エア・コンディショナー 家庭用

エア・コンディショナー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/11 16:15 UTC 版)

家庭用

蒸発器 (暖房時は凝縮器として働く)

ルームエアコンとも呼ばれる家庭用エアコンには、形態として、圧縮機・凝縮器・蒸発器が一体となった窓型と、圧縮機・凝縮器が一体となった室外機と、蒸発器が内蔵された室内機とで構成されるセパレート型東芝では「スプリット型」という)の2種類がある。セパレート型では、日本などの東アジア圏では壁掛型が主流である。一方、欧州では横長長方形の窓型がほとんどである。

さらに米国では、一般家庭であってもダクトを使用して各部屋に冷暖房を行うダクト方式が普及してきたが、日本のエアコンに代表されるダクトレス方式も評価されつつある[13]

能力によって、2.2 kW、2.5 kW、2.8 kW、3.6 kW、4.0 kW、4.5 kW、5.0 kW、5.6 kW、6.3 kW、7.1 kW などがある。使用する電圧も、単相100Vと、単相200Vと、動力の三相200Vがある。通常、エアコン一台に子ブレーカー一個を用意する。なお、日本の家庭用エアコンは窓型、セパレート型とも、2001年より家電リサイクル法の対象となり、廃棄の際に適正な処理が義務付けられた。

動力の三相200Vエアコンは室外ユニットや室内ユニット共外観上一般の100/200V単相エアコンと同じであるが、省令による規制があるため受電方法が異なる。電気設備技術基準(経産省令)の規定では家庭で三相200Vを使用できるのは屋外機器のみとされている[注 1]。そのため動力エアコンは室外電源のみ三相200Vであり室内ユニットの運転および通信制御は別途室内側で受電した単相100/200Vで行われる。従って一部のメーカー(ダイキン工業など室内電源を室外ユニット送り以外で受電不可能な機種)での業務用エアコンを住宅へ設置した場合、電力会社との図面協議で指摘され送電拒否や変更を求められるケースが生じる。

家庭用エアコンは、冷房・暖房・ドライ(除湿)など多様な空気調整が可能な機種が製造・販売の多くを占める。最近はトップランナー方式による省エネ化が進み、内部の改良とも相まって以前のものよりも消費電力が少なくなっている。日本国内で発売されるセパレート型のエアコンはほぼ全てインバータ制御を内蔵した機種になっている(ただし、窓型エアコンについては非インバータのものが大半を占めている)。インバータエアコンは1981年に当時の東京芝浦電気(現・東芝)が世界で初めて発売した[14]。当初は、圧縮機には誘導電動機を用いていたが、1990年代に高効率なブラシレスDCモータを採用してPAM制御により電圧を細かく制御し[15]、現在では、日本で発売される家庭用エアコンに搭載される圧縮機用・ファン用のモータは、ほぼ全てがブラシレスDCモータになっている。日本ではインバータエアコンが主流であるが、世界的に見れば一定速である非インバータエアコンがまだまだ主流である。

また、非インバータエアコンでは商用電源周波数による能力の差があり、50Hz地域では60Hz地域より1 - 2割能力が落ちるが、インバータエアコンではそれがない。そのため、非インバータが主流であった当時のエアコンのカタログは50Hz・60Hz地域で別々に作成していた。現在では、非インバータの窓型エアコンのカタログで、50Hz・60Hzそれぞれの場合の能力が併記されているのが見受けられる。能力の違いは圧縮機に用いる誘導電動機の回転数が電源周波数に依存するためである。なお日本での窓用エアコンでのインバータ採用例は松下電器産業(現・パナソニック)のCW-G18系が空前にして絶後になった。同機種は年毎の僅かなマイナーチェンジのみで20年以上発売され続けた。窓用インバータエアコンは森田電工(現・ユーイング)からも発売されていたが、現在同社はエアコン事業から撤退している。

差別化機能としてマイナスイオンの発生、フィルタの自動清掃、空気清浄機換気加湿赤外線センサによる温度監視、人工知能による解析、HA JEMA標準端子-A、インターネットによるデータ取得など、様々機能が開発されている[16][17]。韓国ではミセモンジ(粒子状物質)対策として空気清浄機能付きが多い[12]

