ギアオイル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/22 16:51 UTC 版)
潤滑する装置の種類[3]によって異なる性質のものが用いられ、主にマニュアルトランスミッションに用いられるものはミッションオイルやマニュアルトランスミッションフルード(MTF)、デファレンシャルに用いられるものはデフオイルと分けて呼ばれる場合もある。
概要
ギアオイルは主原料の基油(英: base oil)に、駆動伝達装置の潤滑に適した特性の油添加剤を加えた製品である。基油には鉱物油が古くから用いられてきたが、近年では化学合成油を用いる製品もある。添加剤は酸化防止剤や流動点降下剤、極圧剤、摩擦調整剤。防錆剤、消泡剤といったものが加えられるほか、粘度指数向上剤が加えられる場合もある[4]。かつては鉛系添加剤[5]や、マッコウクジラ由来の鯨油などが添加剤として用いられた時期もあったが、環境保護や商業捕鯨の禁止などの影響により、化学的に合成された成分に置き換えられている[6]。
プロペラシャフトから車軸へ動力伝達する際に用いられるハイポイドギアは、歯車の表面に高い接触面圧がかかりながら滑り接触することから、普通のギヤオイルでは油膜切れを起こして焼き付く場合がある[7]。ハイポイドギアに対応したオイルはハイポイドギアオイルとも呼ばれ、極圧添加剤と呼ばれる添加剤が加えられている[7]。極圧添加剤は硫黄や塩素、リンなどを含む化合物で、高温高圧の条件下で歯車表面の金属と化学反応を起こして被膜を形成し、摩耗や焼き付き、融着といった現象を防止する[8]。
ギアオイルを交換する際には、車体や変速機メーカーが指定する粘度、及び後述のGL規格の区分を遵守する事が望ましいとされている。特にリミテッド・スリップ・デファレンシャルを装着している場合は、LSDへの対応が明記されている物を使用する事が推奨される。LSDは様々な形式のものが存在するが、それぞれ正常に動作する為の固有の摩擦調整剤を要求するためである。ハイポイドギアオイルやLSDオイルの多くは硫黄を含む添加剤により、腐った卵のような悪臭を発する為、取り扱いの際には適切な保護具の着用が推奨されている[6]。
オートバイの場合
今日のオートバイの多くはエンジンと同時にギアボックスを潤滑する方法をとっている車種が一般的で、これらはエンジンオイルで潤滑されている。ただし、湿式クラッチを採用した車種の場合はクラッチ機能を阻害しない機能を有したオートバイ用エンジンオイルが利用される。ギアボックスの潤滑系統が独立している2ストロークエンジンを搭載した車種でも、オートバイ用4ストロークエンジンオイルをギアボックスに使うことをメーカーが指定している車種は多い。
一方、エンジンとギアボックスの潤滑系統が分離している車種ではオートバイ専用のギアオイルを用いることが指定されている場合がある。多くの場合、メーカー純正ギアオイルは粘度指数やGL区分が公開されていない。シャフトドライブを採用した車種や側車に駆動輪を持つサイドカー、あるいはトライクのように独立したギアケースにハイポイドギアを用いる車種の場合には、自動車で用いられるハイポイドギアオイルに準じたギアオイルが用いられる。
また、スクーターのファイナルリダクション(最終減速段)ギアボックス(動力の伝達路としてはチェーンおよびスプロケットに相当)のようにクラッチを機構に内包しない場合であれば、エンジンオイルを使用する場合であっても四輪車用ほどではないものの低摩擦特性のエンジンオイルが純正でも用意されている(無論スクーターのエンジン用であり、スクーター以外の車種に用いるとクラッチが滑る可能性があることには変わりなく、スクーター以外での使用ができない旨の表記がある製品も存在する)。すなわち、スクーターはクラッチの問題がないため適切な粘度であれば四輪車用の低摩擦特性エンジンオイルをエンジンに(エンジンオイル指定であればギアボックスにも)使えるとも言える。
SAE規格
ギアオイルの粘度の表記はエンジンオイルに用いられるものと類似しているが、その数値が示す実際の粘度領域は異なる。工学的な区分であるISO粘度で比較すると、例えばギアオイルで粘度表記が75W-90のものはエンジンオイルでは10W-40とほぼ同じである。マルチグレードのギアオイルほどこの傾向が顕著となる。これは両者の粘度表記を所管するSAE規格においてエンジンオイルの粘度はSAE J300、ギアオイルの粘度はSAE J306という異なる規定が用いられているためである。
- ^ 農業機械、建設機械のみならず、定置式の装置や設備も含まれる。
- ^ オートバイ、自動車、鉄道車両、船舶、航空機。
- ^ 例えば自動車では、副変速機やトランスアクスルを含むトランスミッション、トランスファー、デファレンシャルなど。
- ^ “添加剤の種類と使用目的”. 株式会社潤滑通信社. 2011年8月22日閲覧。
- ^ a b c d e Richard Widman「The Difference between GL-4 and GL-5 Gear Oils」- www.widman.biz、2016年1月
- ^ a b Six steps to changing differential fluid - Mike Bumbeck、mobiloil.com。
- ^ a b 『大車輪』三栄書房、2003年。ISBN 4879046787。
- ^ “極圧添加剤とは”. 株式会社潤滑通信社. 2011年8月22日閲覧。
- ^ a b c d e f g Lubricant Service Designations for Automotive Manual Transmissions, Manual Transaxles, and Axles -API規格 No.1560 第8版, 2013年4月。
- ^ a b c d e f g BP オイルQ&A
- ^ Redline MT-90 75W90 GL-4 Gearoil
- ^ CHEVRON GEAR OIL GL-1 SAE 90, 140
- ^ API Gear Oil Specifications - oilspecifications.org
- ^ 石油便覧 第5編 第2章 第2節 自動車用潤滑油
- ^ Axle Oil Performance: Assuring that gear oils are up to the challenge - lubrizol.com
- ^ Axle Oil Specifications: from API GL-1 to Today - lubrizol.com
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