルである為、現段階では雇用対策の役に立っているとは言い難い状況である。

一方、農業分野では資格も職歴も問われないため、フリーターの間で注目されつつある、との見方もあるが[18]、会社勤めとは勝手が異なる労働環境に慣れずに離職する者も多く、低所得・重労働・労災多発などのデメリットも伴う為、はたしてフリーターの受け皿に成りえるかどうか、疑問が呈されている。[19]


注釈

  1. ^ 特に1980年代はアイドル全盛期であり、ミュージシャン俳優に憧れる若者が多く、彼らは芸能人を目指したり、就職せずにアルバイトで生計を立てる者が多かった。
  2. ^ バブル期は新卒でさえあれば面接一回のみで大手企業に入社ができたような状況が一変し、求人募集はするが採用者を極力少数に抑える企業が増え始めた。
  3. ^ 2003年度の内閣府「若年層の意識実態調査」により、氷河期フリーターの過半数(男性は90.9%以上)が就職を希望していることが分かっている。逆に、フリーターを続けたいと希望している者は8%に過ぎなかった。「意識」の項に出典へのリンク先あり。
  4. ^ 逆に、仕事を確保するために、安値で仕事を大量に請け、従業員に過酷な薄給激務を負わせる所も多い。月に552時間の労働時間にヤクザまで使う日本の 会社にイギリス人もびっくり!-レインダンス映画祭
  5. ^ 職業訓練を受ける場合、アルバイトを含めて仕事をしていないことが条件となるため、収入が途絶えてしまう。
  6. ^ アメリカでは、応募者の年齢や生年月日について企業側が質問を許されているのは「年齢は18歳以上であるか」「正式に採用が決まった時に、応募者の身分を証明できる物を提出できるか」の2点のみである。

出典

  1. ^ 大都市の若者の就業行動と意識の分化 ―「第3回 若者のワークスタイル調査」から―」『労働政策研究報告書』第148巻、労働政策研究・研修機構、2012年。 
  2. ^ a b c 「フリーター」とは誰なのか」(PDF)『日本労働研究雑誌』第46巻第4号、労働政策研究・研修機構、2004年4月、46-49頁、NAID 40006184798 
  3. ^ a b c d 大都市の若者の就業行動と意識の分化 ―「第4回 若者のワークスタイル調査」から―」『労働政策研究報告書』第199巻、労働政策研究・研修機構、2017年10月20日。 
  4. ^ 日本標準職業分類一般原則 職業の定義より
  5. ^ 『平成15年版国民生活白書』, 内閣府,2003年発行
  6. ^ OECD Labour Force Statistics 2020, OECD, (2020), doi:10.1787/23083387 
  7. ^ [1]
  8. ^ a b c 平成18年度国民生活白書
  9. ^ a b 平成15年版国民生活白書
  10. ^ 2006年12月1日付 読売新聞『フリーター選択の理由は「夢追求」…5年前に比べ増
  11. ^ 氷河期世代ユニオン
  12. ^ 仁井田典子「マス・メディアにおける「フリーター」像の変遷過程 : 朝日新聞(1988-2004)報道記事を事例として」『社会学論考』第29巻、首都大学東京・都立大学社会学研究会、2008年10月、107-146頁。 
  13. ^ ―平成16年雇用管理調査結果の概況― フリーターについて
  14. ^ 2010.4.9 じつは派遣より悲惨!“ブラック化”する外食・小売チェーンの正社員たち|格差社会の中心で友愛を叫ぶ|ダイヤモンド・オンライン
  15. ^ 35歳の平均年収 1997年:500~600万 2009年:300万 「若い頃の将来像と違う」 - newsing(ニューシング)
  16. ^ 年収200万以下、若者の4割強 兵庫県内労組調査 奈労連・一般労組支援
  17. ^ e-stat 一般職業紹介状況 2009年10月
  18. ^ 第1回 なぜいま「農業ブーム」か|農業には日本を変える力がある|WEB連載|新しい日本を創る提言誌 Voice+ ボイスプラス
  19. ^ 《農業労働現場の実情》(上) 農業ブームの陰に隠された低所得・重労働・労災多発の世界 - 日刊ベリタ 2009年08月18日11時01分掲載
  20. ^ 内閣府 (2020). 令和2年版子供・若者白書 参考資料10 巻末5-9 フリーター(パート・アルバイトとその希望者)の数 (Excel) (Report). 2021年5月11日閲覧
  21. ^ 厚生労働省・労働経済白書
  22. ^ 厚生労働省・労働白書
  23. ^ 平成15年版国民生活白書 (PDF)
  24. ^ リクルートワークス研究所
  25. ^ 2006年版 中小企業白書>第3部 少子高齢化・人口減少社会における中小企業>第3章 「子どもを産み育てやすい社会」に向けた中小企業の役割>第2節 若年者雇用の不安定化の概況
  26. ^ a b c d e 週刊東洋経済』2007年6月23日号
  27. ^ 2006年版 中小企業白書中小企業庁
  28. ^ 『新平等社会』 山田昌弘著 文藝春秋 2006年9月[要ページ番号]
  29. ^ 2006年版 中小企業白書』(中小企業庁)
  30. ^ 丸山俊『フリーター亡国論』ダイヤモンド社 2004年[要ページ番号]
  31. ^ 千葉県インターンシップ推進事業について
  32. ^ 2007年1月24日付け朝日新聞 『求人の年齢制限禁止 与党協議会で合意へ』
  33. ^ 雇用対策法及び地域雇用開発促進法の改正について





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