オートマチックトランスミッション
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基本操作
ATの操作レバーは、セレクトレバーまたはセレクターと呼ばれる[注釈 6]。セレクトレバーには複数の操作位置(レンジ)があり、前進や後退を切り替えるほか、運転者の任意で駐車時に駆動系の回転をロックする機能や、変速段を制限する機能を持ったレンジに切り替えられる。
セレクトレバーの配置は車体中央の床に配置するフロアATと、ステアリングポストの横に取り付けられたコラムAT、インストルメントパネルに配置されたインパネATがある。大型車では、セレクトレバーに代わって押しボタンを採用するものもある。1950年代にはアメリカ製大型乗用車やそれをコピーした旧ソ連製大型乗用車で、プッシュボタン変速を採用した事例もあったが、当時のプッシュボタン式セレクターはトラブルが多発し、レバー式のほうが操作が確実で、乗用車では一般化しなかった。近年ではトルコンATを搭載した大型バスやホンダの一部車種、日産・セレナ(C28型)でプッシュボタン式セレクターが採用されている。
後続車からの視点での発進時の特徴として、エンジン始動後「P」から「D」へセレクトレバーを動かす際、必ず『制動灯が点く』[注釈 7](=ブレーキを踏まないと「P」からチェンジができない)ことと、「R」を介す為『後退灯が一瞬点灯』[注釈 8]する挙動がある。この2つの挙動が見られた場合この車はAT車だと外部から瞬時に判別できる。逆にMT車の場合この2つの挙動がなく発進できる。
レンジの概要
- 「P」 - パーキングレンジ[注釈 9]
- 駐車中に使用する。変速機内部で駆動軸が固定されて車両を動かせなくなる。エンジンやハイブリッドシステムの始動・停止が可能である。スタータースイッチからキーを抜くことができる。
- 駆動系の固定は変速機内部のみであるため、車体に外部より過度な力がかかると、変速機内のストッパーとなる部品(パーキングロックポール)が破損する場合がある。このため安全策として、駐車時にはパーキングブレーキもしくは輪止めを併用するのが一般的となっている。ただし厳冬期など、パーキングブレーキが凍結して解除できなくなる恐れがある場合には、パーキングブレーキを使わず、パーキングレンジのみで駐車し、必要に応じて安定した輪止め等で補うことが推奨されている。大型トラックやバス用のATでは、上述の駆動系固定部の強度の問題から、Pレンジを持たないものが多い。
- 「R」 - リバースレンジ[注釈 10]
- 後退時に使用し、後退ギアが使用される。PレンジとNレンジの間に位置するものが多い。Rレンジでは電子音でブザーやチャイムが鳴り、運転者に警告する車種が多い[注釈 11]。
- 「N」 - ニュートラルレンジ[注釈 12]
- 変速機内部がフリー状態となり、エンジンおよびタイヤからのトルクが駆動系に伝わらないレンジである。「P」レンジとは違って駆動軸が固定されないので、軽い外力が加わると車体が動く。走行中にエンジンが停止した場合もPレンジ同様にスターターモーターに通電し、再始動を行うことができる。故障時において救援車両に牽引される際も使用される。
- 「D」 - ドライブレンジ[注釈 13]
- 通常走行時に使用する。トランスミッションの全段を利用して、様々な走行条件に合わせて自動的に変速する。4速以上の変速段を持つ車種では「D」だけでなく、変速タイミングを山岳路などの走行条件に合わせた設定としたドライブレンジを併せ持ち、「S(スポーツ[注釈 14])」や「D3」などと表記する場合もある。メーカーによって異なり「4(フォース[注釈 15])」(トヨタの5段AT車)、「3(サード[注釈 16])」(トヨタ・日産・三菱・スバル・ダイハツ)、「D5」(いすゞのNAVi5搭載車)、「D4」(ホンダ・ダイハツ・いすゞのNAVi5搭載車)、「D3」(ホンダ・いすゞのNAVi5搭載車)、「S」(マツダ)、「L」(トヨタ・日産のCVT車・ホンダのCVT車・三菱・ダイハツ・スズキ)、「1」(日産の非CVT・ホンダの非CVTなど)となっており、マニュアルモードつきについては「S」(トヨタ・ホンダ)、「M」(トヨタ・日産・ホンダ)となっている。また、AT搭載のバスなどではDレンジが「3」となっているものがある。同様に、CVT車では「D」に次ぐ低速側のレンジ名がメーカー毎に異なる。「Ds(スポーツドライブモード[注釈 17][注釈 18])」(三菱)もしくは「S」(ホンダ・ダイハツ)となっていたり、「L」の場合もある。また、特に強いエンジンブレーキ・回生ブレーキを作用させる「B(ブレーキ[注釈 19])」(トヨタ・ダイハツ・日産[注釈 20])というレンジを持つものもある。
