オートマチックトランスミッション
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/22 11:37 UTC 版)
種類
オートマチックトランスミッションは、クラッチ機構や変速機構の違いにより分類される。乗用車で最も普及しているのはクラッチ機構にトルクコンバータを用い、遊星歯車式多段変速機と組み合わせたものである。
クラッチ機構による分類
下記以外にも、電磁クラッチ式、乾式単板クラッチ式、乾式多板クラッチ式、流体継手(フルードカップリング)式、遠心クラッチ式などがある。またパラレルハイブリッド車の場合など、エンジンと変速機構の間にクラッチ機構を持たないものもある
トルクコンバータ式
流体継手を発展させたトルクコンバータを利用してエンジンの出力をトランスミッションに伝達する方式である。伝達に用いられる液体はATフルード(英: AT fluid)と呼ばれ、動力伝達の他に、変速機構を動作させる油圧回路の作動油としての機能や、変速機構に組み込まれているクラッチやブレーキの摩擦力を安定化する機能、潤滑機能なども併せ持つ。多くの場合、トランスミッションケース下部にATフルードを蓄えるオイルパンを持ち、内蔵するポンプでフルードを吸い上げて各部に送る。
ATフルードはATオイル(英: AT oil)と呼ばれる場合もあり、JASOでは自動変速機油と記述される。日本で「ATF」と表記した場合は出光興産の登録商標である[17]。油量はディップスティック式のオイルレベルゲージで、オイルパン内の液面高さを計るものがほとんどである。取扱説明書にフルードの交換について記載されていない車種も多いが、一般的に交換作業は専用の機械でフルードを循環させながら行う。ATフルードのフィルターを備えた一部の車種ではオイルパンを外す分解整備が必要な場合もある。
現在では、多段化が難しく利点も欠点も多いデュアルクラッチトランスミッション(DCT)に変わって、スポーツカーに最先端の機能を兼ね備えたトルコン多段式ATを搭載するメーカーも増えてきている。
湿式多板クラッチ式
エンジンからトランスミッションへの動力伝達に湿式多板クラッチを用いる方式である。ホンダは「ホンダマルチマチック」として油圧で動作する湿式多板クラッチを無段変速機と組み合わせ、1995年式シビックから順次搭載した[18][19]。ダイムラー・ベンツは「AMGスピードシフトMCT」として湿式多板クラッチと遊星歯車式変速機構を組合せ、メルセデス・ベンツ・SLクラス(R230系)のSL63AMGをはじめとして多くのAMGモデルに採用されている[20]。ダイレクト感と素早い変速、高い伝達効率を訴求力としており、運転者がギアを選択できる「M」モードではダブルクラッチ制御を行って、よりダイナミックな走行を可能としている[20]。操作方法はシフトレバーによるものやステアリング上のスイッチによるもの、パドル式などがある。
後述のAMT(Automated Manual Transmission)の一部にも採用されている。
湿式多板クラッチ式デュアルクラッチトランスミッションでは、一般に内蔵の湿式多板クラッチを発進時にも流用する。
変速機構による分類
大きく分けて減速比を段階的に切り替える有段自動変速機と無段階に切り替える無段変速機とがある。有段自動変速機は長年の主流であったが、無段変速機が登場して普及が進んだことにより、これと区別するために自動車メーカーや部品メーカーでは有段ATを「ステップAT」と呼ぶ場合がある[21]。有段ATはコンピュータ制御技術が普及して高度化する以前から制御が可能な機構であったが、エンジンの出力を効率的に利用するため、あるいは環境対策のためには変速段数を増やす必要があり、それに伴って歯車や制御機構が増えて体積と重量が増加する[22]。無段変速機では変速比幅を大きくすると当然大型化する。
無段変速機の中には遊星歯車機構を組み合わせたものもある。
遊星歯車式
遊星歯車機構で動力を伝達する方式で、トランスミッション内部にリングギアやピニオンキャリア、サンギアの回転を制御するブレーキ機構やクラッチ機構を備え、それらを油圧などで動作させて段階的に減速比を切り替える方式である。1組の遊星歯車により前進2速、後進1速の切り替えが可能で、遊星歯車と制御機構を増やすことで段数を増やすことができる。
クラッチ機構には湿式多板クラッチ、ブレーキ機構には湿式多板ブレーキやバンドブレーキが用いられ、いずれも油圧によって作動する。油圧回路は多数のバルブで切り替えられるが、1980年代まではガバナ機構により機械的にバルブの切り替えと変速制御を行っていた。1980年代後半にソレノイドにより電気的にバルブを駆動するものが登場し、アクセルペダルの踏み込量や車速などに基づいてコンピュータが制御し、変速タイミングをより効率的に制御できるようになった。
最初の実用ATであるGMハイドラマチックは前進4速/後進1速であった。その後の変速機技術の試行錯誤過程で、前進2速、3速、4速が市場で一時並立し、1960年代〜1970年代には前進3速ATが主流を占めたが、市場のニーズや技術の発展に伴って変速段数を増やしたものが搭載されるようになった。2010年代では小型、廉価な車種では3速や4速、大衆車では5速や6速が普及し、高級車では7速[注釈 3]や8速[注釈 4]以上が搭載される例がある。後進はほぼ全ての車種で1速であるが、2速のものもある。
