紅い眼鏡/The Red Spectacles 製作

紅い眼鏡/The Red Spectacles

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/18 14:50 UTC 版)

製作

当初は、声優千葉繁のプロモーション・ビデオを作るという話で16mmフィルムで撮影する500万円規模の作品として1986年1月に企画されたが、徐々に話が大きくなり、35mmフィルム撮影の映画製作にまで膨らんでいた[3][4]。千葉は押井が監督を務めていたアニメ『うる星やつら』の人気キャラクター「メガネ」を演じており、製作したオムニバスプロモーションは『うる星やつら』の音響製作会社、プロデューサーの斯波重治も同社の音響監督であった[3]。本作のプロテクトギアも『うる星やつら』に登場するメガネのパワードスーツが起源である[5]

出演者は主演の千葉を始めとして、『うる星やつら』で共演していた声優やアニメ業界関係者[6]が多く参加。千葉らのスケジュールを考慮し、撮影は土、日、月曜日の深夜を中心に行われたという[7]。スタッフも脚本の伊藤和典など『うる星やつら』の関係者が参加し[8]、その他には日本映画学校の学生を起用した[9]。小道具もスタッフの持ち込みという自主製作映画に近い体制で(安価な小道具の調達、拾い物の活用、ロケ現場の清掃作業、撮影スケジュールに合わせたセット構築など、美術スタッフの作業は過酷を極めた[10])、当初16ミリフィルム撮影で500万円から600万円の予算を予定していたがプロカメラマンを起用して35ミリフィルムで1000万円という話になり[11]、最終的に2500万円になったものの、かなりの低予算で仕上げている。プロデューサーの斯波は自宅を抵当に入れて製作費を捻出し、出演者はノーギャラと一部で言われているが、実際にはギャラを払っている。ただしお願いして通常の出演料の半分の額だったという[12]。大量の眼鏡が出るシーンがあるが、フレームを買う予算も無く全国のファンに呼びかけてフレームの寄付を募った程で、返礼に高田明美デザインの特製ステッカーが送られた。後年冒頭のヘリシーンで殆ど(予算)持っていかれたと制作スタッフがインタビューに応えている[要出典]

事前のアニメ雑誌等での記事では、主人公が着用する特殊強化服のプロテクトギアが前面に出されて、あたかもアクション映画であるかのようであったが[13]、実際には迫力のあるアクションはプロローグのみ、後はその後日談と言う構成[14]、映像はほぼモノクロ、台詞中心のストーリー構成で粗が見えないように夜間シーン中心[7]という節約に勤しんだ演出となった。ジャン=リュック・ゴダールの『アルファヴィル』と鈴木清順の『殺しの烙印』、ウォルター・ヒルの『ウォリアーズ』が参考にされている[4]。さらにアニメ監督である押井守らしく、事前に絵コンテを描き、それにあわせて役者が演技する形になっている[15]

学生時代には映画青年で8ミリフィルムで実写の自主制作映画も作っていた押井は、これを機に実写方面にも表現の幅を広げることになった。ちなみにこの方法はアニメ・実写問わず形を変えて度々使用することになり、押井の弟子と言われる神山健治のテレビアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』にも引き継がれている。

音楽には斯波重治により川井憲次が起用された[16]。その理由は、低予算でも多彩な音を作れるという事情によるものであったが、以後の押井作品には欠かせない存在となる。

その川井が作曲したメインテーマ曲「The Red Spectacles」は、1989年から新日本プロレスに参戦したサルマン・ハシミコフを始めとするソ連出身の格闘家のレッドブル軍団、1998年から総合格闘技イベントPRIDEに参戦したウクライナの格闘家イゴール・ボブチャンチンの入場曲に採用され、本作を見たことのないプロレスファン・格闘技ファンにもお馴染みとなっている[17]

