定義
自己相関は、学問領域によって定義が異なる。分野によっては自己共分散 (autocovariance) と同じ意味に使われる。
統計学
統計学において、確率過程の自己相関関数 (autocorrelation function; ACF) は、時系列上の異なる点の間の相関である。時刻 t における確率変数の値を Xt とする。ここで、t は離散時間過程の整数でも連続時間過程の実数でもよい。Xt の平均を μ, 分散を としたとき、自己相関関数は次のようになる。
ここで、 は期待値である。分散がゼロであるような場合や無限であるような場合には、この式は適用できない。適用可能な場合、この定義では値の範囲は となり、 は完全な相関を表し、 は完全な反相関を表す。
Xtが定常過程ならば、自己相関関数は、 t と s の差にのみ依存する1変数の関数となる。そのような場合を表す形式として次の定義がある:
ここで k は(タイム)ラグ()を表す。 による正規化を行わない形式もよく使われ、これを「自己相関」とも「自己共分散」とも呼ぶ。長さ の時系列標本 X1, X2 ... Xn について平均と分散が分かっているとき自己相関関数の近似が以下の式で与えられる。
ここで である。
平均や分散が不明な場合、代わりに標本の平均や標本の分散を使うこともできるが、偏った近似になる[1]。
信号処理
信号処理においては、上述の正規化を行わない形式がよく使われる。すなわち、平均を引かず、分散で割らない形式である。平均と分散で正規化された自己相関関数は、自己相関係数と呼ばれることがある[2]。
信号 f(t) について、連続自己相関 Rff(τ) は f(t) とそれ自身の連続相互相関の積分で表されることが多い。ここで τ はラグを表す。
は共役複素数であり、が実関数ならば となる。 は畳み込みである。
離散信号 xn でラグ j での離散自己相関は次のようになる。
これらの定義は二乗可積分あるいは二乗可加算な信号、つまりエネルギーが有限な場合に有効である。永遠に続く信号は確率過程として扱われ、期待値に基づいた別の定義が必要となる。広義定常確率過程での自己相関は次のように定義される:
定常的でない過程では、これらは t または n の関数となる。
エルゴード的でもある過程では、期待値の代わりに時間平均の極限値を使うことができる。エルゴード過程の自己相関は以下のようにも表される[2]:
これらの定義は定常的かつエルゴード的でない過程であっても、周期関数に適用して意味のある結果を得られるという利点がある。
一方、永遠に続く信号について短期間の自己相関解析を行うという方法もある(類似の手法として短時間フーリエ変換がある)。
多次元の自己相関も同様に定義される。例えば、3次元での二乗可加算な離散信号の自己相関は次のように定義される。
信号から平均値を引いてから自己相関関数を求めた場合、その関数を自己共分散関数と呼ぶのが一般的である。
特性
以下では、1次元自己相関の特性のみを扱う。2次元以上の特性は1次元の特性から容易に導くことができる。
- 自己相関の基本特性は R(i) = R(−i) という対称性である。これは定義から容易に証明できる。連続の場合、f が実関数であれば自己相関は偶関数である。
- f が複素関数であるとき、その自己相関はエルミート関数である。
- 連続自己相関関数は原点でピーク値となり、実数値となる。つまり、任意のラグ τ について である。これはコーシー・シュワルツの不等式から導かれる。離散の場合も同様である。
- 周期関数の自己相関も周期的であり、元の関数と同じ周期である。
- 全く相関のない2つの関数(相互相関が任意の τ について常にゼロ)の総和の自己相関は、各関数の自己相関の総和である。
- 自己相関は相互相関の特殊例であり、相互相関の全特性を備えている。
- ホワイトノイズの自己相関は τ = 0 のときにピークが存在し、他の τ では常に 0 となる。これはホワイトノイズの標本群が同じ標本群の時間をずらしたものと全く相関しないことを意味する。
- ウィーナー・ヒンチンの定理により、自己相関関数はフーリエ変換経由でスペクトル密度と関連付けられる。
- 実数値関数において、シンメトリックな自己相関関数は実数のシンメトリックな変換を持つ。従って、ウィーナー・ヒンチンの定理は実数のコサインを使って以下のように定義しなおすことができる。