論点先取 関連する誤謬

論点先取

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 00:26 UTC 版)

関連する誤謬

論点先取は循環論法の誤謬と関連している。循環論法では、2つ(あるいはもっと多く)の結論が互いにもう一方を前提としている。すなわち、論旨を追っていくと、ある結論がそれ以前の前提とされていることがわかる。論点先取はもっと単純な1つの論証とその結論だけでも発生しうる。厳密には、論点先取は結論がその直前の前提の一部であることを意味する。しかし、「循環論法」とするべきときに「論点先取」という用語を使っても間違いとは言えない。

論点先取は多重質問の誤謬とも関連している。多重質問の誤謬とは、結論を単に主張するのではなく、(結論を支持する)受け入れられにくい証拠群を提示することに起因する技法の誤謬である。

それの特定の形式として、ある命題をより汎用的な命題の例に還元するというものがあり、後者の命題は前者の命題に比べて真偽がより明らかということはない場合がある。

  1. 殺人を意図した全ての行為は道徳的に悪いことである。
  2. 死刑は、殺人を意図した行為である。
  3. したがって、死刑は道徳的に悪いことである。

この論証の最初の前提を、ある道徳体系内の公理として受容した場合、この推論は健全な論証と言える。最初の前提は結論よりも汎用的であるため、これを公理として認めなければ、全体として単に「死刑は悪いことだ」という主張よりも弱い論証にしかならない。

英語圏における現代的用法

「論点先取」の英訳Begging the questionの動詞begについて、語源はbegger(乞食)と同じく「懇請する」「請い求める」意味であり、Begging the questionなる表現では「論点をはぐらかす」「論点を避ける」意味で利用されている。一方で英語には本来形式ばった表現(宗教・哲学的表現に由来する)としてbeget「~を生じさせる」「(父が子を)こしらえる」なる異なる動詞があり(語源はbe+get)、これを混用し「to beg the question」が間違って「問題を提起する」とか「本当に答えるべき質問」という意味で使われることがある[13]。例えば、次のような使い方である。「今年の財政赤字は5000億ドルである。ここで疑問が生じる(This begs[14] the question)。我々はどうやって予算をつり合わせようとしているのか?」

この混乱の元は、「beg」と「beget」が似ているためと考えられる。「beget」を「to beget the question」という形で使った例として1748年のデイヴィッド・ヒュームの著書『人間知性研究英語版』がある。

This begets a very natural question; What is meant by a sceptic? — Section XII

このような話は、規範文法的な言語学的論争の例である。

脚注


  1. ^ Fallacy: Begging the Question The Nizkor Project
  2. ^ begging the question - Skeptic's Dictionary
  3. ^ Fallacy:Circular Reasoning San Jose State University
  4. ^ beg the question - Definitions from Dictionary.com
  5. ^ 論点先取 懐疑論者の祈り
  6. ^ 『大辞林 第三版』。『哲学事典』「アリストテレスの虚偽論」「虚偽」平凡社、1971年。「論点取の虚偽」とも訳される(近藤洋逸・好並英司『論理学入門』第2部「第5章 虚偽論」岩波書店、1979年、136ページ)。
  7. ^ : Prior Analytics
  8. ^ (アリストテレス 2014, pp. 270–274, 第二巻 第一六章 最初の論点を要請すること(論点先取))
  9. ^ 田中秀央編『増訂新版 羅和辞典』研究社、1966年、58ページ。大日本百科辞書編輯所編『哲學大辭書』「羅和索引」(同文館、1912年→修正三版1918年)3238ページでは「未證點竊取の虚僞」とも。
  10. ^ ギリシア語ラテン翻字: to en archei aiteisthai
  11. ^ : Fowler
  12. ^ 船山信一『明治論理学史研究』理想社、1966年、118・121ページ。
  13. ^ Michael Quinion, Beg the Question, The New York Times, 2008年3月5日閲覧
  14. ^ 本来はbegetsとなる


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