黄金の夜明け団 詩人イェイツへの影響

黄金の夜明け団

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/05 05:56 UTC 版)

詩人イェイツへの影響

アイルランド人の詩人・劇作家のウィリアム・バトラー・イェイツは、ノーベル文学賞受賞者で、20世紀の英語文学・現代詩において最も重要な詩人の一人と評価されているが、若い時からオカルティズムに興味を持ち、教団から創作に強く影響を受けた[67]。イェイツは教団でのオカルト実験・儀式の体験を通じて、「イメージは意識や潜在意識よりも一層深い源から湧き上がるものであること、言葉やシンボルはそれ以外では達し得ないリアリティを喚起する力を秘めていること」を学んでおり、彼は自身の象徴的言語が、フランスの象徴主義経由というより、神秘思想家やウィリアム・ブレイク、黄金の夜明け団の「ミスティカル・シンボリズム」から学んだものであると明言している[68]

イェイツは妻のジョージー・ハイド・リーズ・イエィツ英語版を暁の星に入団させている[10]。彼女は自動筆記で精霊によるという秘教的な思想をイェイツに伝え、夫婦はセッションを繰り返し、自動筆記で伝えられた内容が、最高傑作と評される彼のいくつもの詩にインスピレーションを与えた[10]

学術的研究

心霊主義は文化史的な視点からの研究が急速に充実しつつあるが、それに比べ黄金の夜明け団に関する学術研究はそれほど多くない[2]。近年での重要な研究としては、アレックス・オーウェン(Alex Owen)『The Place of Enchantment: British Occultism and the Culture of the Modern』(2004年)や、アリソン・バトラー(Alison Butler)『Victorian Occultism and the Making of Modern Magic: Invoking Tradition』(2011年)がある[2]

一般での人気

その名は学術研究より一般で人気が高く、占い好きには、アーサー・エドワード・ウェイトの「ライダー・タロット」やアレイスター・クロウリーの「トート・タロット」等のタロット・カード通して、ヘヴィ・メタルのファンには、オジー・オズボーンの名曲「ミスター・クロウリー」(アルバム『ブリザード・オブ・オズ―血塗られた英雄伝説』〔1980〕に収録)を通して知られている[2]

日本では1992年-1993年に『黄金の夜明け魔法大系』(国書刊行会、全6巻)が刊行され、イスラエル・リガルディ『黄金の夜明け魔術全書』などの基本文献が邦訳されている[2]

ジュールス・エヴァンスは、黄金の夜明け団のオカルト優生学のミームが、マリオン・ジマー・ブラッドリーの『アヴァロンの霧』、フランク・ハーバートの『デューン』、ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』や 、J・K・ローリングの『ハリー・ポッター』のような後のファンタジー小説に影響を与えた可能性を示唆しており、『デューン』に登場する優生学的に超存在の創造をもくろむオカルト教団ベネ・ゲセリット[注 16]は、黄金の夜明け団系の人々のアイデアに多くを負っているようだと述べている[10]

登場する作品

鎌池和馬とある魔術の禁書目録』(2004年 - ):バトルアクションもののファンタジーライトノベル。科学サイド、魔術サイドといった勢力が存在し、科学サイドにクロウリー、魔術サイドにメイザースが率いる黄金夜明があり、この黄金夜明には、黄金の夜明け団、後続団体の史実の人物が所属しているという設定になっている。

