規則活用動詞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/29 02:24 UTC 版)
与那国語の動詞の基本的な構造は、次の表で表される。このうち0と5の要素のみが必須であり、態・極性・相・時制により間に1 - 4が挿入される。5の命令・禁止・勧告・中止の接辞は、3・4に接続することはない。 与那国語の動詞の構造012345語根 使役-(a)mir- 受身-arir- 否定-anu-完了-(j)a-/-(j)u- 現在∅/-u-過去-(i)ta- 直接-N連体-∅/-ru 過去-(i)ta- 状況-uba/-iba条件-ja ∅ ∅ 命令-i禁止-(u)Nna勧告-(i)NdaNgi中止-i 与那国語の動詞の語形変化は、日琉語族の中でおそらく最も複雑なシステムを持っている。動詞語根と接辞の両方に、複数の異形態があり、その組み合わせパターンから動詞は15種のクラスに分けられる。 ある動詞の命令形と完了形の二つを見れば、音韻環境によって動詞クラスを機械的に特定できる。与那国語の動詞はグループ>小グループ>クラスの三段階に分けられ、命令形を見ることで小グループまで特定できる(ただし命令形語根が母音語根の場合を除く)。次いで完了形を見ればクラスが特定でき、これで他の活用形も正しく導き出すことができる。なお命令形の接辞は-iであり、ただ一通りしかない。従って、例えば命令形がkagiとあれば必ずkag-iと分解できる。 与那国語の動詞クラス Cグループ:命令形語根がr以外の子音で終わるもの。K小グループ:命令形語根がk,g,ŋで終わるもの。K/YAクラス:命令形語根がk,gで終わり、完了形にjaを取るもの。 ŋ/YAクラス:命令形語根がŋで終わり、完了形にjaを取るもの。 K/Uクラス:完了形がuを取るもの。 C小グループ:それ以外。C/YAクラス:この小グループは全てこのクラスになる。完了形はjaのみである。 Rグループ:命令形語根がrで終わるもの。VR小グループ:命令形語根がarまたはurで終わるもの。AR/Aクラス:命令形語根がarで終わるもの。完了形はaのみである。 UR/Uクラス:命令形語根がurで終わり、完了形にuを取るもの。 UR/WAクラス:命令形語根がurで終わり、完了形にaを取るもの。 IR小グループ:命令形語根がirで終わるもの。IR/Uクラス:完了形にuを取るもの。 IR/YAクラス:完了形にjaを取るもの。 IR/YUクラス:完了形にjuを取るもの。 UIR/WAクラス:命令形語根がuirで終わり、完了形にaを取るもの。 Vグループ:命令形語根が母音で終わるもの。*このグループのみ、小グループの特定に完了形または中止形の情報が必要。VS小グループ:完了形および中止形の語根がsで終わる。この小グループの完了形は常にjaになる。AS/YAクラス:命令形語根がaで終わり、完了形にjaを取るもの。 US/YAクラス:命令形語根がuで終わり、完了形にjaを取るもの。 V小グループ:それ以外。A/Aクラス:命令形語根がaで終わり、完了形にaを取るもの。 U/WAクラス:命令形語根がuで終わり、完了形にaを取るもの。 それぞれの小グループに入る動詞には、例えば以下のものがある。 1.1.K小グループ:sunk-u-N(引く)、sag-u-N(裂く)、haŋ-u-N(配る)。 1.2.C小グループ:tat-u-N(立つ)、niNd-u-N(眠る)、kaNd-u-N(被る)、Nd-u-N(言う)、Nn-u-N(見る)、tub-u-N(飛ぶ)、dum-u-N(読む)、c-u-N(着る)、c-u-N(切る)。 2.1.VR小グループ:Ngar-u-N(濡れる)、hudur-u-N(成長する)、kʔur-u-N(作る)。 2.2.IR小グループ:bacir-u-N(忘れる)、kir-u-N(する)、hir-u-N(行く)、ubuir-u-N(覚える)、ugir-u-N(起きる)、aŋir-u-N(上げる)、tir-u-N(照る)、utir-u-N(落ちる)、nadir-u-N(撫でる)、Nnir-u-N(死ぬ)、abir-u-N(呼ぶ)、irir-u-N(入れる)。 3.1.VS小グループ:maga-N(炊く)、karaga-N(乾かす)、kja-N(消す)、Nna-N(死なす)、ugu-N(起こす)、hu-N(干す)、Nbu-N(蒸す)、kuru-N(殺す) 3.2.V小グループ・Aクラス:hu-N(食べる)、ku-N(買う)、kʔu-N(使う)、baːru-N(笑う) 3.2.V小グループ・Uクラス:dugu-N(休む)、u-N(追う)、umu-N(思う) このうちいくつかのクラスについて、主な接辞が接続した場合の語形を示したものが以下である。 クラス語例使役否定条件現在・直接(終止)命令状況禁止過去完了C/YA立つtatamiruN tatanuN tatja tatuN tati tatuba tatuNna tatitaN tatjaN K/U咲くsagamiruN saganuN sagja saguN sagi saguba saguNna satitaN satuN AR/A濡れるNgaramiruN NgaranuN Ngarja NgaruN Ngari Ngaruba NgaNna NgataN NgaN IR/U忘れるbacimiruN baciranuN bacirja baciruN baciri baciruba baciNna bacitaN bacuN AS/YA炊くmagamiruN maganuN magaN magai magaiba magaNna magataN magasjaN US/YA干すhwamiruN hwanuN huN hui huiba huNna hutaN husjaN A/A食べるhamiruN hanuN huN hai haiba huNna hataN haN U/WA休むdugamiruN duganuN duguN dugui duguiba duguNna dugutaN dugwaN Cクラスの「立つ」の場合は、1種類の語根tat-が抽出できるが、Kクラス「咲く」の場合は語根がsag-とsat-の2種類ある。