- 段数固定レンジ
- 変速の上限を2速や1速に制限し、下り坂などエンジンブレーキを使用する際に使用する。一部車種では2速発進時に使用する。基本的に3速以上へ変速しないが、アクセルを過剰に開けてエンジン回転が限界に達した場合は、エンジンや変速機保護のために変速する仕様になっているものが多い。上限を2速(セカンドギア[注釈 21])に制限するものは「2」、1速(ローギア[注釈 22])に制限する場合は「L」や「1」と表記される場合が多い[38][39][40]。ホンダの軽自動車など、Lまたは1レンジがない車種がある。また日産・ローレル(6代目、5速AT車)やホンダ・オデッセイ(2代目、V6)やホンダ・インスパイア(4代目)などでは、「2」レンジに入れてから「1」ボタンを押して1レンジに入れる。マニュアルモードが備わる場合は、「D」以外の1(L)、2、3レンジがないこともある。
安全装置
AT車の多くの車種では、エンジン稼働中はブレーキペダルを踏まない限り「P」レンジから他のレンジへの切替操作ができない「シフトロック機構」が装備されている。これは、同乗者や子どもが不用意に触れた際の誤発進などの危険を防止するため、1980年代頃より安全装置として装備され始めた。
シフトロック機構は電気的・機械的に制御されており、万一の回路異常やバッテリー上がり、事故による損傷などでシフトロックが解除できない場合に備えて手動解除機構が設けられている[注釈 23][注釈 24]。不用意に「P」レンジから他のレンジにセレクトレバーが動かされたり、前進走行中に不用意に「R」レンジにセレクトレバーが動かされたりしないように、ロック解除ボタンが設置されていたり、直線的に操作できない矩形の操作パターンを採用しているものが多い。
エンジン始動は「P」レンジか「N」レンジでのみ可能となるよう制御されており、それ以外のレンジではセレクトレバーがスターターの電気回路を遮断し、通電しない構造となっている。
最初期のATであるGMハイドラマチック(1939年)のシフトパターンは「N-D-L-R」で、「P」レンジがなく、しかもどのシフト位置でもエンジンが始動できたため、「N」以外でエンジンを始動すると車が動き出す問題点があった。運転者はシフト位置が「N」レンジにあるか、ブレーキペダルをしっかり踏んだ状態でなければ安全にエンジンを始動できず、またエンジン停止後はマニュアル車での慣例同様にシフトを「R」に切り替えておくことで、パーキングロックの代用としていた。「L」レンジと「R」レンジが隣り合っていたため、誤操作にも注意が必要であった(確実な操作を行わないと、ギア切り替え時の破損につながる)。
アメリカにおける初期のAT車シフトパターンはしばらく各メーカーで統一されず、またGM以外でもパターン配列における安全配慮が不十分であった。この問題点の対策として、1950年代前期にはシフトパターンの「R-N-D-L」への是正、Pレンジの新設による「P-R-N-D-L」化が進められ、1950年代中期までにはこのシフトパターンがアメリカ市場のAT車で標準化されている。ヨーロッパや日本でもこれに倣ってレンジパターンが定型化した。
セレクトレバー以外の操作
ステップATの場合はオーバードライブスイッチ(O/Dスイッチ)、CVTの場合はスポーツモードスイッチ(SまたはSPORT)[注釈 25]が備えられた車種も多く、スイッチを切っておくと一定のギアから上に変速しなくなる(多くの車種では直結段[注釈 26]が上限となる)。普段はスイッチを入れておき、速度に応じてギアが最上段まで切り替わり、高速度でのエンジン回転数が抑えられ省燃費運転が可能となる。一方、山道や市街地走行などで頻繁に変速するような場合は、スイッチを切るとスムーズに走行できる。また渋滞や混雑などでも無用なシフトアップを避け、適度なエンジンブレーキで惰性走行を抑える効果がある。ただし、最高段以外でロックアップが行われない車種も存在する為、ラフなアクセル操作によって燃費の悪化を招く場合もある。