照準方式、照準器
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 01:50 UTC 版)
「九六式二十五粍機銃」の記事における「照準方式、照準器」の解説
九六式二十五粍機銃の照準には、銃座についた機銃員が機銃の照準器を操作して敵航空機に狙いを付ける「銃側照準」と、別個に設けられた機銃射撃指揮装置を用い、3基から4基の二十五粍機銃を遠隔操作して敵航空機に火力を集中する「従動照準」が存在した。この従動照準方式は九五式射撃指揮装置によって行われた。射撃指揮装置はワード・レオナード方式により各機銃を遠隔操作し、同期装置としてセルシンモーターを組み込むことで機械的誤差を除去している。ワード・レオナード方式では指揮装置に電動機と直流発電機を直結したセットを用意し、機銃側にも同様のセットを設け、ケーブルで両者を接続する。さらに指揮装置側の発電機と、機銃側の直流電動機の界磁巻線に電流を流せるよう電源と界磁調整器が設けられている。指揮装置側の電動機を定回転させ発電機の界磁に電流を通じると、発電機から出力される電圧も電流に応じて方向と電圧が増減する。同じく機銃側の電動機の界磁に一定方向の電流を通じておき、指揮装置側からの電圧を通じると、その方向と電圧に応じて機銃側の電動機が回転数と回転方向を変えさせることができる。従動射撃照準機構の開発は呉海軍工廠電気部で行われ、製造は富士電機製造株式会社が担当した。採用は1936年(昭和11年)である。 従動照準用の九五式射撃指揮装置は射手がハンドルで操作した。ハンドルを下に押せば照準望遠鏡が上向き、持ち上げると望遠鏡は下を向く。ハンドルを左右させると指揮装置が架台ごと左右旋回した。またこれと同期して管制下の全ての機銃が自動的に旋回し、俯仰した。九五式射撃指揮装置には、機械式にリード角を計算するLPR照準器が組み込まれており、照尺手が敵機の方向と射距離を観測してLPR照準器を作動させ、指揮装置に入力した。このLPR照準器は銃側照準用として、単装を除き、二十五粍機銃本体にも取り付けられていた。 LPR照準器とはルプリエール(Le Prieur)の略で、ホチキス社が開発した照準器である。微積分を用いず、対数を利用したカム式計算装置によって簡易に敵機に対するリード角を算出した。敵機の速度である的速、射距離を手輪(ハンドル)で入力し、敵機が飛行する方向へ的針矢を合わせれば、照準線(敵機に対する射手望遠鏡での狙い)と銃身(実際の射線)の方向が決定され、リード角(見越苗頭)が調定された。この照準器は一時期、機銃射撃の問題を解決したとまで評価を受けたが、実際には大きな問題があった。まず機械式計算機に入力する諸元は観測員の目測によるため誤差が大きかった。また実戦での敵機は大きく方向と速度を変え、これに対応して諸元を調定するたびに照準線が動かされた。さらにその照準線を目標に向け直してようやく射線にリード角がかかった。これらから常に照準線が動かされ、敵機に正確な照準を合わせることが難しかった。さらにLPR照準器は工数の多い機械で、製造に時間がかかり、要求生産数に間に合わなくなった。 このようなことから銃側照準用として新しく簡易な環型照準器が作られた。従来のものは射手の手前に球状の照門を置き、奥に大型の照星環を配していたが、敵機が照星に隠れる不具合があった。そこで球状の照門が小型の円環に変えられた。戦艦、巡洋艦、空母などの大型艦艇では従動射撃を行える装備を施したが、駆逐艦以下の小艦艇では銃側照準に頼るケースが多かった。単装機銃の照準器は環型照準器のみであるが、艦に向かって突入する敵機に対しては見越し角をつける必要が薄く、連装・三連装よりも旋回や俯仰の早い単装機銃は好まれた。
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