石踏一榮ハイスクールD×D』(2008年 - ):学園ラブコメバトルファンタジーのライトノベル。メイザースらが創設した黄金の夜明け団が登場する。


注釈

  1. ^ 江口之隆は「マサース」、ヘイズ中村は「マザース」、吉村正和は「マザーズ」とカナ表記している。
  2. ^ 原語はラテン語で「Ordo Rosae Rubeae et Aureae Crucis (R. R. et A. C.)」。「紅い薔薇と黄金の十字の教団」の意。澁澤龍彦は「紅薔薇黄金十字」[8]、江口之隆は「ルビーの薔薇と金の十字架」団と翻訳[9]
  3. ^ 一方、この形相の同一性を物質で表現したものが象徴である[20]
  4. ^ アレックス・オーウェンは、生気主義のアンリ・ベルクソンはオカルトには興味を持っていなかったが、彼の哲学と当時のオカルティストたちの世界観が、部分的に類似していることを指摘している[14]
  5. ^ 異教はフェミニストの自己実現の場ともなった[28]
  6. ^ 1884年に社会民主連盟英語版が設立、1885年にはラファエル前派の詩人でアーツ・アンド・クラフツ運動の芸術家ウィリアム・モリスが社会民主連盟から脱退して社会主義同盟英語版を設立した[29]
  7. ^ 英国薔薇十字協会は、秘教的な事柄に関心をもつ少数のフリーメイソン(フリーメイソンリーの会員)によって1866年に結成された[35]。メイソンのみで構成された団体ではあるが、フリーメイソン組織ではなく[36]、メイソンリーに付属する秘教研究会のような存在であった(黄金の夜明け団とは異なり、魔術は研究対象ではなかった)[37]。1870年代から1880年代にかけて、同協会ではいくつかの儀式や、カバラやフリーメイソンの象徴性についての講義などが行われていた[38]
  8. ^ 黄金の夜明け団の「神殿(: temple)」は一般にテンプルと和訳される。フリーメイソンリーなどでいうロッジの代替名である[40]。ロッジはメイソンリーを構成する組織的ユニットであり、第1に「特定の集会所に属する会員で構成される組織」、第2に「その構成員が集会を催す会場(建物)」という2つの意味を併せもつ[41]。元来は建築に従事する石工の設営する仮小屋を指したが、メイソンリーにおいては組織や会合を指す抽象的概念となり、また、その集会所はメイソンリーにとって重要なソロモン神殿の象徴ともみなされた[42]
  9. ^ アンナ・キングスフォードは1884年にヘルメス協会を設立し、東洋の霊性に焦点を当てていた神智学協会と異なり、ヨーロッパの秘教伝統に取り組んでおり、黄金の夜明け団の明らかな先駆者である[7]
  10. ^ すぐに階級を上げたが、短期間で退団[7]
  11. ^ 子どもを病気で亡くし失意のどん底にあったモード・ゴンは、交霊会やヴィジョン、あやしげな超能力者に救いを求め、心配した友人のウィリアム・バトラー・イェイツに説得され入団した[33]。しかし、彼女にとって教団の儀式は興ざめで、会員のほとんどは中産階級の俗さそのものにしか見えず、短期間で退会した[33]
  12. ^ ジュールス・エヴァンスは、メイザースとモイナは性魔術のパートナーであると述べている[10]
  13. ^ ヴィクトリア朝はモラルが厳しく、ホモセクシャルダーウィン進化論から派生した人種退行理論(変質論)と結びつき、イギリス人の男性性を損なうものとしてヴィクトリア朝後期の最大の禁忌となっており、排斥の機運が強かった[51]
  14. ^ 「真の自己」を指す造語[58]
  15. ^ ファーは退団後に神智学協会でエジプトの宗教の研究を行ったが、神智学の神聖なる両性具有という考えとは異なり、神聖なる女性原理を主張し、優生学的フェミニズム英語版のオカルティズムを展開した[60]
  16. ^ 『デューン』に登場する主人公の母レディ・ジェシカは、ベネ・ゲセリットのメンバーである[10]

