確率 概要

確率

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/12 19:45 UTC 版)

概要

確率は現在では数学の一概念であり、確率論として組合わせ数学解析学と深くかかわりのある数学の一分野と認識されている。元々は、賭博における賞金の配当率を求める過程で考案されていった[1]。確率を求める問題では、起こりうる結果が同様に確からしい場合と、起こりうる結果が無数にあり、解析学を利用して考察する問題、ベイズ確率のように、統計学的な観点で確率を考察する問題に大別される。

日本における用語の歴史

日本においては、確率論明治になって陸軍の射撃教程として伝えられた[2]。ただし、日本最初の確率の本は『公算学・射撃学教程』(陸軍砲兵射撃学校、明治24年(1891年))であり、フランス陸軍の射撃教程にある: probabilité は日本語では当初は「公算」と訳された。この本では現在でも使われている「事象」「独立」などが用いられている。

数学用語の第一人者である藤沢利喜太郎は、1889年(明治22年)の『数学用語英和対訳字書』で、英語の probability を「確からしさ」と訳している。1908年(明治41年)の、数学書として初の確率論の本である『公算論(確カラシサノ理論)』(林鶴一、刈屋他人次郎)では、「確からしさ」では長いし、「蓋然率」「確率」などの新語も一般には通じにくいから、慣れている「公算」を採用した、という旨が冒頭に記されている。

後に林は、東京物理学校雑誌第433号(1927年(昭和2年)12月)の『公算論上ノ二ツノ古典的問題』の中で、次の旨を述べている:

「公算の公は公平の公であって公算は平均算という意味である。最近では確率が使われている。私の中等学校教科書でも確率を採用している。確率の上下に語を付けるととても発音しにくい。公算は残しておきたい」

他にも「蓋然」「適遇」「近真」「多分さ」等の候補があった[3]

1926年に「確率」を初めて冠した本『確率論』(渡辺孫一郎、文政社)が登場し、1928年(昭和3年)に『確率論及其ノ応用』(亀田豊治朗、共立社)などが出版され、この頃から「確率」という訳語が定着するようになる。つまり、「確率」という用語が巷に登場するようになるのは昭和になってからである。

首都大学東京で経営科学を専門とする中塚利直教授は、藤沢利喜太郎の訳語であると推定している[4]中国語では「概率」、「機率」または「或然率」と訳している。

歴史

16世紀のジェロラモ・カルダーノなどによって初等的な確率の計算は行われてきたものの、確率論という理論が誕生したのは17世紀、ブレーズ・パスカルピエール・ド・フェルマーの往復書簡に始まる[5]。その後、クリスティアーン・ホイヘンスが研究を進め[6]ヤコブ・ベルヌーイ大数の法則を証明し[7]アブラーム・ド・モアブル正規分布を発見する[8]など理論は徐々に進展していき、19世紀初頭にはピエール=シモン・ラプラスによってこれらが体系化され、古典確率論が完成した[9]

20世紀に入ると、アンドレイ・コルモゴロフが『確率論の基礎概念』(1933年)において公理的確率論を確立した[10]


注釈

  1. ^ マックス・ボルン宛の1926年12月4日付の手紙 原文:: Die Quantenmechanik ist sehr achtunggebietend. Aber eine innere Stimme sagt mir, daß das noch nicht der wahre Jakob ist. Die Theorie liefert viel, aber dem Geheimnis des Alten bringt sie uns kaum näher. Jedenfalls bin ich überzeugt, daß der Alte nicht würfelt.(直訳:量子力学にはとても尊敬の念を抱いています。しかし内なる声が私に、その理論はまだ完璧ではないと言っています。量子力学はとても有益なものではありますが、神の秘密にはほとんど迫っていません。少なくとも私には、神はサイコロを振らないという確信があるのです。)

出典

  1. ^ a b c ラプラス 1997, 解説.
  2. ^ 片野善一郎『数学用語と記号ものがたり』裳華房、2003年8月25日。 
  3. ^ 松宮哲夫「確率という用語の由来 : その発案者と定着の過程 : 佐藤良一郎先生の思い出に捧げる」『数学教育研究』第21巻、大阪教育大学数学教室、1992年、103-109頁、ISSN 0288-416X 
  4. ^ aサロン(記者ブログ)_科学面にようこそ_藤沢利喜太郎 生誕150年 [リンク切れ] 中塚は、当時の保険学関係の雑誌に、大学内で「確率」と決定した旨の藤沢からの通知文が載っていたことなどから、「藤沢に端を発した訳語」と考え、自著『応用のための確率論入門』で解説している。
  5. ^ 『歴史と統計学 人・時代・思想』p.94 竹内啓 日本経済新聞出版社 2018年7月25日第1刷
  6. ^ 『歴史と統計学 人・時代・思想』pp.97-99 竹内啓 日本経済新聞出版社 2018年7月25日第1刷
  7. ^ 『歴史と統計学 人・時代・思想』p.101 竹内啓 日本経済新聞出版社 2018年7月25日第1刷
  8. ^ 「歴史と統計学 人・時代・思想」p.105 竹内啓 日本経済新聞出版社 2018年7月25日第1刷
  9. ^ 『歴史と統計学 人・時代・思想』p.128 竹内啓 日本経済新聞出版社 2018年7月25日第1刷
  10. ^ 「歴史と統計学 人・時代・思想」p.349 竹内啓 日本経済新聞出版社 2018年7月25日第1刷
  11. ^ JIS Z 8101-1:1999, 1.1 確率.


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