主なロケ地

  • お台場(13号埋立地) - 紅一がヘリで逃亡するシーン。当時はほとんど何もない空き地であった。
  • 山形空港 - 山形県東根市。撮影当時東京サミットが開催され羽田、成田両空港の警備が厳しく撮影は不可能であった。そこで「トキワ館」ロケの際利用した山形空港が空港ロケの地になった。背後に映る航空機は全日空の羽田-山形線で、当時は山形新幹線開業以前とあって、全日空路線の中でも高い搭乗率を誇っていた。
  • キネカ大森 - エレベーターのシーン。本作が公開された劇場で西友大森店内にある。メインスタッフ、キャストによる舞台挨拶が行われた。
  • トキワ館 - 山形県上山市にあった伊藤和典の実家の映画館。1990年代に閉館。2021年に建物が解体され現存しない。
  • 新百合ヶ丘駅 - 冒頭の空港内からタクシー乗り場まで。文明が紅一を追うシーンの印象的な螺旋階段やタクシー乗り場は今でも健在だが、植え込みが育っていたり開発が進んだりしており多少印象は異なる。
  • 愛国工業工場跡 - 違法立ち食い蕎麦屋、拷問室、蒼一郎の部屋など。東京都小平市にあった。跡地はエコス小平店(現TAIRAYA小平店)となっている。
  • オリエンタルホテル- 紅一が宿泊したホテルで、作中では波止場通りを左に曲がった港町十三番地にあるという設定。文明配下の部隊の襲撃を受けるが撃滅。神奈川県横浜市石川町駅近くの大丸谷坂にあった。もと船員相手の「チャブ屋」とよばれた宿泊施設。『あぶない刑事』などテレビドラマの撮影にも頻繁に使用されていたが、1990年代初めに廃業。

  1. ^ ほぼ同時期の1987年4月24日から5月15日までシネマスコーレにおいて上演されている。撮影に使用されたプロテクトギアの展示やグッズの販売もあった。シネマスコーレ過去の作品集 1987年の上演作品”. シネマスコーレ. 2011年7月19日閲覧。
  2. ^ オープニングのバックに記される年表で、反乱があったのは1995年とされている。
  3. ^ a b 『B-CLUB』Vol.16、バンダイ、1987年、p.20
  4. ^ a b アニメージュ編集部編『ロマンアルバム イノセンス押井守の世界 PERSONA増補改訂版』2004年、徳間書店、p.114 ISBN 978-4197202294
  5. ^ 押井守『映像機械論メカフィリア』大日本絵画、2004年、p.23 ISBN 978-4499227544
  6. ^ 漫画家のゆうきまさみ、メカニック・デザイナーの出渕裕がエキストラで参加。
  7. ^ a b 『ロマンアルバム イノセンス押井守の世界 PERSONA増補改訂版』p.115
  8. ^ 『映像機械論メカフィリア』p.36
  9. ^ 「じんのひろあきインタビュー」『前略、押井守様。』野田真外編著、フットワーク出版、1998年、p.109
  10. ^ 『B-CLUB』Vol.11、バンダイ、1986年、p.67
  11. ^ アニメージュ編集部編『ロマンアルバム イノセンス押井守の世界 PERSONA増補改訂版』2004年、徳間書店、p.114
  12. ^ 『まんだらけZENBU』61号、まんだらけ出版、2013年、p.221。斯波重治インタビューより。
  13. ^ 渡辺隆史、井上伸一郎「対談 編集長が覗いた押井守の奇妙な世界」『キネ旬ムック 押井守全仕事 増補改訂版 「うる星やつら」から「アヴァロン」まで』キネマ旬報、2001年、p.70 ISBN 978-4873765600
  14. ^ 肝心のプロローグと本編の間は映画『ケルベロス-地獄の番犬』で描かれる。
  15. ^ 『ロマンアルバム イノセンス押井守の世界 PERSONA増補改訂版』p.53
  16. ^ 『ロマンアルバム イノセンス押井守の世界 PERSONA増補改訂版』p.54
  17. ^ 杉江松恋「第七章 固有戦略論 押井守作品ファイル 紅い眼鏡」『押井守論』日本テレビ、2004年、p.253
  18. ^ 山崎健太郎 (2024年4月30日). “押井守実写デビュー作「紅い眼鏡」、4Kデジタルリマスター化プロジェクト開始”. AVWatch. https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1588220.html 2024年5月18日閲覧。 
  19. ^ 『ロマンアルバム・エクストラ 天空の城ラピュタ』徳間書店、1986年
  20. ^ これらのあとに、押井作品のキャラクターが相互の人間関係に「ふみこまない」ことへの不満を述べ、「押井さんの登場人物が他者に手をさしのべ、ウソッパチでもその時だけの真情でも、気まぐれでもいいから、他人と泥くさいかかわりをジタバタする作品こそ、ぼくは観たい」と続けている。
  21. ^ 押井守『すべての映画はアニメになる』徳間書店、2004年、p.393 ISBN 978-4198618285
  22. ^ 原口正宏「押井守検証インタビュー」『前略、押井守様。』野田真外編著、フットワーク出版、1998年、p.346 ISBN 978-4876892853
  23. ^ ラジオドラマ






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