極寒地での冷間始動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/05 15:26 UTC 版)
冬場の気温が氷点下30度以下にも達する北欧やロシア、中国東北部やカナダなどの国の自動車や、或いは氷点下60度をも超える南極で運用される雪上車では、冷間始動をスムーズに行うためにブロックヒーター(英語版)と呼ばれるカーヒーターをエンジンの冷却水経路に組み込んで、エンジンを停めている間はこのヒーターに通電しておく事が一般的である。極寒地では不凍液入りの冷却水はおろか、(特に低質な鉱物油の場合)エンジンオイルすらも凍り付いてクランクシャフトが回らなくなってしまう事があり得るからである。同時に、バッテリーヒーターと呼ばれる電熱器で鉛蓄電池を予熱する事も行われる。氷点下18度で鉛蓄電池は常温の40%まで始動能力が低下する為である。ディーゼルエンジンの場合は軽油の凍結にも注意する必要があり、日本国内では冬の東北や北海道へ赴く際には寒冷地仕様の軽油であるJIS3号(凍結温度-20度)又は特3号(同-30度)の給油を行う必要がある。 ブロックヒーターはカナダ人のアンドリュー・フリーマン(英語版)により、1940年に鋼管の廃材と電熱線を使った簡易な予熱装置として発明され、後述の冷間始動前の予備作業が必要無くなるとして好評を得て、彼の周囲の市民を中心に細々とした販売を行なっていた。その後フリーマンは1947年にシリンダーヘッドボルトを取り換える形で装備できるヘッドボルトヒーターの試作品を完成させ、1949年には米国特許を取得して彼が興した会社から市販が開始された。ヘッドボルトヒーターはシリンダーブロックを直接予熱するものであったが、現在はシリンダーブロックの冷却水経路に繋がるコアプラグを外して取り付けるものや、エンジンとラジエーターの間のホースに割り込ませる形で取り付ける形状のものが主流である。このような電熱器を用いた予熱機器が市販される以前は、カナダでは自動車(フォード・モデルA (1927-31年)(英語版))に乗った後はエンジンオイルを抜いて夜間は暖炉の利いた室内へ保管し、翌日の午前中にエンジンへ再び注ぐ。更に始動前には暖炉の焼けた石炭をエンジンの下に敷き、インテークマニホールドに熱湯を掛けるなどの作業が必須という状況であった。 同時期の大日本帝國、特に満洲国ではハクキンカイロが内燃機関の予熱に用いられた。ハクキンカイロの発熱作用は燃焼とは異なるプラチナと石油の触媒反応の為、原理上は揮発油を用いる内燃機関でも気化した燃料に引火する危険性は低く、予熱にも利用ができる。実際に戦前に満州に駐留する日本陸軍が使用していた国産軍用トラックは、氷点下30度にも達する冬の朝はオイルパンの下に練炭コンロを置き、キャブレターにハクキンカイロを括り付けてエンジンの予熱を行う必要があった。一方で、同時期のフォードやシボレーのトラックはそのような作業を行わなくても始動が出来たともいわれる。
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