後述の無段変速機に、後退のための逆回転や副変速機として用いられる事もある。電力・機械併用式無段階変速機でもキーコンポーネンツとして組み込まれている。
平行軸歯車式
多くのマニュアルトランスミッションで見られる、平行軸に保持された異なる減速比の歯車の組合せを複数持ち、これを油圧・電動機構などで動作させて自動的に切替え、ギア比を選択する自動変速機である。遊星歯車式に比べると減速比の組合せに自由度が高い。
トランスミッション内に湿式摩擦クラッチを使用し、トルクコンバータを採用した上で、トルクコンバータ内のステータ反力を検出する独自の制御機構と組み合わせた物は、本田技研工業が1960年代後期にホンダマチックとして開発した方式で、メルセデス・ベンツ・Aクラス(初代)の5段ATでも採用されていた。
また一般的なマニュアルトランスミッションと同様の、常時噛合いシンクロメッシュ平行軸歯車式変速機を基にして、これを電子制御油圧・電動アクチュエーターなどで自動変速する様にし、特に電子制御自動乾式(あるいは湿式)摩擦クラッチを採用してトルクコンバータが付かないいすゞ自動車NAVi5などの自動変速機は、オートメイテッドマニュアルトランスミッション(AMT)と呼ばれる[23][8]。マニュアルトランスミッションで変速時、アクセルワークでギア回転数を合わせる必要があるのと同様な操作を自動で行う必要があるため、一般にスロットル操作がドライブ・バイ・ワイヤ化される。
デュアルクラッチトランスミッション(DCT)
ツインクラッチトランスミッションとも呼ばれる。摩擦クラッチと変速機構のセットを奇数段用と偶数段用の2系統持っており、次のギアを予め噛み合わせておいて、そのギヤの系統のクラッチを繋ぐ直前に他系統のクラッチを切ることで変速を行う。増速変速時、通常の1系統の物に対して駆動力の途切れる時間を短縮することができる。トルクコンバーターと組み合わせた稀な場合を除いて、度重なる発進でクラッチに無理がかかる事がある。シフトアップ時にも僅かに自動的に一時スロットルが絞られ、特にシフトダウン時自動スロットル操作などによるブリッピングが必要なため、一般にスロットル操作がドライブ・バイ・ワイヤ化される。
オートメイテッドマニュアルトランスミッション (AMT)
「オートメイテッドマニュアルトランスミッション(AMT)」は、マニュアルトランスミッションの機械設計によく似た機構に基づく自動車用トランスミッションシステムの一種である。クラッチシステムとギアシフトのいずれかあるいは両方が同時に自動化されており、運転手による変速操作は部分的にしか、あるいは全く必要としない[24][25][26][27][28]。
オートスティックといった、動作がセミオートマチック(半自動)だった初期のAMTは、クラッチシステムのみを自動的に制御する。クラッチを自動化するための作動形式(大抵はアクチュエータまたはサーボを介する)は様々であるが、変速のためには手動でのギアチェンジが必要であった。セレスピードやイージートロニックといった現代的なAMTの動作はフルオートマチックであり、ギアチェンジやクラッチ操作に運転手の入力を必要とせず、TCUあるいはECUがクラッチシステムとギアシフトの両方を自動的に操作する。
現代的なオートメイテッドマニュアルトランスミッション(AMT)の起源は、より古いクラッチレスマニュアルトランスミッションにあり、これは油圧式オートマチックトランスミッションの導入以前の1930年代初頭と1940年代に量産車に登場し始めた。クラッチレスマニュアルシステムは運転手が必要とされるクラッチあるいはシフトレバーの使用量を減らすために設計された[29]。当時一般的に使われていたノンシンクロマニュアルトランスミッションの操作は、特に停止-発進が難しく、これらの装置はこれを低減することが意図されていた。初期のクラッチレスマニュアルの例が1942年にハドソン・コモドアで導入された「Drive-Master」であった。この装置は初期のセミオートマチックトランスミッションであり、従来型のマニュアルトランスミッションの構造に基づいている。クラッチはサーボ制御負圧作動式、ギアは3段であり、マニュシフト・マニュアルクラッチモード(フルマニュアル)、マニュアルシフト・自動化クラッチモード(セミオートマチック)、自動シフト・自動クラッチ(フルオートマチック)の3つのモードを備えていた[30][31][32]。1955年式シトロエン・DSもこのトランスミッションシステム(4速BVH[注釈 5])を導入した初期の例の1つであった。BVHは油圧を使って作動させる自動化クラッチを使っていた。ギア選択も油圧を使っていたが、ギア比は運転手が手動で選択する必要があった。このシステムは米国では「Citro-Matic」と呼ばれた。
最初の現代的なAMTは1997年にBMW(SMGトランスミッション)とフェラーリ(F1トランスミッション)によって導入された[33][34][35][36]。どちらのシステムも油圧アクチュエータと電磁弁、クラッチとシフト用の専用TCUを使用していた。運転手がステアリングホイールに取り付けられたパドルシフターを使って、望む時に手動でギアを変えられた。
