猹(チャー)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 07:26 UTC 版)
本作中には「猹」(チャー、chá)という動物が登場する。「猹」は閏土の話の中にのみ現れ、その正体は不明である。1932年に最初期の日本語翻訳を行った佐藤春夫は「空想上の獣」「作者の造字」と注を付して猹を説明し、井上紅梅は「土竜」と訳した。一般的には下記のようなやりとりがあったことを踏まえて「アナグマのような動物」と解釈されている。 この動物の正体は、本作が世に知られ、外国語に翻訳されていく過程で注目されることとなった。さまざまな問い合わせに対して魯迅は、地元での呼称を表現するために「猹」という漢字を造ったこと、魯迅自身も話に聞いただけで「猹」を見てはいないこと、おそらくアナグマのようなものであることを答えている。 北京大学でロシア語を教授していたポレヴォイは、1927年に『故郷』の翻訳を行った際に「猹」が動物学の書籍に掲載されていないことに困惑し、翻訳家の章衣萍を通して「猹」とは何かを魯迅に問い合わせた。魯迅は「猹」が造字であること、「アナグマのようなもの(獾一類的東西)」と回答している。 総合辞典『辞海』の編纂主任舒新城(中国語版)は、魯迅に「猹」とは何かを問い合わせた。1929年5月4日付の舒新城宛の手紙で魯迅は、「「猹」という文字は郷里の人々の発音に合わせて作ったものであり、「査」と発音する。自分も結局これがどのような動物なのかはわからない。閏土(のモデルである章閏水(中国語版))が話したものであるが、他の人もこれを知らない。今思えば、多分アナグマだろう(現在想起來, 也許是獾罷)」と書いている。 舒新城は「猹」が魯迅の造字であると知り、1936年に発行された『辞海』には「猹」を収録しなかった。中華人民共和国の建国後、魯迅の評価が高まると「猹」も辞典類に収録されるようになったが、「瓜を好むアナグマに似た動物」というその説明は『故郷』に基づいている。 『故郷』は、中国においても語文科教科書(语文は日本の「国語科」に相当する)に「少年閏土」(少年闰土)として抜粋が収録されているため、猹への関心は高い。魯迅自身がよくわからないと述べている「猹」については、ハリネズミ(刺猬)であるとか、皖南(安徽省南部)方言で「蛇」であるとか、キバノロ(獐)であろうといった説も出された。 2020年5月、浙江省林業局は、目撃例が約20年途絶えていた貴重な野生のアジアアナグマ(英語版) (Meles leucurus, 中国名: 亚洲狗獾) が初めて映像で捉えられたというニュースリリースで、『故郷』の「猹」はアジアアナグマである(また李時珍の『本草綱目』に記載された「貆」もアジアアナグマである)と付け加えた。中国メディアでは「魯迅が書いた猹が現れた」と話題になった。 これに対し、中国科学技術協会の科学普及サイト「科普中国网」は、公式サイトで「猹」と現実のアナグマを混同しないよう声明を出した。紹興魯迅記念館館長や中国魯迅研究会の理事を務めた裘士雄は、2020年5月の取材に対して、たとえアナグマをモデルにしたとしても「猹」はあくまで芸術的な創作物である、「猹」を現実の何らかの動物と結びつけようとすることは誤りであると述べている。
※この「猹(チャー)」の解説は、「故郷 (魯迅)」の解説の一部です。
「猹(チャー)」を含む「故郷 (魯迅)」の記事については、「故郷 (魯迅)」の概要を参照ください。
猹
- 猹のページへのリンク