周術期の循環管理に影響する術前常用薬の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/27 01:39 UTC 版)
「周術期管理」の記事における「周術期の循環管理に影響する術前常用薬の特徴」の解説
1)降圧薬 代表的な降圧薬として、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)やアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と、カルシウム拮抗薬がある。前者は長時間作用性が多く、麻酔導入に伴う低血圧に対する昇圧操作に抵抗を示すので中止することが多い。一方、カルシウム拮抗薬は、中止によって冠動脈の痙攣をきたしやすいため続行することが多い。 2)β遮断薬 β遮断薬を突然中止した場合、投与中止後24~36時間で交感神経の活動が活性化され、高血圧、頻脈、心筋虚血・梗塞のリスクが上昇するとされ、投与を継続することが多い。一報、β遮断薬の効果が持続していると、脈拍増加が必要な場面でも自律調節が抑制され、また、アトロピン投与など人為的調節に抵抗する。麻酔の深度を脈拍や血圧で判定していると、危機的状況を見誤ることもあるので、麻酔薬をより慎重に滴定して使用する必要がある。 3)抗甲状腺薬 甲状腺ホルモンが低濃度であると、カテコラミンの効果が低くなる。甲状腺機能低下症では、十分に補充療法を行った状態で手術に臨むべきである。一方、甲状腺ホルモンが急激に放出されると、安静にしていても交感神経亢進時の循環動態を示す。充分に甲状腺の機能を抑制した状態にしておくべきである。 4)向精神薬・抗不安薬 特に留意が必要なのは、α受容体遮断作用をもつ向精神薬を投与されている症例で、アドレナリンを必要とした状況に陥った場合、β受容体刺激作用が前面に出て血圧低下をきたすので、バゾプレシンを第一選択とする。 5)抗てんかん薬 抗てんかん薬には、鎮静作用をもったものも多く、麻酔薬との相加・相乗作用を念頭に置く。また、抗てんかん薬の代謝酵素が筋弛緩薬と相互作用をもつことがある。これも、代謝酵素が筋弛緩薬の代謝を亢進する場合と、筋弛緩薬への抵抗性が低下した場合が考えられるので、この点を念頭において、滴定して使用する。漫然と使用すると、思わぬ体動や覚醒遅延をきたす。 6)鎮痛薬 麻酔薬は鎮痛薬であるから、術前から鎮痛薬を投与されている症例では、その相互作用に留意しなくてはならない。向精神薬や抗不安薬、抗てんかん薬と同様に、すでに投与された鎮痛薬が、血中に残存していることを前提にした場合は麻酔薬を少なくするが、鎮痛薬に抵抗性が生じた症例では、麻酔薬は通常より多量に必要となる。これも適切な滴定が必要である。特に、麻酔に麻薬を使用する場合、術前に拮抗性麻薬が投与されていると、多量の麻薬を必要とすることがある。同様の機序で、緩和医療で副作用を避けるために麻薬を拮抗性麻薬に変更する際、術前の鎮痛薬が急激に拮抗されて激しい痛みが生じる可能性がある。術後鎮痛でも、術中に麻薬を使用し、術後に拮抗性麻薬を投与すれば同様のことが生じるが、拮抗性麻薬には鎮静作用もあるため、痛みの訴えが抑制される。これを鎮痛作用の発現と見誤ると苦痛を見逃し得る。 7)PDE5 阻害薬 PDE5 阻害薬[ シルデナフィルクエン酸塩(バイアグラ)] は元来、冠血流を改善する目的で開発された薬剤であるため、これを内服した症例に冠血管拡張薬を使用すると、相乗作用により、通常より過度に血圧が低下する。 8)漢方薬 一般に漢方薬やハーブは副作用がないといわれるが、代表的な生薬である甘草によって低カリウム血症性の高血圧症や浮腫が生じることがあり、漢方薬の内服と偽アルドステロン症の関係が念頭になければ対応を誤る。
※この「周術期の循環管理に影響する術前常用薬の特徴」の解説は、「周術期管理」の解説の一部です。
「周術期の循環管理に影響する術前常用薬の特徴」を含む「周術期管理」の記事については、「周術期管理」の概要を参照ください。
- 周術期の循環管理に影響する術前常用薬の特徴のページへのリンク