誕生 (尾崎豊のアルバム)
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録音
月刊カドカワ 1990年12月号[9]
本作では尾崎が要望した事から尾崎自身によるセルフプロデュースとなった[10]。初期3作のプロデューサーであった須藤晃はディレクターとして参加しており、約5年ぶりの共同作業となった。須藤は尾崎の移籍に伴い、レコード会社と尾崎との板挟みになった事から精神的に変調を来たして入退院を繰り返していた[11]。しかし見城の話によれば、尾崎本人は須藤が入院している原因が自身の行動によるものであるとは思っていない様子であったという[11]。本作の制作前に尾崎は度々須藤の見舞いに行っており、「早く治して一緒にやりましょう」と声を掛けていた[12]。それに対し須藤は「よし、今度こそ本当にやろう。そのために、曲をいっぱい創っといてくれよ」と返答した[12]。実際に尾崎は90分カセットテープ3本分、40曲近くに上る曲を制作した[13]。
編曲は星勝と尾崎の共同名義。星は井上陽水や安全地帯のサウンド・クリエイターとして活動[13]。尾崎と同じ事務所の浜田省吾のリメイクアルバムのプロデューサーでもある。「15の夜」等を手掛けた初期の尾崎作品のアレンジャーである町支寛二はバッキング・ボーカルのアレンジで参加[14]。演奏陣には、星の率いるプロジェクトの一員である安全地帯の武沢豊、浜田のバッキングバンドで活躍する古村敏比古に加え、ロバート・パーマー、Run-D.M.C.、ミック・ジャガーなどとの共演で知られるエディ・マルティネスや、ピーター・ガブリエル・バンドにも参加していたジェリー・マロッタ、後にセリーヌ・ディオンやミートローフなどの作品に参加するジェフ・ボヴァ、ジャクソン・ブラウン、ジャーニーなどの作品に参加しているボブ・グラウブ、シックのトニー・トンプソンといった海外のベテラン・セッション・プレイヤーを数多く起用している[14]。外国人ミュージシャンの起用は、音楽プロデューサーであり企画制作会社シロ・プランニング代表である川添象郎により、尾崎の楽曲が1960年代のプロテストソングに類似している事やギターのコード進行が単調である事からそのままでは行きづまるとの判断の上で、「ダイナミックなメロディー」で「華のあるアルバム」を目指して決定された[15]。
レコーディングは東京にて2か月間行われた[16]。本来であれば海外でのレコーディングで尾崎を含め少数のスタッフが現地へ移動する所であるが、尾崎が執行猶予中であり出国できなかったため断念された[15]。海外からのミュージシャンは全員アメリカ合衆国から招集され、レコーディング・エンジニアはブルース・スプリングスティーンやダリル・ホール&ジョン・オーツ、ボン・ジョヴィなどの作品に参加した事で知られるラリー・アレクサンダーに依頼する事となった[13]。尾崎は初めて体験したプロデューサーという立場は労力が必要であったと述べたが、尾崎の指示に憤慨し途中で帰ってしまうミュージシャンや泣きながら「ほんとによかった」と述べたミュージシャンもおり、「究極的に言うと、すごくおもしろかった」と述べている[17]。しかし尾崎は所属事務所に対する猜疑心があった事からレコーディング中には険悪な雰囲気が漂っていたという[18]。見城によれば、レコーディングスタジオ内で暴れる事やスタジオミュージシャンとの大喧嘩、自動販売機を殴り手を血まみれにするなどの状態が日常茶飯事となっていたと述べている[19]。またノンフィクション作家である吉岡忍の著書『放熱の行方』においても不機嫌になる事や怒鳴り散らす事、錯乱状態に陥る事などがあり、外国人ミュージシャンたちはプロらしからぬ態度に呆れ果てホテルに引きこもる事態なども発生したと記されている[20]。また須藤はこの時初めて錯乱した尾崎に遭遇しており「あれは、書くべきことがない人間が書くときに陥る錯乱だった」と述べた他、「歌はたくさん書いていたが、あのときの彼にほんとうに歌うべき内容があったんだろうか。歌いたいことがあったんだろうか」と述べている[21]。
注釈
- ^ 尾崎の初著書となる『誰かのクラクション』(1985年)は見城との共同作業で制作された[6]。
- ^ 1984年の「アトミック・カフェ・ミュージック・フェスティバル'84」における骨折事故により「FIRST LIVE CONCERT TOUR」が9月から12月開始に延期、1987年の「TREES LINING A STREET」ツアーでは急病のため9月に倒れその後約半分の本数を残したままツアー中止となった事などから、各地のイベンターからは要注意人物とされていた[60]。
出典
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