エンジンを切ってもオフの状態が維持されるものが多いが、一旦エンジンを切ると、次の始動時に自動的にオンに復帰するものもある[注釈 27][注釈 28]。一部の車種では変速モードを選択するスイッチがついているものがあり、例えば「POWER」「AUTO」「SNOW」や、「ECONO」「AUTO」「SNOW」などのような走行状況に応じて切り替えられるものもある。このほかに、ホールドモードスイッチを採用する車種もあり、スイッチを入れるとDレンジでは2速と3速の間で自動変速となり、Sレンジでは2速、Lレンジでは1速にそれぞれギアが固定される。
注釈
- ^ 通常は発進から最高速まで2速のみで走行し、登坂など必要に応じて手動で1速に切り替える方式で、1948年にGMが開発したダイナフローと同様の機能を持つ。
- ^ ボルグワーナーが1950年代末期に、アメリカ市場の3,000 cc級乗用車向けに開発、1961年に供給を開始した、小型・中型車に適合するトルコン式3速ATである。世界各国のメーカーがこれを購入して自社のモデルに搭載した。
- ^ ダイムラー・ベンツの7G-TRONICなど
- ^ レクサス・LS
- ^ フランス語で油圧ギアボックスを意味するboîte de vitesses hydrauliqueの略。
- ^ 変速は変速機が自動で行なうため、MTのシフトレバーとは機能が異なり、異なる名称で呼ばれる。
- ^ ロック解除ボタンを使えば「制動灯を点けず」にチェンジ可能。
- ^ エンジンスイッチをOFF状態でロック解除ボタンを使って「N」に動かした後エンジンスイッチをONにすれば「後退灯を点けず」にチェンジ可能。またプッシュスタート式のAT車の場合ブレーキを踏まなければエンジンが掛からないので「制動灯を点けず」に発進は不可能である。
- ^ 英: parking range
- ^ 英: reverse range
- ^ 音が鳴らない車種もある。日本車の多くの車種では「ピーピー」というブザーだが、ホンダ車のほとんどの車種は「ピンポン、ピンポン」と鳴る。またBMW、フォードやマツダの一部車種などに「ポーン、ポーン」と鳴るものもある。
- ^ 英: neutral range
- ^ 英: drive range
- ^ 英: sports
- ^ 英: fourth
- ^ 英: third
- ^ 英: sports drive mode
- ^ ギア比が通常より大きくなり、山道や高速道路での追い越しが楽になり、エンジンブレーキもDより強くかかる
- ^ 英: brake
- ^ 日産車で「B」レンジを持つ車種はすべて電気自動車とe-POWER(シリーズハイブリッド)車であり、厳密には多段式のATやCVTは装備していない。
- ^ 英: second gear
- ^ 英: low gear
- ^ トヨタのコラムAT車(初代ノアや2代目イプサムなど)や、初代RVRはブレーキペダルから伸びたコントロールケーブルで機械的に制御していた。
- ^ シフトロック解除は専用のボタンを押したり、シフトレバー付近にキーを差し込んだりして行う。メーカーによってはエンジンキーの位置がアクセサリー(ACC)の場合のみシフトロックが働かず、ブレーキペダルを踏まなくてもパーキングを解除できるものがある。また一部輸入車には、イグニッションスイッチを入れると機械的にシフトロックを解除するものもある。
- ^ 日産・ジューク(1500 cc車)では、ドライブモードセレクターの「SPORT」モードとの混同を避けるためCVTでありながら「オーバードライブスイッチ」の名称が使われている。
- ^ 一般的に、4速ATの場合は3速、5速ATの場合は4速、6速ATの場合は4速又は5速が直結段
- ^ 最近のホンダ車ではD3スイッチという名称を用いている。O・Dスイッチと異なる点は、オンとオフの関係が逆になる。また、エンジンを切ると自動的にオフになる。
- ^ オーバードライブとなる変速段があり、かつオーバードライブスイッチのないAT車では、マニュアル変速が可能かもしくは「D3」(あるいは「3」)レンジが設定され、セレクトレバーによってオーバードライブスイッチと同等の操作を可能にしている。
出典
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