マグダラのマリア キリスト教美術における表現

マグダラのマリア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/17 05:11 UTC 版)

キリスト教美術における表現

マグダラのマリアは、西欧キリスト教美術においては、聖母マリアと並ぶ重要な登場人物である。聖母は超越的な奇跡的存在であり、多くの宗教画家は最大級に理想化された聖母像をつくった。対して、マグダラのマリアはエモーショナルな存在を象徴する女性として描かれ、聖母とともにマグダラのマリアを常に重要な場面に登場させるキリスト教美術は、そうすることでキリスト教における人間の愛のありようを相互補完的に表した。ただし、東方教会正教会においては、西欧で伝承されたようなマグダラのマリアの解釈の伝統は生まれなかった。

西欧キリスト教美術において

以下、西欧のキリスト教美術における伝統につき詳述する。

概要

16世紀に描かれた絵画
  • 宗教画においてルネサンス以降の宗教画では、聖書の人物によって衣服の色がおおむね定まっており、聖母が青や紺色の衣やマントを着るのに対し、マグダラのマリアは緑色の下衣、朱色のマントを身につける事が多い。多くは豊かな金髪を見せ、高価な油壺を手にする。時代にもよるが、古い15世紀の絵画などでは聖母が赤い衣に暗濃色のマントであることもある。
  • 画題はイエスの受難、すなわち『十字架の道行き』や『磔刑』、『降架』、『ピエタ』、『埋葬』、『磔刑図』、『イエスの復活の場面』の各場面の情景で聖女マグダラのマリアが多く描かれる。
  • 多くの宗教画おいては聖母マリアがイエスに近い構図に、マグダラのマリアはイエスの足もと近くの構図へ配置される。
  • 『イエスの復活の場面』ではマグダラのマリアがイエスと共に画面に描かれる。宗教画家に好んで描いた主題に『ノリ・メ・タンゲレ 我に触れるな』(Noli me tangere)がある。復活したイエスに気付き、マグダラがすがろうとするのをイエスが台詞とともに制する様子(ヨハネ20:17)である。
  • 聖人群像画である『聖会話』などでも他の聖女らの中でそれと判るように、マグダラのマリアはトレードマーク(アトリビュート)である香油壺を手に持つことが多い。幼子イエスを抱く聖母マリアを中心とする聖人群像画『聖母子と聖会話』での主な人物は洗礼者ヨハネであり、周囲の人物にマグダラのマリアが描かれることもある。
『マグダラのマリアの浄化』(ホセ・デ・リベーラ
  • マグダラのマリアのみを描く宗教画は、とくにルネサンス以降の西欧を中心に『マグダラのマリアの悔悛』という主題で多く制作された。晩年の苦行、隠修生活を描いたものでは西欧キリスト教の聖女の中では珍しく肌を露出し、ときに裸身で描かれる(正教会ではエジプトの聖マリアも肌をある程度露出した姿で描かれる)。隠修生活中でしばしば天国に昇り、天使の歌声を聞いていたとして『マグダラのマリアの昇天』という主題でも描かれる。

絵画・最後の晩餐

最後の晩餐』(伊:Il Cenacolo o L'Ultima Cena) はレオナルド・ダ・ヴィンチが彼のパトロン、ルドヴィーコ・スフォルツァ公の要望で描いた巨大な絵画。これはキリスト教の聖書に登場するイエス・キリストの最後の日、最後の晩餐の情景を描いている。ヨハネによる福音書13章21節より、キリストが12弟子の中の一人が私を裏切る、と予言した時の情景である。

小説『ダ・ヴィンチ・コード』はレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』でキリストの右隣には女性らしき性別の人物が座っており、マグダラのマリアではないかとする説を紹介している。

しかし、使徒ヨハネと解釈されてきたこの人物を、髭の無い青年もしくは女性的に描き、金髪で衣装もマグダラのマリアと同じ朱色とするのは、ダ・ヴィンチに始まらず、それ以前からの伝統であり[12]、小説『ダ・ヴィンチ・コード』の記載は適切な解釈ではない。『最後の晩餐』の絵にはキリストと12人が描かれているので、件の人物が使徒ヨハネとして描かれたことはほぼ確かである。

この絵は『ヨハネによる福音書』をもとに描かれている。同福音書には、イエスの愛しておられた弟子がイエスに寄りかかっていたと書かれている (13:23-26)。この「イエスの愛しておられた弟子」(この表現は別の箇所にもみられる)が他の人物である仮説、あるいはマグダラのマリアではないかとの仮説は、ダ・ヴィンチの絵画よりも以前から囁かれており、最近になって明らかになったものでもない。

東欧の正教会美術において

マグダラのマリア(ヴィクトル・ヴァスネツォフ19世紀ロシア

東方のキリスト教におけるマグダラのマリアを巡る事情は西欧とはかなり異なる。

そもそも東方教会・正教会において、イコン以外の美術としての宗教絵画がまとまった形で生まれたのは近世以降にほぼ限定される。イコンにおいては当然の事ながら性的表現・感情的表現は(たとえ技法に西欧的なものが導入されているものであっても)抑制され、マグダラのマリアについてもこれは例外ではない。また、確かにマグダラのマリアは正教会でも篤く崇敬されてはおり、これを元にした世俗絵画も無い訳ではないものの、「生神女(聖母マリアのこと)に続く第二の聖人」と称されてマグダラのマリア以上に崇敬されるのは、エジプトのマリアである。

エルサレムオリーブ山には、マグダラのマリアに捧げられたロシア正教の教会であるマグダラのマリア教会がある[13]




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