帰納法による定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/15 10:26 UTC 版)
この一連の定義は再帰的であり、形式や数といった対象の成す宇宙を定めるためにはある種の数学的帰納法が必要になる。「有限な帰納法」を通じて到達できる超現実数は二進分数(英語版)(二進有理数)に限られるから、より広い宇宙へ到達するには何らかの形での超限帰納法を与えなければならない。 帰納規則 初期条件: 第零世代 S0 = {0} はただ一つの形式 { | } のみからなる 0 だけを含む集合とする。 帰納ステップ: 任意の順序数 n に対し、第 n-世代 Sn は、それより前の世代全ての合併 ⋃ i < n S i {\textstyle \bigcup _{i<n}S_{i}} から構成規則によって生成されるすべての超現実数からなる集合である。 初期条件は実際には(添字の 0 を最小の順序数とみなして)帰納ステップの特別な場合と見ることもできる。これは、i < 0 を満たす Si は存在しないから、そのようなものの合併 ⋃ i < n S i {\textstyle \bigcup _{i<n}S_{i}} もまた空であり、空集合の部分集合は空集合しかないから、したがって S0 は左右ともに空なただ一つの形式 { | } のみが属する同値類 0 のみからなる。 任意の有限順序数 n に対して Sn は、超現実数の比較規則によって誘導される順序に関して整列順序付けられる。 帰納規則を一回施すと、三種類の数形式が得られ、大きさ順にすると { | 0} < { | } < {0 | } と書ける(形式 {0 | 0} も出てくるがこれは数的でない: 0 ≤ 0)。これらの属する同値類に対し、{0 | } を含むものには 1 を { | 0} を含むものには −1 をラベルとして割り当てる。この三種にこのようなラベル付けをすることは、環の公理を満たすことを確認するうえで特別に重要である(これらはちょうど、加法単位元 0, 乗法単位元 1 および 1 の加法逆元 −1 を表すものとして、後で定義する超現実数の四則演算と整合する)。 任意の i < n に対して、Si で有効な任意の形式は Sn においても有効であるから、Si に属する任意の数は Sn にも(Si におけるそれらの数の表現の上位集合として)現れる(帰納ステップにおいて、Sn は一つ前の Sn−1 からではなく、それより前のすべての合併という形で構成されているから、この帰納的定義は n が極限順序数であるときにも意味を為すことに注意する)。Sn に属する数のうち、Si に属する適当な数の上位集合となっているようなものは、第 i-世代から「遺伝した」と言う。与えられた超現実数に対し、それが属する Sα の中で最小となる α のことを、その超現実数の誕生日と呼ぶ。例えば 0 の誕生日は 0 であり、−1 の誕生日は 1 である。 帰納ステップの繰り返し二回目では、以下のように順序付けられた同値類が得られる: { | −1} = { | −1, 0} = { | −1, 1} = { | −1, 0, 1} < { | 0} = { | 0, 1} < {−1 | 0} = {−1 | 0, 1} < { | } = {−1 | } = { | 1} = {−1 | 1} < {0 | 1} = {−1, 0 | 1} < {0 | } = {−1, 0 | } < {1 | } = {0, 1 | } = {−1, 1 | } = {−1, 0, 1 | } これら同値類の大小比較が、それを代表する形式の選び方に依らず無矛盾であることに注意せよ。三つほどわかることがある: 第二世代 S2 で新たに加わった超現実数は四つあり、その中に極端なものが二つある。ひとつは { | −1, 0, 1} で右集合に前世代の数をすべて含み、いまひとつの {−1, 0, 1 | } は左集合に前世代をすべて含む。残りの二つは、前世代を二つの空でない集合に分割する形になっている。 前世代に存在したすべての超現実数 x が全てこの世代にもあり、それぞれに対してそれを表す新たな形式を少なくとも一つ持っている。それは前世代の x 以外のすべての数を、x より小さい数は左集合に、x より大きい数は右集合にそれぞれ入れた分割の形をしている。 一つの超現実数の同値類は、左集合の極大元と右集合の極小元のみに依存して決まる。 略式的には {1 | } および { | −1} はそれぞれ "1 の直後の数" および "−1 の直前の数" と解釈できる。それら同値類には 2 および −2 のラベルを付ける。同様に略式的には {0 | 1} および {−1 | 0} はそれぞれ "0 と 1 の中間の数" および "−1 と 0 の中間の数" と解釈できるので、それら同値類には ½ および −½ とラベルを付ける。これらのラベルも後で述べる超現実数の加法および乗法に関する規則で正当化される。 帰納法の各第 n-世代における同値類は、その左集合と右集合に直前の世代の元を可能な限り多く含む n-完全形式 (n-complete forms) によって特徴付けることができる。これら完全形式は、直前世代のすべての数をその左集合または右集合のいずれか一方だけにもつ(例えば第一世代はこのような数だけが生じる)か、さもなくば直前世代の数をただ一つを除いて全て含む(この場合、その完全形式は、この除かれたただ一つの数を表す新たな形式を与えていることになる)。さて、前世代の数には既に与えたラベルをそのままつけるものとして、新たにつけたラベルとともに大小関係に従って並べれば、第二世代は − 2 < − 1 < − 1 2 < 0 < 1 2 < 1 < 2 {\displaystyle -2<-1<-{1 \over 2}<0<{1 \over 2}<1<2} となる。 三番目の観察は、有限な左集合および右集合を持つ任意の超現実数に対して拡張できる(無限集合は極小元や極大元をもたないかもしれないから、左集合または右集合が無限集合である場合には修正が必要である)。だから例えば、形式 {1, 2 | 5, 8} の表す超現実数は {2 | 5} が表すものと同じである。第三世代における形式に関して同様のことを見るには、帰納規則の系として得られる「誕生日性質」(birthday property) が利用できる: 誕生日性質 第 n-世代において生じる形式 x = {L | R} がそれより前の世代 i < n から遺伝するための必要十分条件は、Si の適当な元をとれば、それが L の任意の元より大きく、かつ R の任意の元より小さくできることである(言葉を換えて言えば、L と R が以前の段階で既知となっている数によって既に隔たれているならば、x は新たな数を表すものではなく、既に得られた数である)。x が n より前の任意の世代から来る数を表すとき、そのような世代 i に最小値(つまり x の誕生日)が存在して、その最小値を実現する数 c が L と R の間にただ一つ存在する。x はこの c を含む形式(つまり、Sn において c の属する同値類)として第 i-世代における c の表現を部分集合として含む。
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