SR-71 (航空機)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/29 03:08 UTC 版)
概要
SR-71は1950年代に開発された偵察機A-12を改良したもの。U-2偵察機の後継として設計・開発された。高高度での亜音速巡航中に地対空ミサイルを被弾したU-2撃墜事件を受けて、高高度でM3級の超音速飛行を行うことでミサイル迎撃を回避することを目標とした。タンデム複座の前席にパイロット、後席にRSO(Reconnaissance Systems Officer、偵察システム士官)が搭乗し、高空からの写真偵察を行う。
SR-71は超高速飛行に特化した従来にない特異な外見と内部構成により高高度での超音速巡航飛行を実現したが、飛行に際しては高度な技術、敵地上空を飛行するリスクと膨大な費用を要するため、偵察衛星技術(精度)の向上により1989年の退役決定後、全機が退役した。
その後湾岸戦争において、迅速な情報収集には偵察衛星では足りなかったことや、北朝鮮による核査察拒否問題が起こったことなどからSR-71復活配備計画が持ち上がり、1995年には3機のSR-71を復活配備するための予算が計上され、1996年に新SR-71部隊を編成し1997年には即応体制完了を発表した。しかし1998年に当時のビル・クリントン大統領によって拒否権が発動され、復活配備されたSR-71は計画通りの3機が揃うことも (配備が完了したのは2機) 実際に運用されることもないまま再度退役している。同じく1998年にNASAで試験機として運用されていたSR-71も退役したが、モスボール状態で保管された一部の機体の再配備の可能性もある。
命名
当時CIAが開発した偵察機であるA-12の潜在能力に気付いた空軍は、1962年12月その派生機開発を依頼し[1]、ロッキードによってR-12と命名された。後にRS-71と正式に命名されるが、これはB-70からの連番によるものである。爆撃機仕様のB-70の開発段階において偵察爆撃(reconnaissance strike)機としての計画が提案され、RS-70の命名が与えられたため、本機にはその次の番号が与えられた。なお空軍はA-12の戦闘機仕様の開発を依頼し、こちらはYF-12と元となった機体と同じ番号が付与されている。
1964年7月、大統領リンドン・B・ジョンソンは空軍が開発中の最新鋭偵察機の存在を公表することになったが、偵察爆撃ではなく戦略偵察(strategic reconnaissance)の命名を好んだ空軍参謀総長カーチス・ルメイによって、この大統領発表の直前にRS-71からSR-71に命名が変更された[2]。このエピソードは、大統領の言い間違いのせいで空軍が命名変更を指示し、2万1,000枚の図面と書類が修正され、その結果数千ドルの余計な費用がかかったなどという逸話としても広まっているが[3]、ジョンソンの文書を精査した空軍大佐で第9戦略偵察航空団の司令官を務めたリッチ・グラハム(Rich Graham)によると、大統領演説の原稿と録音物では3箇所で正しくSR-71となっていたのに対して、報道陣に配布された発表概要ではこの部分が異なっていたために、速記官がRS-71を聞き間違い書き誤ったためにこのような逸話が生まれたと結論された[4]。
- ^ Landis, Tony R.; Jenkins, Dennis R. (2005). Lockheed Blackbirds (revised edition ed.). Minneapolis, Minnesota: Specialty Press. pp. 56-57. ISBN 1-58007-086-8
- ^ Merlin, Peter W (July/August 2005). “The Truth is Out There... SR-71 Serials and Designations”. Air Enthusiast (Stamford, UK: Key Publishing) (118): 2–6. ISSN 0143-5450.
- ^ ベン・R・リッチ 著、増田興司 訳『ステルス戦闘機―スカンク・ワークスの秘密』講談社、1997年1月。ISBN 978-4062085441。
- ^ Asker, James R. (2001-02-12). “Dyslexic Factoid, Unexplained”. Aviation Week & Space Technology 154 (7): 25.
- ^ “航空機の技術とメカニズムの裏側 (89) 飛行機の燃料(8)燃料をめぐるこぼれ話”. マイナビニュース (2017年10月10日). 2017年10月28日閲覧。
- ^ SR-71 Flight Manual
- ^ 週刊「ワールドエアクラフト」
- ^ “Meet the SR-72”. Lockheed Martin 2014年1月13日閲覧。
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