誕生 (尾崎豊のアルバム)
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音楽性とテーマ
本作は生前に発売されたオリジナルスタジオアルバムとしては唯一の2枚組作品となった。アルバムタイトルは当初『永遠の胸』と『誕生』が候補に挙がっていたが、最終的に『誕生』に決定した[22]。尾崎は2枚組全20曲のボリュームとなった事は必然的であったと述べている[13]。3枚目のアルバム『壊れた扉から』(1985年)以降、ブランクが空いた事に関しては充電期間であったと述べた他、コンサートやレコードで自身が希求したものがリスナーに伝わっているのか疑問に思った事が原因であると述べている[23]。なお、尾崎はリリース直前に収録されたラジオで「LAST TEENAGE APPEARANCE」ツアーでした約束をこのアルバムで果たせる」という発言をしている。
また尾崎は本作の制作前に以下のコメントを残している。
結婚したことも、それから子供が生まれたことも、自分が仕事をしていく上で覚えた人間関係を含めて、大切なものとか醜いこととかを自分の中で消化して歌にしていきたいという気持ちです。たとえばひとつひとつの迷いに対して、きちんと答えを出したものを歌っていけたらいい。それはそんなに明確な答えでもないし、もしそれが人生のことを語り尽くしてしまうようなものになれば、もちろん最高だし。そこまで神がかったものになればそれは幸いだけど、まさしく人間の限界や能力の限界みたいなもの、そのあたりがひとつの課題になります。
第一子の誕生に関し尾崎は、「子供ができて、いままで以上に痛みとか、暖かいものを伝えてあげたいと思う気持ちが強くなったような気がしますね」と述べている[5]。またその影響から、本作には結婚や子供の事を題材にプライベートを歌った曲が多く存在し、またアルバムタイトルとしても使用される事となった[5]。またその反面、テロリストを題材とした「銃声の証明」のような社会的な曲も収録されている[5]。尾崎は世の中がテクノロジーの進歩によって人間性が失われていくのではないかと危惧し、音楽業界においても時代によって渇望された優しい歌の制作と、何かに帰属する事でしか存在意義を見出せない者への2極化していくと指摘している[25]。本作の制作後に「LOVE WAY」など一部の歌詞が難解すぎるといった反応があったが、尾崎はそれを聞いてむしろ安堵したと述べた他、補足が必要であるとも述べている[26]。また少しでも理解しやすいものにするため、「LOVE WAY」など一部の曲を英語タイトルにしたとも述べている[27]。須藤は尾崎が従前より自己表現ではなく自己変革を目指していると指摘し、本作において尾崎がプロデュースを手掛けた事でそれがより明確になったと述べている[28]。また須藤は本作に関し尾崎に対して「リアリティがないし、意味も伝わってこない」と伝えたが、そのような混迷した状態を記録として残す事も重要であるとも尾崎に伝えている[21]。
『KAWADE夢ムック 尾崎豊』にて音楽ライターの松井巧は、外国人ミュージシャンによる演奏がジャズ・フュージョンやシティ・ポップ風のセンスを感じさせ、「鋭利な尾崎のボーカルを包み込むかのようだ」と述べた他、「置き去りの愛」に関してはエディ・マルティネスによるリード・ギターがサンタナを思わせるとした上で歌謡ポップス的な完成度を持っていると主張、「COOKIE」はカントリー・ロック調、「レガリテート」はエレクトリックピアノ系のシンセサイザーが煌びやかであると述べた[14]。また同書にて詩人の和合亮一は、「音と言葉にすがりつくかのような、音楽への執着心が、メッセージとして感じられる」と指摘し、過去と決別し歌い続ける事が自由を希求する唯一の方法であると宣言しているかのようであると主張、また前作に続き「愛」を題材にする一方で「人間社会の汚い部分を、より執拗に色濃く攻撃し続ける」内容であり少年の視点は消滅したと述べている[29]。さらに同書にて映画評論家の北小路隆志は、前2作において特徴的であった大胆なアレンジに対する試みがなく、ほぼ全ての曲が安定した展開となっていると指摘、「誕生」に関しても「曲調は健康な"ロックンロール"」であると述べている[29]。音楽誌『別冊宝島1009 音楽誌が書かないJポップ批評35 尾崎豊 FOREVER YOUNG』においてフリーライターの河田拓也は、「LOVE WAY」に関してはデビュー以前のルーツであるフォークソングへの回帰を思わせる、井上陽水のアルバム『氷の世界』(1973年)収録の表題曲のようであると指摘した[30]。
注釈
- ^ 尾崎の初著書となる『誰かのクラクション』(1985年)は見城との共同作業で制作された[6]。
- ^ 1984年の「アトミック・カフェ・ミュージック・フェスティバル'84」における骨折事故により「FIRST LIVE CONCERT TOUR」が9月から12月開始に延期、1987年の「TREES LINING A STREET」ツアーでは急病のため9月に倒れその後約半分の本数を残したままツアー中止となった事などから、各地のイベンターからは要注意人物とされていた[60]。
出典
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