ARクラスの「濡れる」ではNgarとNgaの2種類ある。このように与那国語の動詞語根には複数の異形態がある。 与那国語で異形態を持つ動詞接尾辞には、使役-(a)mir-、非過去-u-/-∅-、過去-(i)ta-、状況(-すれば)-uba/-iba、禁止-(u)Nna、連体-ru/-∅、完了-(j)a-/-(j)u-がある。このうち連体形は一部の変格活用をする動詞、形容詞、及び完了形と過去形にのみ-ruを使い、それ以外の場合は終止形から-Nを取った形を使う。完了形で-a-系を使うか-u-系を使うかはほとんどの場合で意味によって決まり、主語が動作主の場合はa系を、そうでない場合はu系を使う。。それ以外の接辞をどのように選択するかは活用クラスによって決まっている。 以下に、クラスごとの語根と接辞の組み合わせを表にする。ただし完了形だけが異なるクラスについては同じ行にし、完了形の列のみ/で分けて示した。語根末の列にある「C」は任意の子音を表す。なお、与那国語では以下の音素配列規則があるため、表中の※印箇所ではこの規則が適用される。例えばAクラスのhu-N(食べる)の完了形//ha-a-N//は、音素配列規則3により実際には/haN/となる。UIRクラスのubuir-u-N(覚える)の使役形//ubui-amir-u-N//は、規則1によりubuamiruNとなったものにさらに規則2が適用されて/ubwamiruN/となる。 音素配列規則 母音またはjの前のiが削除される。(ij→j、ii→i、ia→a、iu→u) aの前のuがwに置換される。(ua→wa) 同じ母音が連続するときは一方が削除される。(aa→a、ii→i、uu→u) 与那国語の活用体系(動詞語根と接辞の組み合わせ)グループクラス語根末接辞志向使役否定受身条件命令3終止連体命令状況命令2禁止過去中止終止2完了CCC-C--uː -amir- -anu- -arir- -ja -jaː -u-N -u -i -uba -uNna -ita- -i -i -ja- KK-k/kʔ/g--uː -amir- -anu- -arir- -ja -jaː -u-N -u -i -uba -uNna -t- -ita- -i -i -ja-/-u- ŋ-ŋ--uː -amir- -anu- -arir- -ja -jaː -u-N -u -i -uba -uNna -d- -ita- -i -i -ja- RVRAR-ar--uː -amir- -anu- -arir- -ja -jaː -u-N -u -i -uba -a- -Nna -ta- -i -i -a- ※3 UR-ur--uː -amir- -anu- -arir- -ja -jaː -u-N -u -i -uba -u- -Nna -ta- -i -i -a- ※2/-u- ※3 IRIR-ir--uː -anu- -arir- -ja -jaː -u-N -u -i -uba -i -mir- -Nna -ta- -i ※3 -i ※3 -ja- ※1/-u- ※1/-ju- ※1 UIR-uir-不明 -anu- -arir- -ja 不明 -u-N -u -i -uba 不明 -ui--amir-※1、2 -Nna -ta- -i ※3 -a- ※1、2 VVSAS-Ca--ː -amir-※3 -anu-※3 -arir-※3 -∅-N -∅ -i -iba -iba -Nna -ta- -Cas- -i -i -ja- -C- -jaː -uba US-u--ː -amir-※2 -anu-※2 -arir-※2 -∅-N -∅ -i -iba -iba -Nna -ta- -us- -i -i -ja- VA-a- -amir-※3 -anu-※3 -arir-※3 -i -iba -iba -ta- -i -i -a- ※3 -u--ː -∅-N -∅ -Nna U-C--uː -amir- -anu- -arir- -Cu- -∅-N -∅ -i -iba -iba -Nna -ta- -i -i -a- ※2 グループクラス語根末志向使役否定受身条件命令3終止連体命令状況命令2禁止過去中止終止2完了接辞※1 - 3については上記「音素配列規則」を参照。 現在形(終止形から-Nを除いた形)に付く接辞には、-na(Yes/No疑問)、-Nga(疑問詞疑問)、-Ndi(引用)、-Nsu(名詞化)等がある。連体形に付く接辞には、-ka(間接疑問)、-hadi(推測)等がある。中止形に付く接辞に、-ti(継起)、-bi(理由)、-datana(同時)、-busa-N(願望)、-war-u-N(尊敬)、-bu-N(非完結相)等がある。
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