家庭用での暖房では、「すぐに温風がふき出して欲しい」という需要が高い。そのため、外気温が低い場合は、停止中でも機器を予熱をする機能を持つ機種がある。また、冷媒寝込みを防ぐためのヒーターを持つ機種もある。このような機種では冬場の待機電力は多い。省エネと快適性を両立させるため、気象予報などのデータから室温の変化を予測して先回りで制御する機種もある。

また、寒冷地など暖房時に外気温が低すぎる場合は、屋外で燃焼をした熱をヒートポンプする「石油エアコンディショナー」がある。同様にガス[注 2] の火で熱を発生させ、その熱を室内へ送る「ガスエアコンディショナー」もある。寒冷地で、除霜運転が多いことが予想される場合は有効な選択である。なお、家庭用では、冷房にガスや石油の力はあまり使用されていない。過去にパナソニックや東芝なども石油や都市ガス等を使ったエアコンも販売されていたが[注 3]、暖房時におけるエアコン自体の性能向上に伴い、採用されるケースが少なくなった。

窓型エアコンは、「ウインドエアコン」とも呼ばれる。長所は、セパレート型に比べ、小型であり、安く、個人で取り付け(取り外し)ができることである。壁に配管用の穴を開けたり、室内機の固定工事を施す必要が無く、窓さえあれば設置できるため、賃貸物件等でエアコンの設置に制限がある場合にも向いている。短所は、圧縮機を室内側と離隔できないため騒音や振動が大きいこと、装置重量を分散できないため小型のシステムとなり能力は落ちることである。窓用は可搬型のスポットクーラー等との共通性もあるため完全に廃れてはいないものの、平成期以後は比較的家賃が安い物件にもエアコンの固定設置が進んだことで需要が減って量産効果も出にくくなり価格競争力も失われつつある。

ちなみに海外にも日本と同様の壁掛型(欧米では窓型の方が主流)のエアコンが普及しているが、日本のエアコンほど機能面では豊富でなく、シンプルな単機能のものが多い。また欧米では暖房としてセントラルヒーティング暖炉などが住宅に備わっているケースもあるため、「air conditioner」というと冷房専用機を前提に話をしているケースが多々ある。

家庭用のルームエアコンは家電製品であると共に、住宅設備としての一面も併せ持つ。そのため、販路や商習慣の違いによって電器店向けの機種と、住宅設備工事業者向けの機種が用意されている。後者は住宅を新築する際に同時に据え付けるというニーズに対応したものであり、型番やスペック、価格(量販店向けの機種はオープン価格なのに対して、住宅設備向けは希望価格が定められている)で区別される。


注釈

  1. ^ 具体的には電技解釈第162条に、住宅の屋内電路の対地電圧は原則として150V以下にする旨定められている。
  2. ^ 都市ガスもしくはプロパンガスを燃料としている。
  3. ^ 主に都市ガス会社へのOEMが中心である。
  4. ^ エンジン自体はLPGタクシーCNG車と同じだが、排気ガスに関する厳しい規制が無く野放し状態だった。2003年時点では陸用内燃機関としての自主規制により100ppm、東京都における火力発電所の10ppmより一桁甘い規制がなされ、現在はほぼ使用されていない
  5. ^ : F-Gas regulation
  6. ^ 三菱電機や東芝キヤリアからのOEM。