欧州車で採用されたセレスピードやイージートロニックといった現代的なフルオートマチックAMTは、現在はデュアルクラッチトランスミッションに次第に置き換えられている。
無段変速機(CVT)
プーリーや駒形のローラーや油圧・発電電動機構等を用いて無段階に減速比を変化させる方式の総称である。連続的かつ無段階に減速比を選べるため最も効率のよいエンジン回転速度を利用して走行することができる[37]。一方で、摩擦式無段変速機は摩擦によって動力を伝達する方式であるため滑りが生じ、油圧・発電電動式無段変速機も変換ロスがあるため、歯車による伝達より伝達損失が大きい。摩擦式無段変速機はオートバイのオートマチックトランスミッションでは主流の方式である。単体では摩擦式無段変速機は変速レンジが限られる。乗用車や小型貨物車に用いられる摩擦式無段変速機は、エンジンの動力を電磁摩擦クラッチで伝達される場合と、トルクコンバーターで伝達される場合がある。オートバイでは遠心摩擦クラッチと組み合わせる場合がほとんどである。油圧・発電電動式無段変速機は、土木建設・鉱山・農業・無限軌道車両走行変速に用いられる事が多い。トルクコンバータも無段変速機であるが損失が大きい。
後退のための逆回転や副変速機に、前述の遊星歯車が用いられたものもある。
注釈
- ^ 通常は発進から最高速まで2速のみで走行し、登坂など必要に応じて手動で1速に切り替える方式で、1948年にGMが開発したダイナフローと同様の機能を持つ。
- ^ ボルグワーナーが1950年代末期に、アメリカ市場の3,000 cc級乗用車向けに開発、1961年に供給を開始した、小型・中型車に適合するトルコン式3速ATである。世界各国のメーカーがこれを購入して自社のモデルに搭載した。
- ^ ダイムラー・ベンツの7G-TRONICなど
- ^ レクサス・LS
- ^ フランス語で油圧ギアボックスを意味するboîte de vitesses hydrauliqueの略。
- ^ 変速は変速機が自動で行なうため、MTのシフトレバーとは機能が異なり、異なる名称で呼ばれる。
- ^ ロック解除ボタンを使えば「制動灯を点けず」にチェンジ可能。
- ^ エンジンスイッチをOFF状態でロック解除ボタンを使って「N」に動かした後エンジンスイッチをONにすれば「後退灯を点けず」にチェンジ可能。またプッシュスタート式のAT車の場合ブレーキを踏まなければエンジンが掛からないので「制動灯を点けず」に発進は不可能である。
- ^ 英: parking range
- ^ 英: reverse range
- ^ 音が鳴らない車種もある。日本車の多くの車種では「ピーピー」というブザーだが、ホンダ車のほとんどの車種は「ピンポン、ピンポン」と鳴る。またBMW、フォードやマツダの一部車種などに「ポーン、ポーン」と鳴るものもある。
- ^ 英: neutral range
- ^ 英: drive range
- ^ 英: sports
- ^ 英: fourth
- ^ 英: third
- ^ 英: sports drive mode
- ^ ギア比が通常より大きくなり、山道や高速道路での追い越しが楽になり、エンジンブレーキもDより強くかかる
- ^ 英: brake
- ^ 日産車で「B」レンジを持つ車種はすべて電気自動車とe-POWER(シリーズハイブリッド)車であり、厳密には多段式のATやCVTは装備していない。
- ^ 英: second gear
- ^ 英: low gear
- ^ トヨタのコラムAT車(初代ノアや2代目イプサムなど)や、初代RVRはブレーキペダルから伸びたコントロールケーブルで機械的に制御していた。
- ^ シフトロック解除は専用のボタンを押したり、シフトレバー付近にキーを差し込んだりして行う。メーカーによってはエンジンキーの位置がアクセサリー(ACC)の場合のみシフトロックが働かず、ブレーキペダルを踏まなくてもパーキングを解除できるものがある。また一部輸入車には、イグニッションスイッチを入れると機械的にシフトロックを解除するものもある。
- ^ 日産・ジューク(1500 cc車)では、ドライブモードセレクターの「SPORT」モードとの混同を避けるためCVTでありながら「オーバードライブスイッチ」の名称が使われている。
- ^ 一般的に、4速ATの場合は3速、5速ATの場合は4速、6速ATの場合は4速又は5速が直結段
- ^ 最近のホンダ車ではD3スイッチという名称を用いている。O・Dスイッチと異なる点は、オンとオフの関係が逆になる。また、エンジンを切ると自動的にオフになる。
- ^ オーバードライブとなる変速段があり、かつオーバードライブスイッチのないAT車では、マニュアル変速が可能かもしくは「D3」(あるいは「3」)レンジが設定され、セレクトレバーによってオーバードライブスイッチと同等の操作を可能にしている。
出典
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オートマチックトランスミッションと同じ種類の言葉
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