出典

  1. ^ a b c d e f Gillbert 2009, pp. 448–449.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 浜野 2012.
  3. ^ a b c d e f g h Owen Davies (2023年10月31日). “The Hermetic Order of the Golden Dawn and the Origins of Wicca”. Yale University Press. 2024年5月16日閲覧。
  4. ^ a b 改訂新版 世界大百科事典『黄金の暁教団』 - コトバンク
  5. ^ a b c d e f g h i j k Hermetic Order of the Golden Dawn”. NEW RELIGIOUS Movements. 2024年5月16日閲覧。
  6. ^ a b c d e f Drury 2011.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as at au av aw Denisoff, Dennis (2013年). “Dennis Denisoff, “The Hermetic Order of the Golden Dawn, 1888-1901””. BRANCH: Britain, Representation and Nineteenth-Century History. Ed. Dino Franco Felluga.. 2024年5月16日閲覧。
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  9. ^ 江口 & 亀井 1983, p. 50.
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj Jules Evans (2021年12月11日). “Occult eugenics and the Hermetic Order of the Golden Dawn(オカルト優生学と黄金の夜明け団)”. medium. 2024年5月18日閲覧。
  11. ^ a b c d e 杉山 2019, p. 71.
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m Boissière 2014.
  13. ^ プリンチペ, 菅谷・山田訳 2014, pp. 39–42.
  14. ^ a b c d e f g h i j k l SAMUEL FRANCIS (2004年12月). “The Left-Hand Path”. CHRONICLES. 2024年5月19日閲覧。
  15. ^ a b c d e f g Gillbert 2009, p. 447.
  16. ^ a b c Gillbert 2009, p. 450.
  17. ^ a b c d e f 長谷川 2017, p. 204.
  18. ^ a b 名古 2007, p. 38.
  19. ^ 長谷川 2017, p. 188.
  20. ^ a b c d e f g h i 改訂新版 世界大百科事典『魔術』 - コトバンク
  21. ^ a b c d e f g 梶 2015.
  22. ^ Walter L Wilmshurst. “A Suggestive Inquiry into the Hermetic Mystery Introduction (by Walter L Wilmshurst, 1918)”. Hermetic Library. 2024年6月4日閲覧。
  23. ^ a b c d e f Joanna Baines (2020年2月11日). “Women and Girls in Science: Mary Anne Atwood, alchemical thinker and spiritualist”. Chasing Down Emma. 2024年6月2日閲覧。
  24. ^ Roukema 2020, p. 34.
  25. ^ Zuber 2021.
  26. ^ A Suggestive Inquiry Into Hermetic Mystery by Mary Anne Atwood”. The Rose Books & Obscurities. 2024年6月2日閲覧。
  27. ^ Morrisson 2007.
  28. ^ a b c Denisoff 2021.
  29. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ)『社会民主連盟』 - コトバンク
  30. ^ 精選版 日本国語大辞典『デカダン』 - コトバンク
  31. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p MATHERS, SAMUEL LIDDELL MACGREGOR”. OCCULT WORLD. 2024年5月15日閲覧。
  32. ^ a b c Machin 2020.
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  40. ^ 有澤 1998, p. 37.
  41. ^ 有澤 1998, pp. 276–277.
  42. ^ 有澤 1998, pp. 277–278.
  43. ^ 吉村 2013, pp. 63–64.
  44. ^ 吉村 2013, p. 65.
  45. ^ 江口 & 亀井 1983, pp. 65–66.
  46. ^ 江口 & 亀井 1983, p. 65.
  47. ^ キング & 江口訳 1994, pp. 134–135.
  48. ^ a b Gillbert 2009, p. 448.
  49. ^ Gillbert 2009, p. 449.
  50. ^ a b c d 杉山 2019, pp. 161–163.
  51. ^ 菅原幸裕 (2017年7月18日). “「ジキル博士とハイド氏」「宇宙戦争」「ドラキュラ」など、ロンドンの闇にうごめく、モンスターの系譜 暗くて恐ろしい? 誰にも知られたくなかったイギリスの闇”. MEN’S Precious. 2024年5月20日閲覧。
  52. ^ a b c d e f 杉山 2019, p. 162.
  53. ^ a b c Christopher Sharrock (2020年1月24日). “The Order Of The Crystal Sea, and The Return Of Christ”. medium. 2024年5月21日閲覧。
  54. ^ Mathers, S(Amuel) L(Iddell) MacGregor(1854-1918)”. encyclopedia.com. 2024年5月15日閲覧。
  55. ^ 江口 & 亀井 1983, pp. 93–94.
  56. ^ リガルディー編 & 江口訳 1993b, 訳者解説.
  57. ^ 杉山 2019, p. 72.
  58. ^ a b 吉村 2013, p. 67.
  59. ^ 吉村 2013, p. 73.
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  63. ^ a b c d e f Milbank 2018.
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  65. ^ Phil Hine (2021年2月19日). “Jottings: Edith Nesbit and the Golden Dawn”. enfolding.org. 2024年5月25日閲覧。
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  67. ^ William Butler Yeats”. Britannica. 2024年5月19日閲覧。
  68. ^ 杉山 2019, pp. 72–73.





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