出典

  1. ^ 電気機械器具品質表示規程”. 消費者庁 (2022年4月1日). 2022年10月10日閲覧。
  2. ^ Cooling by Evaporation (Letter to John Lining). Benjamin Franklin, London, June 17, 1758
  3. ^ History of Air Conditioning Source: Jones Jr., Malcolm. "Air Conditioning". Newsweek. Winter 1997 v130 n24-A p42(2). Retrieved 1 January 2007.
  4. ^ : Vivian M. Sherlock
  5. ^ : Puron
  6. ^ 未来遺産にコーラの自販機、クオーツ式腕時計、エアコンなど19件産経新聞』朝刊2018年8月22日(2018年8月22日閲覧)。
  7. ^ JICA国際協力専門員 杉下恒夫「アジアの奇跡はエアコンから」国際協力機構ODAジャーナリストのつぶやきNo.173(2007年8月27日)2018年8月22日閲覧)。
  8. ^ 「エアコン文明」大橋光夫)、『日本経済新聞』夕刊2013年7月30日(2018年9月2日閲覧)。
  9. ^ 記録的猛暑続く欧州、エアコン普及率5%未満”. CNN (2019年7月26日). 2019年7月26日閲覧。
  10. ^ 日本放送協会. “ヨーロッパで記録的な暑さ続く 市民生活への影響広がる | NHK”. NHKニュース. 2022年7月19日閲覧。
  11. ^ R744.com - FAQ
  12. ^ a b c 韓国のエアコン事情|一般社団法人日本エアコンクリーニング協会”. エアコンクリーニング依頼、研修、講習・一般社団法人日本エアコンクリーニング協会. 2023年10月3日閲覧。
  13. ^ 日本標準のダクトレス型エアコンが米国でも普及へ 投信1(2017年7月29日)2017年8月2日閲覧
  14. ^ 2019年度登録 「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」世界初の家庭用インバータ・エアコン”. 国立科学博物館. 2020年4月15日閲覧。
  15. ^ 2019年度登録 「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」世界初のPAM制御インバータ家庭用エアコン”. 国立科学博物館. 2020年4月15日閲覧。
  16. ^ a b 株式会社インプレス (2019年8月28日). “世界初、人工衛星に搭載された赤外線センサー活用のエアコン「霧ヶ峰」 ~スマホで部屋の熱画像も”. 家電 Watch. 2023年10月3日閲覧。
  17. ^ a b c d 株式会社インプレス (2019年11月26日). “シャープ、空気清浄機の最上位機と同じ清浄能力を備えたルームエアコン”. 家電 Watch. 2023年1月28日閲覧。
  18. ^ electricitysaving-winter”. www.daikin.co.jp. 2023年1月28日閲覧。
  19. ^ 圧縮機とは?-ダイキン工業
  20. ^ <参考資料>第5回『ダイキン 空気のお悩み調査隊がゆく!』エアコンをつけっぱなしにするのとこまめに入り切りするのでは、どちらの電気代が安くなるの?『ダイキン工業株式会社』2016年8月12日
  21. ^ a b 日本経済新聞社・日経BP社. “「エアコンは電気代が高い」のウソとホント|MONO TRENDY|NIKKEI STYLE”. NIKKEI STYLE. 2020年8月20日閲覧。
  22. ^ エアコン選び 「余裕持って大きめ」は間違い”. 日本経済新聞 電子版. 2020年8月20日閲覧。
  23. ^ 低い断熱性、なぜ放置 「窓」後進国ニッポン”. 日本経済新聞 電子版. 2020年8月20日閲覧。
  24. ^ 「窓を断熱する」と、電気代はどのくらい安くなるの?気になるお値段は… | Sumai 日刊住まい”. Sumai 日刊住まい (2016年7月12日). 2020年8月20日閲覧。
  25. ^ エアコンに「換気」機能搭載進む 給排気の訴求強化 別売りユニット開発のメーカーも”. 電波新聞デジタル (2022年12月21日). 2023年1月28日閲覧。
  26. ^ (日本語) 【原発】「屋内退避」が発令されたらどうすれば・・・(11/03/18), https://www.youtube.com/watch?v=cYpYSLYd_1w 2023年1月28日閲覧。 
  27. ^ 梅雨の季節…どうするエアコンのカビ対策「家庭でも掃除は可能です」産経ニュース(2018年6月28日)2018年9月2日閲覧。
  28. ^ “カナダ・ケベックシティの在郷軍人病、死者12人に”. AFPBB News (フランス通信社). (2012年9月12日). https://www.afpbb.com/articles/-/2900438?pid=9507295 2012年10月6日閲覧。 
  29. ^ a b ダイキンの寒冷地エアコン ポータルサイト|ダイキン工業株式会社”. ダイキンの寒冷地エアコン ポータルサイト|ダイキン工業株式会社. 2020年12月24日閲覧。
  30. ^ 大雪の困りごとと解決法 | 空気の困りごとラボ | ダイキン工業株式会社”. www.daikin.co.jp. 2020年12月24日閲覧。






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