鉄分の過剰
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 03:41 UTC 版)
一方で、過剰な鉄の摂取は生体にとって有害である。ヒトでは食生活の問題による鉄の蓄積(バンツー血鉄症など)や、度重なる輸血による鉄の蓄積などが知られている。自由な鉄原子は過酸化物と反応しフリーラジカルを生成し、これがDNAやタンパク質、および脂質を破壊するためである。細胞中で鉄を束縛するトランスフェリンの量を超えて鉄を摂取すると、これによって自由な鉄原子が生じ、鉄中毒となる。余剰の鉄はフェリチンやヘモジデリンにも貯蔵隔離される。過剰の鉄はこれらのタンパク質に結合していない自由鉄を生じる。自由鉄がフェントン反応を介してヒドロキシラジカルなどの活性酸素を発生させる。発生した活性酸素は細胞のタンパク質やDNAを損傷させる。活性酸素が各臓器を攻撃し、肝臓には肝炎、肝硬変、肝臓がんを、膵臓には糖尿病、膵臓癌を、心臓には心不全を引き起こす。脂肪肝においては、血清フェリチンの増加がしばしばみられ、脂肪肝の中でも非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含んだ非アルコール性脂肪性肝疾患では、肝組織内の鉄の過剰が肝障害の増悪因子と考えられている。ヒトの体には鉄を排出する効率的なメカニズムがなく、粘膜や粘液に含まれる1–2 mg/日程度の少量の鉄が排出されるだけであるため、ヒトが吸収できる鉄の量は1–2 mg/日程度と非常に少ない。しかし血中の鉄分が一定限度を超えると、鉄の吸収をコントロールしている消化器官の細胞が破壊される。このため、高濃度の鉄が蓄積すると、ヒトの心臓や肝臓に恒久的な損傷が及ぶことがあり、致死性の中毒症状を発症する。 詳細は「鉄中毒」および「鉄過剰症」を参照
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